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帝国のつくり方  作者: ムックk
建国編
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72/74

72話   ドッカンバルク事件

 東暦7029年7月23日

 ちょうど俺がガスターによる地獄の訓練を受けさせられているこの時、戦場あるトウキョク星域から遥か離れた、トラキア王国の首都であるコッツウォルズの王宮では、再びパウルと、今回初めて故郷に帰るカリウスが赴いていた。

 二人の目的は一つ、「こちらに向かってきている敵の本国艦隊の進路を止める」それだけのことだ。

 開戦前の見積もりでは、敵の本国艦隊がトウキョク星域に襲来するまでに約百日。

 しかし、この時の時点で敵艦隊がこちらに襲来するまでに約七十日となっていた。

 トラキア王国の艦隊が強大で牽制しなければならない都合上、出撃した敵の本国艦隊は当初の見積もりの四分の三ほどだが、それでもなお強大すぎた。

 それと敵の前線部隊を合流させないために、この時ジュリョン軍港への攻撃を行わせていたものの、強大な要塞の力を前に、二回とも総攻撃が失敗。

 そんな状況の中、敵が来るまでにわずか二ヶ月ちょっとの期間であの要塞を攻略するというものは”至難の業”と言っていいほどである。

 そこで、本国に残っているカリウス達文官が提案してきたのが、「トラキア王国に敵艦隊の入国を阻止してもらい、妨害してもらう」という内容だった。

 これが成功した場合、敵艦隊がこちらにくるまでの時間は、七十日から一挙に百五十日という期間に伸びる。

 当時の俺達からしたら、”成功すれば”奇跡に近い代物だった。

 ただし、当然そんな無理難題をトラキア王国が承認するとは思えなかった。

 当時、トラキア王国に「講話条約の仲介をしてもらう」という密約はなんとか取り付けたものの、それはたまたまであり、本来ならば、こんな出来立てほやほやの国家など話の場にも乗せてもらえないものだ。

 しかしなぜか、このときもトラキア王国は、俺達の話を聞いてくれたのである。


 「さて、敵の艦隊を足止めしろとのことだったな?」


 威厳を誇示するための装飾で華美に飾られた王宮の謁見室内に、トラキア王国の国王であるルーキル八世の声が静かに響き渡る。

 トラキア側の人間は、前回と同じようにルーキル八世と近衛兵らしきゴツい衛兵だけであったが、ルーキル八世の声質からして、このときは明らかに雰囲気が違ったそうだ。

 なにより、カリウスが心の中で、国王の隣に立っている衛兵から異常なほどの不気味なオーラがでていたことに焦ったそうだ。

 だが、宰相という国のナンバー2という立場のカリウスは、こんなところでビビって退くわけにはいかない。


 「はっ、左様です!」


 その言葉に、国王は不快だと思う気持ちを隠すことなく、存分に顔と言葉に出してきた。


 「ふざけたことを言うのも大概にしろ、なぜ貴様らのような格下の言うことを聞かなければならないのだ? 増長するのもいい加減にしろ」


 それを聞いているカリウスは、パウルいわくなぜか笑っていたそうだ。


 「わかりました.................... では、近々情勢が変わりましたら、またお伺いさせてもらいます」


 こうして、カリウス達は王宮を去った。

 

 「カリウス様、引き下がって大丈夫なんですか? なにか考えがおありだとは思うのですが」


 それを聞いたカリウスは、またも笑う。


 「近々、トラキアとドルツィオの双方を揺るがす大事件が起きるはずです、その時まで待てば、必ずトラキアはこれを飲む、いや、飲まざるを得ないでしょう」




 東暦7029年7月24日

 トラキア王国付近のドッカンバルクという宙域において、トラキア王国の宇宙クジラを捕まえるための漁船団は、普段通りの漁を行っていた。

 そこへ、たまたまトウキョク星域に向かうドルツィオ帝国軍の本国艦隊が通ってしまった。


 「提督、戦艦ポロツクから入電です、我、敵駆逐艦から追跡されつつあり、とのことです」


 5時48分、旗艦である戦艦アドミラルにそのような通信分が送られてきた。

 

 「やはりこちらの方まで来ていたか! 我が国のエージェントは優秀だな!」


 艦隊司令官であるヴェントリー提督は、それを聞くなり、自信満々にそう言いはった。

 四十にして大将という高い位を得た彼は、どちらかと言うと冷静ではないタイプであり、いまひとつ指揮官としては能力不足の人間であった。


 「閣下、ここはトラキア王国の領域の近く、いささか敵と断定するには、まだ情報が足りないと思われます................」


 艦隊の幕僚からそのような言葉が次々と放たれるが、彼は自分の意見を押し通す。

 決断力だけは良い男だったのだが、やはり、こうして振り返ると、指揮官としては向いてない男だったとつくづく感じさせられるものだ....................


