61話 Xday
東暦7029年6月2日 00時05分
この日、俺はアルディア星域内に待機中の戦艦ヴェストファーレンの艦橋内にて、大艦隊を率いながら、ルーンハイム王国からの緊急報告を受けていた。
「ルーンハイム王国からの報告によりますと、ドルツィオ帝国軍が一挙に越境を開始、現在は国境周辺の要塞地帯で交戦中とのことです」
総参謀長であるグライムが表情をかえずに冷静にそう報告する。
「どうしますか、グレース様?」
それを聞くまえから、俺の心のうちはすでに決まっていた。
「本国のカリウスにこう命令を送ってくれ、ドルツィオ帝国への正式な宣戦布告をしろとな.............」
それを聞いたグライムの顔に僅かだが笑みが浮かぶ。
「わかりました、すぐに送ります」
俺がこの命令を発した五分後、本国からすでに準備してあった内容どおりに、ヴァルキリア王国からのドルツィオ帝国への正式な戦線布告が行われた。
同日、00時11分
ヴァルキリア本国から離れた、トウキョク星域の隣に位置するチョンイン星域においてヴァルキリア王国軍第四艦隊の旗艦である巡洋戦艦リュッツオウの艦橋にて、艦隊司令官のワーグナーは不敵な笑みを浮かべていた。
「敵さんの様子はどうか?」
その問いに、オペレーターのロボットから無機質で正確な報告が返される。
「現在も速力を変えることなく、空間転移可能エリア内を航行中」
「だそうだ、どう思う?」
ワーグナーは、艦隊参謀のマティアスにそう質問する。
それに対して参謀は、戦闘を目前に控えて興奮している上官と違って、冷静な態度を崩さずに自分の意見を述べた。
「おそらく、ドルツィオ帝国軍全体には、こちらの宣戦布告が広まっていないみたいですね............ でなければ、こんな少数の護衛しかいない輸送船団がのんびりと航行しているはずがありません........」
それを聞いたワーグナーは満足げそうな表情を浮かべて、リュッツオウの通信回線を第四艦隊の全艦に開いた。
「皆よく聞け、これから我が艦隊はドルツィオ帝国の艦隊に向けて戦端を開く。皆恐れていると思うが、心配するな、俺達の艦隊ならばきっと勝てる! 敵艦隊を全滅させて本国に帰り、一番槍としての褒美をたんまり貰おうじゃないか!」
それはワーグナーの陽気な正確が十二分に反映されていた発言だった。
ちなみに、「兵士は皆ロボットなのだから、そんな演説は意味ないんじゃない?」これを読んでいるものは、そう思うかもしれない。
しかし、当時のこの国の軍隊は、兵士はロボットだが、艦隊の士官などは人間やいろんな種族が務めていることが多かった。
彼らは、ドルツィオ帝国の侵略によって国を滅ぼされた者で大多数が構成されており、戦いたいという気持ちが強かった。
なので、こういう演説は非常に役立つのである。
「全艦短距離ワープ準備、敵の前面から強襲するぞ!」
「了解、全艦ワープ準備!」
二分後、第四艦隊の各艦は光速を突破し、一挙に敵艦隊の前面に躍り出た。
その頃、敵輸送艦隊の旗艦を務める軽巡洋艦の艦橋内において、このようなやり取りが行われていた。
「我が帝国軍の侵攻に対処できていないのか、このあたりはとても安全ですな!」
「ああ、あんな辺境のヴァルキリアとか言う国が、我々の戦力に対抗できるほどの戦力を持っているはずがない、一ヶ月も経てば降伏するだろうさ」
この会話は、艦隊司令官と、軽巡洋艦の艦長との間で交わされた会話である。
油断しすぎている、俺の書ける感想はこんなものだ.............
油断というものは、人にとって一番の敵となる存在である。
どんなに強い者だろうが、油断していてはあっさりと死んでしまうものだ............
