73話 302高地
東暦7029年7月27日
「オリヴァント王国はドルツィオ帝国軍のワープホールの使用を許可せず」
この九つ目の勢力圏で一番の新聞局である、スペースメディア社が発表したこの情報は、ヴァルキリアとドルツィオの両国のトップに、異なる見えない電撃を与えた。
「なんなんだ!これでは、艦隊を遠回りさせなければならないではないか!!!!!!!!!!!!」
ドルツィオは、トラキアが周辺諸国に圧力をかけたことにより、どこの国からもワープホールを使用できなくなり、存分に怒り狂ったそうだ。
それに対してヴァルキリアは。
「よっしゃ!!!!!!!!!!!!!!!!!! よくやったぞカリウス!!!!!!!!!!!!」
もう狂喜乱舞。
このような奇跡の情報は、俺達の精神を高揚させるには十分すぎるとんでもない代物だった。
結果、ドルツィオ帝国の本国艦隊は、こちらに来るまでに七十日かかる予定だったものの、倍の百五十日という日程を要すこととなった。
更に、補給を他国からの売買で行おうとしていたため、なんとか食料品は買えたもの、燃料の販売は断られ、粗悪な燃料のままヴァルキリア軍と戦うこととなるのであった。
だが、この出来事に一番驚き、なおかつ一番絶望した人間は、あの時ジュリョン軍港で包囲されていたドルツィオ帝国軍であっただろう.......................
「提督、艦隊はいつ出せますか...........?」
疲れ切った顔で恐る恐る同じ席に座るカカロマフ提督に問いかけたのは、このジュリョン軍港を取り囲むジュリョン要塞の司令官である、ステリセリ中将である。
この時、ジュリョン要塞の上層部は、この時すでにかなりの絶望的な空気が漂っていた。
包囲され、補給も届かない中、頼みの陸軍は大損害を負い、本国艦隊は来るまでに倍の日数を要すこととなっていた。
俺だって、そんな状況になったら絶望することしかできないだろう.....................
「あと一ヶ月もすれば、なんとか出撃することができるでしょう..................... しかし、燃料と弾薬が足りなすぎる.....................」
老提督は、悲痛な表情でそう言った。
「とりあえず、このことは箝口令を敷きましょう.................. ただ.........」
中将が続けて何か言おうとした瞬間、司令部内に大きな振動が伝わった。
そして、間をおかずに一人の兵士が急いで入ってきた。
「閣下、また敵の砲撃が始まりました!!」
その言葉に、ステリセリ将軍は残っている活力を口に集中させた。
「またか、次はどこだ!!!!!」
「302高地です!!!!!!!!!!」
この日の五日前、ヴァルキリア軍第四軍の司令部は、とある会議で大荒れになっていた。
「攻撃目標を302高地へ変更する」
会議が始まり、最初に重い口取りを開いたのはギノー将軍だった。
こちらも、時間的余裕はあまりなく、対してジュリョン要塞の中と変わらない雰囲気だったのだ。
「なんですと?」
その言葉を聞いた司令部の幕僚からは、次々とそのような言葉が浮かび上がってくる。
「我々は、敵の艦隊が復活する前に要塞を落とさねばならない......................... そのためには、もはや、あの要塞の中を直接攻撃するしかない.............. どうか、頼む...............」
大量の犠牲を二回の総攻撃で払っておいて、司令部の幕僚たちが納得するはずがない。俺は、そう思いつつも、国王として、なんとか皆を説得するしか無かった。
だが、俺の予想に反し、司令部の人間は予想外の反応で応答してみせた。
「わかりました..................」
当時の俺からしたら、このようなことを受け入れてくれたのは、よくわからなかった。
だが、今になってよくよく考えて見れば、みんな俺より自分の役割を理解していたのだろう.................. 自身の感情を殺して。
次の日から、準備は始まった。
302高地というのは、ジュリョン軍港内を一望できる高さの高地であり、俺達はそこを観測点とし、ミサイルによる直接攻撃をするという計画であった。
そして7月24日から、作戦通りに自走砲による、攻撃地点を敵に悟らせぬための準備砲撃が開始された。
その砲撃は、苛烈では無かったものの、ドルツィオ帝国軍はかなりの対応を取らざるを得なかったそうだ。
そして、7月27日
ヴァルキリア軍は302高地への総攻撃を開始する。
それは、かつてないほどの死闘の地となることとなる...............................
そしてここから、伝説は始まるのだ..............................




