62話 強襲降下
お久しぶりです!
東暦7029年6月2日 04時30分
すでに、戦争開始から四時間半の時間が経過していたとき、ドルツィオ帝国軍の哨戒網に引っかからないように隣の星域において待機していたリアルヌ率いる第五艦隊は、宣戦布告と同時に艦隊を全力でトウキョク星域に急行させた。
そして、わずか四時間半という短い時間で、艦隊を敵の前線部隊の本拠地が置かれている惑星シューマンの上空に到達していた。
旗艦である恒星炉を全力でぶん回した結果、一部の艦では機関がオーバーヒートして落伍する艦も現れた。
しかし、そんな状況になってもリアルヌは放置して全力で艦隊を走らせた。
それだけ、この強襲は一刻の時を争うほどのものだったのだ。
「敵の哨戒部隊の状況は?」
艦隊司令官であるリアルヌは、実戦を間近に控えているとは思えないほどの冷静さで、オペレーターのロボットにそう問いかけた。
副官のクラウゼヴィッツ大佐いわく、「この時の提督の様子は、あと六日でちょうど二周年を迎える、賊との初めての戦いと比べて、もはや別人のような振る舞いをしていた」そうだ。
あの戦いから二年、この国が大規模な領土拡大を行ったことによって、リアルヌを始め、ヴァルキリア軍の者は、皆たくさんの実戦経験を積んだ。
その結果司令官クラスの人物は、皆、指揮官としてふさわしい者になっていた。
「我が軍の電波妨害によって怪しんではいるものの、我々の位置を発見されてはいません」
オペレーターのロボットのいつも通りの無機質な声が艦橋内に響き渡る。
「閣下、敵の防衛艦隊はどうしますか? 小官は、降下作戦の最中に襲撃されても面倒ですし、早いうちに仕留めて置くべきかと思いますが」
副官の問に対し、リアルヌは見事なまでに鮮やかな髪を揺らしながら答える。
「対処しましょう、いくら我が艦隊が防御力に優れているとはいえ、過信は禁物ですからね.............」
それは、リアルヌの最大の武器である”慎重さ”を十二分に働かせたものからである発言だった。
「閣下、前も言いましたが私ごときに敬語を使うのをやめてください、階級は閣下の方が上なのですから.................」
「すみません、大佐の方が私より年上だからついつい敬語を使ってしまいます.........」
その時、オペレーターのロボットが新たな情報を伝えた。
「ミサイルの射程圏内に到達」
それを聞いた二人の表情が変わる。
「閣下、どうしますか?」
リアルヌは、冷静に状況を見ながら考えて口を開く。
「やめておこう、補給艦からの補給に頼っている以上、降下作戦時に使用するミサイルのことを考慮した場合、ここで使うのは少しもったいないです........... 敵は駆逐艦六隻のみで構成された小規模な哨戒部隊、対してこちらは戦艦二隻を中心とした、四十隻にもなる艦隊です。電波妨害をかけている以上報告される心配はありませんし、ここは数と質を活かして砲戦で仕留めよう」
それを聞いたクラウゼヴィッツは、即座に発言を理解した。
「戦場では敵の約二倍の数を用意するのが良いとされています、攻撃に向かうのは第一戦隊でよろしいですか?」
「ええ、完璧だ」
敬語が混ざりつつも、リアルヌは部下を少し褒めるような口調で会話をする。
そして、リアルヌの雰囲気が一挙に変わった。
「これより、第一戦隊は敵の哨戒部隊を殲滅する、第二戦隊はグナイゼナウ大佐の指揮のもと、輸送船団を守れ!」
その命令がリアルヌの口から発せられた瞬間、千メートルを越す巨体が宇宙を切り裂くかのように加速した。
同日、04時52分
「敵艦隊、逃げていきます」
流石に宙賊と違って軍人である敵は、撤退を選んだ。
電波妨害によって通信ができないこの状況、急いで艦隊を引き返して情報を伝えることが常道だ。
普通の艦隊ならば、戦艦などの足の重い艦を抱えていたら追いつくことはできないだろう。
しかし、当時のワーグナーとリアルヌの率いる第四、第五艦隊は、高速艦を中心とした艦隊であった。
普通なら速力が遅くてこういう場合に邪魔となる戦艦も、機関である恒星炉をフルチューニングして高速な巡洋戦艦に改造してある。
「さて、どっちが早いですかね? 全艦、最大戦速で敵を攻撃する!」
その瞬間、艦隊の各艦はまるで狼のように動き出した。
圧倒的な速度の前に敵艦隊との距離はみるみる縮む。
そして、二分後には巡洋戦艦デアフリンガーは、敵艦を主砲有効射程に捉えた。
「砲撃を開始します」
「ああ、始めてくれ」
次の瞬間、巨砲が勢いよく火を吹いた。
数秒後、敵の最後尾の駆逐艦に光の柱が直撃する。
それは、駆逐艦一隻に対して過剰すぎるほどのエネルギーの量だった。
「敵駆逐艦の撃沈を確認、第二射、撃ちます」
そうして、デアフリンガーの主砲から放たれたエネルギーの柱は、敵の駆逐艦六隻をみるみるうちに飲み込んでいった。
射程圏外からの一方的な砲撃、それは言ってしまえば、理不尽な虐殺だった。
「敵艦隊の全滅を確認、これより輸送船団と合流しますが、よろしいですか?」
敵艦隊を殲滅したすぐ後、息をつく暇もなく、クラウゼヴィッツの質問が飛ぶ。
「ええ、敵艦隊を全滅させた以上、ここにとどまる理由はありません。 輸送船団も惑星シューマンに就いている頃でしょうし、すぐに合流させよう」
「わかりました、距離的に短距離ワープ可能エリア内なので、ワープで合流します」
それを聞いたリアルヌは、またいつもの優しい表情へと戻った。
「わかりました、お願いします!」
「だから、敬語はやめてくださいよ.......................」
同日、06時00分
「作戦開始時刻です」
リアルヌは、あの後迅速な艦隊行動で合流し、ピッタリと作戦開始時刻までに艦隊を惑星シューマンの軌道上に集結させた。
「後は任せろ! 必ずや成功させて見せる!」
艦の通信回線に、ガーランドの自身に満ち溢れる声が響き渡る。
「本当に頼んだぞ、ガーランド!」
ガーランドとリアルヌ、ワーグナーは年齢としては、同い年である。
そのため、三人の信頼はかなり厚いものだった。
「さて、こちらも援護しましょう....... 始めてくれ」
その瞬間、降下地点にさらなる苛烈なミサイルの雨が降る。
地上にいた敵の部隊の記録は残っていないが、ここにあった敵の補給拠点の守備隊が見た最後の光景はどんな絶望だったのか..............
考えただけでも恐ろしいものだ.......................
そのまま、ガーランドに率いられた第一軍は、降下作戦を順調に成功させた。
事前に俺等を迎撃するはずだった対空砲をすべて葬り去った結果、ガーランドの手こずるものでは無かった。
すでに、他の宙賊との戦いで何十回も惑星への降下作戦を行っていたガーランドにとって、それは、ただいつも通りのことをやるだけのことだった。
こうして、戦争の初日は、ヴァルキリア軍の圧倒的な大勝利で終わった。
しかし、この三日後に発生する、後に”第一次アルディア星域会戦”と呼ばれる戦いにおいて、ヴァルキリア軍は、ドルツィオ帝国軍の力を思い知る事となる..................




