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第35話 帰り道、森の鍛冶屋は少しだけ黙る
町を出てからの道は、行きより静かだった。
村へ向かう荷車の車輪は同じ音を立てている。空も同じように高い。畑も水路も行きに見た通りだ。だが、頭の中にあるものが違うせいで、景色まで少し違って見える。
ミレナは珍しく、あまり喋らなかった。
俺が考え込んでいるのが分かるのだろう。空気を読む時は読むらしい。いつもこうなら少しは楽なのに、と思わないでもない。
俺はずっと、町で見たことを反芻していた。
村の工房へ戻ったら、まず何を試すか。
包丁か。
それとも柄の角度か。
細工刃の抜けも面白い。
町鍛冶の流れを、自分の工房でどう噛み砕くか。
そう考え続けていると、歩いている時間が妙に短く感じる。
そして、森の入口が見えた瞬間、不思議なくらい肩の力が抜けた。
ああ、戻ってきた。
そう思った。
町は面倒だった。人も音も多すぎる。だが、そこで見たものは確かに大きかった。そして、その大きさを受け止める場所が、今はこの森にある。
それをはっきり感じた時、胸の奥に静かな安堵が落ちた。




