第34話 町で得たのは注文書より厄介なもの
帰る前に、ミレナは荷車の上へ布包みをいくつか積み直していた。
「これ、頼まれた分」
「増えてるじゃないか」
「少しだけ」
「少しじゃない」
「町基準だと少しよ」
「その基準が嫌いだ」
包みの中には、料理人の包丁、小さな細工刃、柄の相談がある小刀などが混じっている。数としては多くない。だが、種類が増えた。つまりそれだけ、持ち帰る課題が増えたということだ。
俺は荷車の脇へ立ったまま、町の方をもう一度見た。
食堂街の包丁。
町鍛冶の流れ。
見習いの迷い。
村とは違う仕事の速さ。
頭の中にはすでに、試したいことがいくつも浮かんでいる。
柄の長さ。
重心の逃がし方。
刃の抜け。
数をこなすための流れ。
村の仕事へどう持ち帰るか。
「注文書より厄介な顔してるわね」
ミレナが言う。
「何だそれは」
「依頼より先に、考えることの方が増えてる顔」
「……そうかもしれん」
「収穫ね」
「面倒の種だ」
「でも持って帰るんでしょう?」
「……たぶんな」
否定しきれない。
町へ来て得たのは、依頼だけではない。むしろ依頼以上に、考える材料の方が大きかった。これは工房へ戻って、火の前で一つずつ試したくなる類のものだ。
つまり、俺はもう町の経験を工房へ持ち帰るつもりでいる。
それを認めた時点で、今日の外出はもう十分以上の意味を持っていた。