「正面の宙域に重力異常を確認、何かがワープしてきます」
その会話の最中、艦橋内のオペレーターが口を開いた。
「どうせこの辺を通っているのは商船だ、放置しておけ」
艦長の発言に対し、オペレーターはなんの疑問を浮かべることなく返答した。
「わかりました......................... うん?」
しかし、その返答の最中にモニターを見ていたオペレーターの声色と表情がみるみるうちに恐怖に染め上げられていった。
「何だこのサイズは!? 戦艦級のデカブツがワープしてきます!」
そう言った瞬間、艦の手前の宙域は、まるで花火が打ち上がったかのように青白い色の美しい無数の穴が出現した。
初めて見る者だったら、それは美しいで済まされていただろう。
しかし、彼らは軍人である。
本来、短距離ワープというものは、敵を奇襲するためぐらいに使う物だ。
そんな物が短距離で使われる、イコール、奇襲ということである。
「数四十! ヴァルキリア王国の艦隊です!!!!!!!!!!」
それを聞いた艦隊司令官の声も、ようやく焦りと恐怖に駆られた声色へと変貌する。
「なんでこんな数が............. 敵の主力はルーンハイムで手一杯の見立だったじゃないか!!!!」
しかし、すでに遅かった...................
「ミサイル接近! だめだ、数が多すぎる!!!!!」
そう言った十秒後、彼らの視界を真っ白な光が包みこんだ。
同じ頃、戦艦リュッツオウの艦橋内にて。
「敵先頭艦二隻の撃沈を確認、さらに、他三隻の護衛艦にもミサイルの命中を確認」
オペレーターの無機質な声が艦橋内に響き渡る。
すでに、最初の奇襲攻撃に対処できなかった敵艦隊は、護衛艦の半数をミサイルによって無力化させられていた。
「よし! 軽巡と駆逐艦は最大戦速で突入、内部から食い荒らせ! 戦艦と重巡洋艦は援護だ!!」
その命令どおりに、軽巡洋艦と駆逐艦の大群が、猟犬のように一斉に輸送艦に群がる。
すでに護衛艦の半数を戦闘不能にさせられ、まともな反撃の出来ない敵艦隊は、完全に兎と言えるものだった。
群がった、軽巡洋艦と駆逐艦の群れは、殺戮をほしいがままにした。
なんの反撃する手段を持たない輸送艦は、ただの巨大な棺桶とかした。
真っ白な閃光と共に艦が一隻消滅する瞬間、数百人の命とおびただしい量の物資とエネルギーが浪費されるのだ。
僅かに残っていた護衛艦も、高速で起動する巡洋戦艦の圧倒的な攻撃力の前に、原子へと還元されていくしかなかった。
戦闘開始から十五分後、 百隻いた輸送艦は全て原子へと還元されていた。
乗せていた陸軍の将兵、二十五万の命も同じように..........................
「なんとかうまく行きましたね..............」
参謀長のマティアスは肩の荷が降りたように、口を開いた。
「ああ..............」
それに対するワーグナーの反応は、すこし沈んだ声による物であった。
そして、ガスターは原子へと還元された敵へと独語をする。
「悪いな、この世界は弱肉強食なんだ。 油断したものは死ぬ、それだけだ............」
それは、厳しい砂漠の環境で、自分の何倍ものサイズを誇るサンドアントと死闘を繰り広げてきたワーグナーが言うと、ものすごく説得感があるものだった。
こうして、後にチョンイン星域の殲滅戦と呼ばれる戦いは終結した。
開戦からわずか三十分足らずで、いきなりヴァルキリア軍は大勝利を収めたのである。
しかし、これだけでは終わらない。
同じ頃、ヴァルキリア王国軍第五艦隊旗艦、巡洋戦艦デアフリンガーの艦橋内にて。
「さて、始めますか」
艦隊司令官のリアルヌはそう言って、作戦の準備を始めた。
敵の前線部隊の本拠地である、惑星シューマンへの降下作戦が今、行われようとしていた。
もうすぐテストなので、二週間ほどおやすみさせていただきます。




