第30話 村と町、どちらが上でもない
町の中を歩きながら、俺はずっと考えていた。
村の女将の包丁。
ガロの斧。
畑の鎌。
雨の日の戸板の金具。
そして、町の料理人の包丁。
町鍛冶の大量仕事。
見習いが作った細工刃。
やっていることは全部、鍛冶だ。だが、そこに求められるものはずいぶん違う。
「難しい顔してる」
ミレナが言う。
「そう見えるか」
「見えるわよ。考えごとの時はちょっとだけ人相がましになるもの」
「褒めてるのか?」
「半分くらいは」
腹立たしいが、完全に無視するほどでもなかった。
「村と町は違う」
俺が言うと、ミレナは「当然ね」と返した。
「だが、どっちが上でもない」
「そう思ったの?」
「ああ」
「へえ」
ミレナは少しだけ真面目な顔になる。
俺は言葉を続けた。
「村は生活の近さがある。使うやつの顔がすぐ見える。そのぶん、一つひとつが暮らしに直結してる」
「うん」
「町は速さと量だ。止めないことが価値になる」
「そうね」
「だから、正解も違う」
「……」
「村の包丁をそのまま町に持ち込んでも駄目だし、町の仕事の回し方をそのまま村へ当てても合わん」
言いながら、自分の中でも少し整理がついていくのが分かる。
町へ来る前までは、町というものをなんとなく「村より大きくて、面倒な場所」とだけ見ていた。だが実際に中へ入ってみると、それだけではなかった。町には町の合理がある。村には村の密着がある。鍛冶屋として見るなら、どちらにも違う価値がある。
「……それで?」
ミレナが聞く。
「それで、持ち帰る価値はある」
「何を?」
「考え方をだ」
町の料理場の速さ。刃の流れ。量に耐える重心。
村へそのまま持っていくのではなく、工房へ持ち帰って試してみたい。村の台所へ合うように、村の畑へ合うように、少しずつ変えてみたい。
そう思った時点で、もう今日の外出は「見るだけ」以上のものになっていた。
いや、まだ注文を大々的に受けるつもりはない。ないのだが、持ち帰る課題ができてしまった以上、それを無かったことにもできない。
「やっぱり来てよかったんじゃない」
ミレナが言う。
「……面倒は増えた」
「でも収穫もあった」
「否定はしない」
その返事に、ミレナは少し満足そうに笑った。
俺はまだ町のことが好きではない。人の多さも、音の多さも、正直苦手だ。けれど職人としては、この違いを知れたのは大きい。
そう認めるくらいには、もう今日の町は無駄ではなくなっていた。




