74話 伝説は始まった
東暦7029年7月27日午前6時30分
数日間にわたる、攻撃地点をカモフラージュをするための周到な準備砲撃の解答を突きつけるように、ヴァルキリア軍三万五千名は、準備砲撃の中、来たるべき突撃に向けて塹壕内で息をひそめていた。
無論、俺やガスターも敵魔装兵が出てきた時に備えて、塹壕にて突撃前の緊張に十二分に浸っていた。
後に、この突撃に従軍したとある兵士は、後年、このときのことをこう語っている。
「いやー、あの突撃の前は、ほとんど死んでいるような間隔でした............ いくら準備砲撃で攻撃地点を撹乱しているとはいえ、前の二回の突撃でめっちゃ死んでるんですよ............. ですが、そんな気持ちを晴らすため、閣下、そして皇帝陛下............. いや、あのときは国王陛下でしたか........ お二人は、とんでもないことをやってくれました.......................」
突撃が開始される10分前、俺は塹壕で隣で様子を見ていたギノー将軍が、なぜか、ヘルメットを被ったり、腰に戦闘用の長ナイフを腰につけている光景に、思わず声を出さずにいられなかった。
「将軍、どうしたのですか? その、腰にナイフをつけたり............?」
すると、将軍は笑顔でこう言い放った。
「私も突撃するので、準備しているんですよ」
「は?」その言葉を聞いた瞬間、俺が心の中で.......... いや、口からこぼれ出てしまった言葉は、ただその一言だけであった。
「おやおや、そんなに驚くことですか?」
将軍は、なおも平然と笑いながら話を続けている。
「いやいや、将軍は第四軍の最高司令官なのだから、ここで見ていてください!!!!!」
俺は、俺の中でと言うか、どこの軍隊でも常識だと思うことを、そのまま口に出した。
すると、将軍はいつもの穏やかそうな顔とは違い、すこし不満げなような顔を表情を顔に出した。
当時の俺は、普段から穏やかな顔で、不満などをガスターやワーグナーのように表情に出すこと無かったギノー将軍の様子を見て、いささか驚かされたものだ。
「グレース様、我が第四軍は、すでに二回の総攻撃によって、かなりの損害を出しました............. そんな地獄に、ロボット達はついていきますが、他の兵士たちはついてくるわけがありません............. そんな時、上官が一番最初に走ることによって、兵士たちは死地に赴くのです!!!!!!!!! どうかやらせてください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
辺り一面に響き渡るギノー将軍の力強い声、あの光景には、その場にいた者、全員が驚いただろう。
その気迫に、俺は当然の如く驚くしか無かった。
「グレース、爺さんの言うとおりだ、やらせてやれ」
そう言って会話に割り込んできたのは、隣で会話を見守っていたガスターだ。
「こんな危険すぎるところに将軍を突っ込ませられるはずないだろ!!!!」
「爺さんの言っていることは正しい、お前の今後のためにも、爺さんにやってもらえ!」
その会話を聞き、ギノー将軍は話を続ける。
「グレース様、私の命を心配しておられますが、このような先の短い老人に、心配などしなさられるな.......... あなたは一国の国王、そして、これから先、あなたの言う「誰にも邪魔されない理想の国」を作る戦いは、もっと激しいものになるでしょう............... だからこそ、一人の先の短い老人の命ぐらい、捨てる覚悟をお持ちください!!!!!!」
その言葉を聞いた瞬間、当時の俺の心の中は、一瞬にして”なにか”が変化した気がした。
今でも、それを言葉に表すことは出来ないが、当時の俺はその”なにか”が変化した後、たった一言、こう発していた。
「わかった」
6時40分
突撃は始まった。
あの時の光景を、俺は一生忘れることはできないだろう。
敵の攻撃をできるだけ回避するためにバラバラに配置されたロボットや人間の大量の兵士たち。
そして.................................. それの正面を十歩、いや二十歩以上も前で走る、ギノー将軍の姿だった。
本当に、あの光景には、息を飲んだ。
勇猛果敢、そういうものではない。なんというか、あの時のギノー将軍の突撃は、ただ美しかった。
この光景を、俺はなにかに例えることは出来ない。
「さすがだ、爺さん!!!!!!!!!!!!!」
ガスターはそう言って笑い、ハルトマンは隣で目を丸くしていてその光景を見ていた。
そして俺は.......................................
「グレース様、お見事です!!!!!!!!!!!!!!」
気づいたら、全力で走り、ギノー将軍と並んで走っていた。
当時の俺は、ギノー将軍のあの姿を見て、自分を確かめたかったのだと思う。
前の世界で夢を諦めて生きていた分、今度は好き勝手に生きて”夢物語”のような夢を叶えたい、だからこそ、そんな夢を叶えるのにふさわしいのか、あの突撃で、自分がどうなるかに確かめたかったのだと思う。
ただ、それを確かめるには、目前に迫る”死”を越えなければならない。
俺と将軍の周りを、次々と砲弾や銃弾が飛び交っていく。
俺なんて、銃弾が頬をかすったほどだった。
だが、そんなことをいちいち気にしている余裕はない。
とにかく、俺は全力で走って、走って、走りまくった。あの時間は、一秒が永遠に感じられる程に長いものだった。
だが、運命というのは銃弾という形で、何千という試練を一秒ごとに与えてくる。
「あのイカれた野郎どもを蜂の巣にしてやれ!!!!!!!!!!!!!!!!」
敵の士官だろうか、大きな声が響き渡った瞬間、機関銃から大量の銃弾が放たれた。
あのタイミング、もはや俺と将軍は避けられない死を目前に相手どっていた。
だが............................................
「最高だ!!!!!!!!!!!! この大バカ野郎が!!!!!!!!!!!!!!!!!」
突如、目の前にガスターが現れたかと思うと、いつもにもました高揚した陽気な声を辺り一面に響き渡らせた、そして、一瞬の内に炎の壁を作り出し、俺達に迫っていた死を塵と化してしまった。
「私も伝説の一パーツにしてください!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ハルトマンは俺達のことを見て、じっとしていられなくなり、気づけば俺達は四人で走っていた。
「グレース様と将軍たちを死なせるな!!!!! 続け!!!!!!!!!」
最前線を全速力で走る俺達を見て、後続の兵士たちも全速力で走ってくる。
まさにこの時、あの突撃に参加したヴァルキリア軍の人間は、かなり特殊なタイプのよくわからない、ただ、「熱狂」というものにどっぷり使っていただろう。
そして何より、皆の心の中は「勇者になりきろう」これだったと思う。
そして、俺達は永遠にも感じられる五分間で302高地を登りきった。
奇跡なのかは分からないが、先頭を走っていた俺達四人は無傷だった。
この時の俺達の感情は、ただ、「嬉しい」これに尽きる。
だが、その中で俺だけは、それとは別にもう一つの感覚というか、確信を持っていた。
「俺は何かになる...................................」
ここから、伝説は始まる...................




