67話 地上の王者は魔法
東暦7029年7月14日 06時00分
この時間になった瞬間、ヴァルキリア軍の陣地から600門に登る大砲が一斉にけたたましい大きな音を鳴らしながら、勢いよく火を吹いた。
それは、斥候に偵察させた情報を元に、ギノー将軍によって緻密に計算された砲撃であり、当時、あの様子を見ていた俺は、心のなかで「熟練の極地に達している」そう思ったほどだ。
「前回の攻撃では、敵が準備砲撃に時間をかけすぎたために、敵の魔道士に迎撃する時間を与えました。なので、今回は短時間で、砲身が焼ききれんばかりの砲撃を行います」
これが、今回の作戦である。
短時間の内に砲撃を何箇所かに集中し、それで生まれた混乱の隙に、敵の弱点に歩兵を突入させる。
敵の魔装兵が出てきた場合は、普通の歩兵では”絶対”に勝てっこないので、第九十五魔法ライフル大隊を投入する。
本当は戦車や輸送機を投入したかったのだが、地形が山ということもあって、車両は投入できないし、敵の防空火力が高いことも相まって、輸送機を投入することも出来ない。
なので、歩兵による突入という原始的な戦いしか出来なかったのだ................
「第一陣、敵の塹壕を突破」
「砲撃地点をどんどんずらせ! 次はあそこの堡塁だ!」
ギノー将軍の力強い命令とともに、こちらの歩兵は次々と敵の塹壕を突破していった。
至近距離での、血みどろの肉弾戦が激しく繰り広げられる。
殺し、殺される............. そんなことが塹壕のいたるところで行われた。
戦うのはロボットだが、俺としてはかなり心が痛むものだ................
同時に、そんなことを見ていると、「ロボットにも人権を与えないとな...............」そんなことを思うようになったのだが。
「よし! 行けるぞ!」
作戦開始から二十分が経過した時点で、前回の総攻撃で占領した堡塁を三つも奪還したので、俺は思わずそんなことを口に出していた。
しかし...................
「緊急報告! 奴らが現れました!」
作戦本部に、第四軍の幕僚の悲鳴にも近い声が響き渡った。
「ついに出てきたか............. 行くぞ、ガスター!」
敵の魔装兵の襲来を告げる声、一気に作戦本部の空気が変わる中、気づいたら俺はそう反応していた。
「ああ、行くぞ!!」
場違いにも程がある、ガスターの声も作戦本部に響き渡り、それと同時にガスターは外へと歩いていった。
外に出るなり俺達を迎えたのは、かなりヤバいはずなのに、美しい赤毛を振り乱すこともしない、いつもの冷静なハルトマンの報告だった。
グライムの部下は、全員どんなときも冷静すぎてすごいものだ。
やはり、もともと本職の軍人だったからなのか..................
「やはり敵の魔装兵は、銃火器以外の武装は、普通の歩兵と変わらないようです。」
ハルトマンの目の先には、敵の魔装兵が、こちらの歩兵を着実に圧倒的な力で殲滅していく様子が映し出されていた。
魔力によって何倍にも威力が強化された銃火器は触れなくても爆発を起こし、触れてしまえば、即死する代物だ。
当然、俺達がそんなことをただただ見ているわけがない。
「これがヴァルキリア王国にとって、初の魔法戦だ!!!! 何が何でも勝つぞ!!」
部隊の指揮官であるガスターの力強い声が、戦場全体に響き渡る!
その瞬間、第九十五魔法ライフル大隊に所属する魔道士千名は、ガスターの声に呼応するように叫び、一斉に敵魔装兵に向けて突撃を開始した。
「行くぞ! まずは正面、敵に精密の魔法を食らわせてやれ!!!!!」
一緒に突撃する俺も、すぐさま皆に命令を出した。
次の瞬間、一斉に皆が敵に向けて引き金を引いた瞬間、皆の銃に埋め込まている”魔法チャージのオーブ”が反応し、”精密の魔法”を発動させ、無数の弾丸が恐ろしく精密に敵に命中していった。
当時のドルツィオ帝国軍の使うライフルとは比べ物にならないほどの高性能な武器と、皆の勇気、それがうまく混ざり合って化学反応が生じた結果、俺達は次々と敵を倒していった。
なんとか回避しようとして動き回っても、それを嘲笑うかのように銃弾は無慈悲に命中していく、目の前で敵の兵士たちがバタバタと倒れていく光景は、当時の宇宙での戦いしか見てこなかった俺からしたら、衝撃的であり、やはり、「戦争は嫌いだ」そのような考えになってしまうのだ.................
しかし、当時の俺は国のトップとして、それをやっていかなければならなかった。
なぜなら、この世界は”弱肉強食”なのだから..........................
