69話 敗北
「あんた、ずいぶんと面白い魔法を使っているじゃないか! それに、なかなかいい戦い方だったぞ!」
地面に完全に倒れ込んで死にかけの俺に、奴が最初にかけてきた言葉は余裕かつ、元通りの陽気な声だった。
「俺を......... 殺さないのか..........?」
普通の軍人ならば、ここで油断せずに確実にここで俺を殺すはずだ。
しかし、奴は俺を殺すどころか、余裕で声をかけてくる。当然、当時の俺からしたら奴の意図が何がなんだかさっぱりわからなかった。
「俺は無用な殺生を好まない人間なのでね、条件通りに俺が勝ったから、さっさと撤退してもらおうか! それに、あんたを殺したら、あんたの部下たちに俺が殺されそうなんでね」
現にこの時、こちらの兵士は皆殺気立っていて、ハルトマンに関しては今にでもバグサックに斬りかかろうというところをガスターが抑えている有様だった。
「また俺と戦いたいならば、いつでも来てくれ! ただし、次もタイマンだがな!!!!」
人の死を嫌っていて、優しいやつなんだろう。
奴の言葉と雰囲気、態度からそんなことはすぐさま分かった。
しかし俺は、奴のそんな雰囲気よりも、自分の心の奥底で恐ろしいほどに燃え上がっているのが感じられた、「悔しい」という気持ちだった。
こんなことを感じたのはいつぶりだろう............ おそらく子どもの時以来だと思う。
この世界は、またしても俺の封印されていた気持ちを解放してしまったのだ。
しかし、悔しくてもあの体ではなんの反撃も出来なかった。
「みんな、悔しいが撤退だ................」
俺は、なんとか皆を落ち着かせようと、ボロボロの体でなんとか伝えようとしていた。
だが、体はなんとか言うことを聞いたが、心の方はうまく聞かないものだ.................
一つの雫が俺の頬をつたったかと思ったら、次の瞬間、俺は自然と涙を流していた。
それほどまでに、当時の俺にはこの世界での初めての敗北というものが受け入れられなくて、悔しかったのだろう。
俺は、なんとか涙でうまく喋れない口を動かし、皆、いや自分に対して言い聞かせるように体が許す限りに精一杯の声でこう言った。
「次は............. 絶対に負けない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あの瞬間、俺の決意は更に固まったと思う。
皆を不安にさせないように絶対に負けない。
それは、「誰にも邪魔されない理想の国を作る!」というとんでもない目標に、俺を信じてついてきてくれる皆に対する、俺の中で定まった、いわば”義務”であった。
「男だねえ、あんたみたいな上官が欲しかったぜ! いつで待っているから、また来いよ!」
それは、今思えば奴なりのエールだったと思う。
まあともかく、こうしてジュリョン軍港への第二次総攻撃は失敗した。
しかし、バグサックの発案により、両軍とも損害を前回よりも出すことは無かったが、やはり、死者が発生してしまったのは、俺からしたらいい気になれるようなものではなかった..............
東暦7029年7月16日
この日、俺は二日ぶりに目を覚ました。
この世界の文明レベルでは、軍医にかかれば九割方の命は助かることができる。
細胞を活性化させて驚異的な再生をさせたり、体の一部を機械化したりと、まあ、地上ではなく宇宙空間だと、そんな治療を受ける前に即死する確立がかなり高いのだが...................
なので、俺はわずか二日という驚異的な速さであんな大きな負傷から復活することが出来たのである。
「グレース様、本当に心配しました................」
目を覚ました俺を最初に迎えたのは、ハルトマンである。
忠誠心が人一倍高ハルトマンは、俺の病床に二日間ずっと付き添いながら自分の仕事をしっかりとこなしていたそうだ。
「俺の寝ている間に、なんか敵に動きはあったか?」
まだ回復したばかりで弱々しい声で、俺はハルトマンに状況を聞いた。
「今のところ、”ここ”ジュリョンでの大きな動きはありません........................」
嘘偽りのない、いつも通りに赤い目のハルトマンに、俺は安堵したものだ。
だが、そんなことを思った瞬間に、ハルトマンの表情が険しいものへと変わる。
「しかし、敵軍は我々第四軍がジュリョン軍港攻略にとまどっている間に、東部のヨリョウという街に集結しようとしています。 現在、第一軍と第二軍が先回りして敵の増援七万五千を迎え撃つ予定です。」
その現状を聞いた俺は、少し心のなかで前回のアルディア星域会戦のことを思い出してしまった。
あの戦いは、乱戦状態に持ち込まれたことで、かなりの損害を被った戦いだ。
あの時の両軍の兵力は互角、まさに、このときも同じような感じであった。
「ハルトマン、勝てると思うか.............?」
俺は、心配になりハルトマンにそう問いかける。
すると、ハルトマンから帰ってきた言葉は、意外なほどに自信がある言葉だった。
「ガーランドさん達ならやってくれますよ! なんせ、軍人としての経歴ならグライム閣下よりも長いですから!」
それを聞いた俺は、少しまだ不安がありつつも、ガーランド達を信頼することにした。
「まあそうだな、どうせ、今から行ってもガーランド達には追いつけないんだし、ガーランド達のことを信じよう!!」
それを聞いたハルトマンの表情は、冷静だが優しさを持つ笑みへと変化した。
「そうとなれば、私たちはここを落とすのに専念しましょう!! あと、ガスター様が「しごいてやるから後で来い」と、言っていましたよ!」
まさにこの時、この戦争初の大規模な地上での会戦が行われようとしていた。
そして、俺が死ぬかと思った、ガスターの地獄の訓練も.......................