 「”宇宙霧”にまぎれて敵が先制攻撃をしてきたらどうする!? 脅威は早めに潰して置かなければならん!」


 そう言うと、彼は全艦に戦闘準備を命じた。 


 同日6時2分

 宇宙霧でまだ敵と思われている艦隊の詳細が分からないまま、ドルツィオ帝国軍の戦艦クニャージとポロツクは砲撃を開始した。

 その後は、一方的な虐殺であった。

 結果としては、漁船の八隻の内、五隻が撃沈、二隻が大破、まともに生還したのはたった一隻のみだった。

 死者は、六十七人。

 トラキア王国の建国記念日に発生したこの凄惨な事件は、当然のようにトラキア王国の世論を激昂させるには十分すぎるものだった。

 またたく間に広がったこの事件を、メディアは民衆を煽り、民衆は各地でデモを行った。

 



 二日後の7月26日

 この日、ルーキル八世はカリウス達を王宮へ呼び出した。


 「貴様らの提案、飲むことにした」


 カリウス達が再び謁見室に、入ったとき、国王の口から開口一番に言われた言葉はその言葉だった。


 「この三日でこんなにも情勢が変わるとは思っていなかったが.................. まあ、こんなことになったからには、世論のためにも貴様らの言うことを飲まんとな.................... 」


 それを聞いたカリウスは、喜びたいことを必死に堪えて、表情を崩さずに口を開く。


 「ありがとうございます.................. これで、我が国が勝てる確立が上がります..............」


 こうして、ヴァルキリアの命運をかけた成功しないと思われていた交渉は、たまたま発生した奇跡のおかげでなぜか成功した。




 「まて!」


 交渉が終わり、カリウス達が部屋を出ようとした時、いきなり国王からでたことが無かった力強い声がカリウスたちを引き止めた。


 「なんでしょうか?」


 「貴様、未来を見たか?」


 その言葉は、当時のカリウスからしたら、「なんのことだろう?」と、思ったことだろう。 


 「いや、見てません。 そんなことが出来たら、我が国は戦争に勝っていますよ...................」


 それを聞いた国王は、自分の予測が外れたのか、少し表情を変える。そして、新しい話題を提示した。


 「じゃあ、貴様は時間に関連する魔法を持っていたりするか?」


 「持っています」


 カリウスは、ためらうことなく即答した。

 「自分の持っている魔法を簡単に教えてはだめなんじゃないか?」そう思うかもしれないが、科学技術が発展したこの世界では、宇宙での艦隊どうしの戦闘で覇権が決まってしまうような世界なので、魔法というのは、あまり交渉に使えるようなものではないのだ。

 まあ、”一部の魔法”を除いてだが.........................


 カリウスの一言を聞いた国王は、表情を笑顔に変える。


 「ほう、ならば見せてみろ。すこし興味がある....................」


 それを聞いて、口を開いたのは、パウルだ。


 「なんか怪しくないですか?」


 小声のその問いに、カリウスは楽天的な解答をする。


 「まあ、大丈夫でしょう............. それに、今後のためにも我々の印象を良くしておかなければいけませんし」


 パウルにそう言うと、カリウスは物を少しだけ止める魔法を発動した.........................




 「ついに現れたか..................」


 カリウス達が退出した後の謁見室では、ルーキル八世と、隣に立って話を聞いていた衛兵が話をしていた。


 「ええ、おそらく奴らの国王の持っている魔法も、”空間の魔法”と言っていいでしょう................ 無論、あのカリウスとか言うやつと同じく、目覚めているとは思いませんが......................」


 それを聞いた国王は、表情を笑いの表情へと変える。


 「そうだ、まだまだひよっこだ! だが、そんなひよっこがお前の弟の封印を解いただけでなく、部下として従えているのは、いささか面白いのもだな」


 それを聞いた衛兵は、紺色の藍色の髪を一度手で払うと、ため息をつきながら話をする。


 「あいつは変人すぎる、だから封印したのです............ あんな奴、この国に来たあの時に、命令をくだされば、いつでも殺しましたのに、いえ、封印ですか................」


 それを聞いたルーキル八世は、高らかと笑い声を上げながら話を続ける。


 「ハッハッハ! 実の弟だろ、そんなことを言うな!」


 「最後に会ったのは七千年以上も前のことですから、いまさらなにも思いません................」


 「ふっ、”大魔族”はやはり面白い考えを持つもんだな!」


 だが、それを言ったあと、国王の雰囲気がガラリと変わる。


 「だが、このまま行けばドルツィオは確実に負けるな..............」


 「ええ、しかし、我々としてはあの二人が魔法を覚醒させなければ、問題はありませんですがね.............」


 衛兵は冷静にそう言い捨てる。


 「まあ、奴らがドルツィオを打ち負かした日に備えて準備しておこう、頼りにしているぞ、ガスリード」


 当時の俺達が知らない間にも、世界は確実に”なにか”に向けて動いていたのだ。




 


 

 

宇宙霧というのは、現実の世界の霧と同じです。この世界では、宇宙空間でも霧が発生します。

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