しかし、どんなにこちらの魔装兵が強くても、弱肉強食の世界ならばそれを越えるものはいくらでも出現する。
このときも例にも漏れず、そうだった。
「Hey〜Hey! ずいぶんとやってくれるじゃねえか、ヴァルキリアの新米野郎どもは!!!」
そのような陽気な声が、拡声器を使わないと出ないくらいの大声で戦場全体に響き渡った直後、必死に抵抗する奴らの魔装兵の一群から、一人の筋骨隆々のアフロの男が出てきた。
あまりにも地獄な戦場に似合わない陽気な声。
一瞬、あまりにも場違いな奴に両軍の戦闘が止まる。
「なんだあいつは............?」
味方の兵士たちから、次々とそのような声が湧き始めた。
しかし、そんな戦場を舐めている態度のやつを見て、俺は何かを話しかけるほどのお人好しではない。
「皆、あんな奴気にするな! ハチの巣にしてやれ!!!」
当時の俺は、後に”獅子のような髪”と言われるようになる、金髪を一度手で払うと、力強い声で皆に命令した。
その瞬間、少し立ち止まっている兵士たちが我に返る。
皆はすぐさま、やつに向けて銃を構えた。
しかし、そんな兵士たちの姿をよそに、奴は笑っている表情を崩すことなく、口をさらに開く。
「おいおい、俺の魔法の威力のことは知っているだろ? 今、お前らが撃てば、ここら一体の奴らは、全員吹き飛ぶぞ!!!」
その瞬間、再び皆の動きが止まる。
無論、俺も背筋に冷たいものが走り、皆と共に動きを止めるしか出来なかった。
「.....................何を望んでいる」
それを聞いた俺は、自然とそう口を開いていた。
すると、奴は口を動かしながら自慢のアフロを手で一度掻いた。
「話が速くて助かるねえ〜 まあ、こっちの要求は、お前らの前面撤退、それだけだ。俺の部下が倒れていくのは、見過ごせないもんでね」
いきなり冷静になったと思うと、奴は当然のようにこちらが受け入れられない条件を突きつけてきた。
「無理に決まっているだろ、お前は馬鹿か?」
当然、そんなことを受け入れるわけがない。
「ふん........ そう言うと思ったよ。 じゃあ、今ここで全員をぶち殺そうか」
その瞬間、更に背中に冷たいものが流れた。
「それは困るな............... 部下たちが死ぬのは見てられん」
その言葉は、兵士の犠牲を極力抑えたいという、考えの根本にある戦争への罪悪感から発生したものだったと思う。
「はっ、あんたも同じか、どうやら気が合いそうだな!!」
アフロの奴は、先程の自分の言った言葉にとても近いものを感じることを言った俺に対し、素直だったのかわからんが、大笑いした。
そして、少しして表情を戻すと、俺に対して衝撃的なことを言い放ちやがった。
「なら、タイマンでどうだ? これならどちらも部下を失わずに済むだろ?」
なんと原始的な提案なのだろう、しかし、部下を失いたくないという点ではとても合理的な提案だ。
しかし、そんな物を安易に信じるような俺ではない。
「ふん、条件次第と言いたいところだが、それ以前にお前たちを信じられんな」
すると、それを聞いたアフロ野郎は不気味な程に一瞬にして冷静な顔へと変貌した。
あの時の奴は、オーラが不気味なものへと変わったのが一瞬にして分かるほどだった。
「あんたが勝てば、俺達は降伏。 俺が勝てば、あんた達の撤退、これでどうだ?」
奴は、冷ややかな目でそうはっきりと言った。
それは、向こうの世界で見てきた、偽りのない”漢の顔”であった。
そんなふうに言われたら、同じ男として、断りづらいものだ.........................
「グレース様、危険すぎます!!! ここは、私が!!!!」
しかしその時、いつも通りにハルトマンが一番最初に声を上げた。
それを聞くと、ふと我に帰ったように、他の兵士たちも次々と同じような声を上げる。
それと同時に、向こうからも同じような言葉が上がった。
「バグサック隊長、ここは俺が!」
「いや、俺が!!!!!」
そう、相手も俺と同じように慕われていたのだ。
それを聞いたバグサックは、再び笑うと、こう問いかけてきた。
「だそうだ、で、あんたはどうするんだ?」
当然、俺の答えは決まっている。
「タイマン、受けて立とうじゃないか!! 男に二言はないな?」
今になって言えることだが、俺は、自分から進んで戦いを求め、それに勝利することを最大の価値とする人間なのだ................
前の世界ならば、普通に生活していたら、まず発掘されないような思考。
しかし、この弱肉強食の世界は、それをいとも容易く発掘してしまったのである。
皆、最初は危険だから俺を止めようとするものの、最終的には俺のその勝利を求める価値を尊重して戦わせてくれるのだ。
まあ、それは俺個人で戦うときのみだが。
それを言った俺の顔は、ガスターやハルトマンいわく、「獣のようだった」そうだ。
「ああ!!」




