64話 子どもの殴り合いのような戦い
東暦7029年6月5日13時25分
アルディア星域外縁部にて、ヴァルキリア、ドルツィオの両国の指揮官の砲撃命令は、一瞬にして宇宙という漆黒の海を、ビームという光の魚の大群が泳ぐ海へと変貌させてしまった。
「敵軽巡洋艦に砲撃命中、敵艦炎上中」
「駆逐艦D68に被弾、被害甚大」
わずか一分にして、敵、味方の損害の報告が次々と戦艦ヴェストファーレンの艦橋内を埋め尽くした。
「くそっ、これじゃあ消耗戦だ!」
俺は、敵艦隊に先手を取られたことによって、俺達が必死になって建造した軍艦達が、敵艦を傷つけ、傷ついていく状況を、艦橋内でただ見ているしかなかった。
乱戦というものになれば、艦隊司令官にできることは限られてくる。
乱戦状態になったら、必要されるのは兵士の練度と、各艦の艦長の腕である。
なので、指揮官というものは、あまりできることがないのだ。
そのころ、ドルツィオ帝国軍の旗艦、戦艦インペリアの艦橋内にて。
「ふむ、やはりこちらが押しているな」
艦隊司令官のカカロマフ提督は、何十年も見慣れている光景を見ながら、いつも通りの冷静な様子で状況を語った。
「しかし、なぜ乱戦に持ち込んだのですか?」
艦長に戦いを任せているので少し暇な、モルトケ参謀は、提督に向かって質問を投げかけた。
「敵の軍隊は出来てからわずか二年、対してこちらは出来てから千五百年、この数値を見れば、敵の艦の艦長は皆新米ばかりだろう........... 対してこちらは、どの艦も熟練の艦長によって指揮されている、ならば艦の性能差で勝負する同航戦よりも、乱戦の方がいいと思った、それだけだよ」
四十年にもわたって戦場をわたり歩いてきたからこその観察眼、それは、誰であれ素直に尊敬に値するものだった。
「さすがです、閣下.............」
モルトケも、当然のように敬意を払う。
しかし、彼はそれを言ったすぐ後に、戦場を表示したモニターへと視線を誘導すると共に、話題を変えた。
「しかし、右翼側の敵だけは、どの艦も素晴らしい動きをしていますね............ 我が軍が少し押されています............」
それを聞いた提督も、少し険しい顔に、表情を変える。
「ああ、あそこだけ本物の軍人がいたようだ.............」
彼らが見ている右翼側、そこは第三艦隊の場所であった。
「何としてもグレース様とガスター様を守りきれ! 元軍人の俺達がどうにかするぞ!」
艦隊の指揮を取っているのは、ハルトマン。
少し赤毛の彼は、もともとグライムの部下である。
忠誠心で言ったら、人一倍強く、俺やグライムからの推薦もあって、グライムが総参謀長になったことで艦隊司令官の席が空になった第三艦隊の指揮官になった男だ。
この第三艦隊の各艦の艦長は、皆グライムの部下であり、他の艦隊とは別格の戦闘力を持っていた。
向かってくる敵艦隊に対し、巧みな連携を活かして、各個撃破していく。
後に、宇宙最強と呼ばれる”皇帝親衛隊”と変貌を遂げる第三艦隊は、すでにこのときから実力を十二分に発揮していた。
戦闘開始から二時間が立つ頃。
次第に、両艦隊ともシールドの中和力を失った艦が青白いような赤いようなよくわからない色の火球となって消滅していった。
悲しいことに、一つの美しいと思えるような火球が一つ発生する時、それは、数百の人間とロボットの命を喰らって発生するものなのだ.......................
おびただしい量の人命、物資、エネルギーが湯水の如く浪費されていく。
この乱戦は、お互いが全力を出して戦った結果、まるで、”子どもの殴り合い”のような醜いものとなってしまった。
いや、醜いというのは違うかもしれない。
戦争において、「美しいという戦い」と言う者は、戦争を見たことのない者だ。
戦場というものは、戦闘に参加した者の立場から見てみれば、ただの人命と物資を浪費していく醜いものなのだ....................
戦闘開始から、三時間後。
「グレース、そろそろ限界だ。悔しいが、撤退するしかない....................」
ガスターが、いつもとは違う冷静かつ、少し落ち着いたような声で、通信を入れてきた。
「ああ、これ以上は戦争ができなくなる...................」
そう言った俺の声も、戦闘開始前とは違って暗くなっていた。
「全艦、隙を見つつ撤退する.............. 第一艦隊は、殿を務めるぞ..............」
俺は、悔しくていっぱいの気持ちを心の中で噛み殺しながら、そう命令した。
そのころ、戦艦インペリアの艦橋内にて。
「閣下、敵艦隊が撤退していきます............ 追撃なさいますか?」
参謀からの問に、提督は、少しも焦ることなく答える。
「いや、こちらも撤退しよう........... 思ったよりも、敵が強かったからな.............」
そう言うと、彼は全艦に撤退命令を発した。
「両軍とも大損害................. しばらくは大規模な決戦はおきないな...........」
「ええ、これからの戦場は、陸戦になりますね.................」
こうして、第一次アルディア星域会戦は集結した。
ヴァルキリア軍の損害は、参加した百十五隻の内、撃沈十七隻、損傷六十七隻、兵士とロボットの死傷者、二千六百七十名だった。
それに対しドルツィオ帝国軍は、参加した百九隻の内、撃沈二十三隻、損傷七十隻、兵士とロボットの死傷者、三千五十七名と、わずかにヴァルキリア軍のそれを凌駕した。
両軍とも、損傷した軍艦は外壁が破壊され、骨組みがさらけ出されている艦や、砲が溶けるまで射撃した艦など、損傷した艦は同じようなものだった。
しかし、実際に見てみると、ほぼ痛み分けと言っていい状況であった。
しかし、両軍とも戦艦を失っていない、つまり、修理すれば再び大規模な決戦が可能であった。
両国の艦隊は、再びぶつかることとなる。
まあそれは、血みどろの陸戦を繰り広げた後の話であるが.........................




