65話 戦場は地上へ
東暦7029年6月15日
この日、十日ぶりにグライムと再開した俺は、グライムに詫びることしか出来なかった。
「本当にすまない、グライム................. 俺が甘すぎた」
俺は、せっかく作った艦隊がボロボロになった姿を見て、最初、ショックでしばらく言葉を発せられなかった。
いや、艦隊がボロボロになったと言うより、俺の判断ミスで、俺に着いてきてくれた兵士が何人も戦死したことの方が正解か................
今までの宙賊との戦いで、ロボットの犠牲は少しでたものの、兵士の戦死というものは無かった。
それがいきなりたくさん、しかも俺の判断ミスで................
今思い返しても、あのときは本当に辛かった。
「グレース様、謝らないでください.............. むしろ、先手を敵に撃たれて乱戦状態になったのに、よくここまでやりましたよ.............」
グライムは、落ち込んでいる俺を慰めるような感覚で、優しくそう声をかけてくれた。
しかし、すぐにグライムの表情が総参謀長へと置き換わる。
「しかし、状況は我々の有利に傾きました」
それを聞いた瞬間、俺は思わず自分の耳を疑った。
「何だと............ こんな損害を受けているのにか?」
わずかに生気が戻った俺の顔を見て、グライムの表情は一気に不敵な笑みを浮かべた物へと変わった。
「はい、今回の戦いで、敵の前線部隊の艦隊は、艦艇をあまり失いませんでしたが、その分、どの艦も大小それぞれの損傷を受けています............... 我々の艦艇は、艦のパーツをある程度部分部分で作って、建築加速の魔法でそれを組み合わせて作成しているので、比較的短時間で艦隊を復旧することが出来ます。 しかし、敵さんはどうでしょうか?」
その瞬間、俺の頭は、なにか電流のようなものが流れたような気がした。
「なるほど............. 敵の艦隊が復活する前に、全力を持ってして敵艦隊を潰そうってわけか.............」
それを聞いたグライムは、冷静だが少し高揚したような声になると、真っ白な髪を一度払うとこう言った。
「正解です!」
俺たちは一度、話の場を戦艦ヴェストファーレンの会議室に移した。
「とりあえず、まずは損傷した艦を本国に帰還させましょう。 損傷していない艦は、臨時で第一艦隊に編入して、第四、第五艦隊と共同で、敵艦隊を誘引して殲滅してもらいます」
それを聞いた俺は、即座に質問をする。
「敵艦隊は、完全復活するまで絶対に出てこないぞ? 艦隊で攻撃して誘引しようにも、ジュリョン軍港の防空能力は化物だ........... どうやって誘い出すんだ?」
それを聞いたグライムは、待ってましたとばかりに、即答した。
「それは地上軍にやってもらいます。 すでに、事前の作戦計画に基づき、ギノー将軍は率いる第四軍には、近日中にジュリョン要塞への総攻撃を準備してもらっています..........」
さすがはグライム。
こういうときに真っ先に次の手を打つのは、いつもグライムか、後に総参謀長となる”あの男”だ...........
「しかし閣下、あの要塞を第四軍は落とせるのでしょうか?」
一通りグライムの話を聞いて、真っ先に口を開いたのは、ハルトマンだ。
「勝てるかは分からない............ しかし、勝ってもらわなければ困る。 なんせ、ミストル殿からの報告では、敵の本国艦隊が一斉に出撃したらしいからな...............」
実はこの四日前、敵の本国艦隊が出撃したとの報告が、情報部から持たされた。
正直言って、これは完全に想定外だった。
開戦からわずか十三日、これはおそらくだが、この前の第一次アルディア星域会戦の結果を受けてからなのだろう。
敵艦隊が来るまでに約百日、それまでに敵の前線部隊の艦隊を殲滅しなければ行けなかった...............
「しかし、ギノー将軍は我々の中では間違いなく最強の軍人です............. なんとかやってくれるでしょう...............」
その言葉には、いつもの計算高いグライムの声とは違って、少し自身なさげのような感じの声であった。
「わかった............... ギノー将軍を信じよう。 しかし、あの要塞を落とすうえで、なんかギノー将軍からの伝言はないか?」
それを聞いたグライムは、またもすかさず回答する。
「ただ一つ、敵の”魔装兵”が出てきた場合に備えて、こちらも戦闘系の魔法が使える人材を送り込んできてほしいと言っておりました」
言っておくが、この世界の地上戦は、魔法の使えない宇宙とは違って、通常兵器よりも魔法が全てを凌駕する。
いくら完璧な作戦を立てたとしても、一人の魔道士によってめちゃくちゃに破壊されることなど、地上戦ではいくらでもあるのだ。
「わかった.................. ならば、俺がいこう!」
それを聞いた瞬間、俺は気づいたらそう言っていた。
それを聞いた瞬間、当然のようにその場にいた者全員の表情が変わった。
「それはなりません、グレース様! 国王自ら出るなど、あまりにも危険すぎます!」
ハルトマンの言ったことは、当然のことだ。
国王が自ら前線に出向いて戦う、これは本当に常識的に考えておかしいことだ。
「これから大勢の兵士を死地に送るんだ............... 俺だけが安全なところで見ているわけには行かない、行かせてくれ!」
俺は力強くそう言い切った。
「しかし.............」
ハルトマンは、その忠誠心から、俺の安全を願うようにさらに口に出そうとする。
しかし、それをグライムの声が遮った。
「もうやめとけ、グレース様はそういうお方だ。 行かせてあげようじゃないか............. どうせ、ロンメル博士の発明によって、よほどのことがない限り、死ぬことはないんだし」
それを横で聞いているガスターも、頷く。
上官からのその発言に、流石にハルトマンも従うしか無かった。
「わかりました............ その代わり、私も連れてってください...........」
それを聞いたら、ガスターも同じように続く。
「俺も行かせてもらおう」
二人の艦隊指揮官の突然のその発言に、俺は最初、驚くしか無かった。
しかし、この二人が一度言い出したら止まらないことは重々承知している。
「わかった............ グライム、宇宙艦隊の指揮を頼めるか?」
それを聞いたグライムは、いつも通りの自信のある雰囲気に戻る。
「任せてください!」
こうして、俺達は戦いの場を地上に移すこととなる。
しかし、あの要塞は今思い返せば、「絶望の砦」と言うものにふさわしいものだった.................




