60話 会戦前夜
東暦7029年5月18日
この日、首都星であるアイゼンシュタットにある会議ビルの会議室では、かつてないほどの張り詰めた空気が空間を満たしていた。
「さて、奴らがルーンハイムに宣戦布告するまで、あと十五日だ。 今日は、戦争遂行に向けての戦略の最終確認を行う................」
俺のかつてないほどの重々しい張り詰めた声とともに、会議はスタートした。
「ではまず、諜報部の最新の情報を教えてくれ」
俺は早速、ミストルに質問した。
「はっ、では、こちらがドルツィオ帝国軍の最新の配備状況です」
ミストルは、そう言って立ち上がると、会議室のモニターに一つの資料を映し出した。
資料には、アルディア星域の周辺宙域のドルツィオ帝国の配備状況がこと細かく表示されていた。
「ここ数日、ドルツィオ帝国軍はトウキョク星域を相次いで出撃し、アルディア星域周辺の宙域に艦隊を集結させつつあります。今のところ、奴らの艦隊は分散して配備されていますが、おそらく侵攻作戦を露呈させぬために、わざと艦隊を分散させていると思います。」
ミストルの述べた情報は、とても正確なものであった。
「だそうだ............. さて、それでは両軍の最終的な戦略を教えてもらおうか」
「はっ! では、まずは陸軍から行かせてもらいます!」
最初に力強くそう発言したのは、地上軍から名前を改め、陸軍の最高司令官であるガーランド中将だ。
「トウキョク星域にある唯一の惑星である、惑星シューマン、この惑星には敵の陸軍五十万が展開しており我が陸軍三十万の戦力では、普通に戦って勝つのは不可能です.............. なので、我々は敵の補給拠点を攻略しつつ、敵の主力を各地から誘引し、各個撃破を狙おうという戦略です...................」
それは、前の会議でも出た内容をしっかりと踏まえて立てられた戦略だ。
しかし、ガーランドが付け加える。
「しかし、いくつかの問題点があります..............」
その瞬間、陸軍のメンバーは表情を変える。
「まず第一として、敵の主力を各地から誘引したところで、うまく各個撃破できるかという問題点です。次に、敵の補給拠点以外の攻略目標である二箇所が問題です.............」
ガーランドの言った、補給拠点以外の二箇所の攻略目標は、ジュリョン軍港というのと、テンポウという大都市である。
ジュリョン軍港は、クレーターの地下にある軍港だ。
周りを山に囲まれており、さらに、その山々を要塞化しているという徹底ぶりの軍港だ。
地下に作られている以上、艦隊による軌道上からの爆撃も効かない。
まさに、無敵の軍港というのにふさわしいものであった。
テンポウは、この星一番の大都市である。
最大規模の補給拠点でもあり、奴らの物資生産の中心でもあり、攻略することは必須であった。
「そのため、我々は軍を編成し直し、このような形で作戦に投入することを決めました」
ガーランドがそう言うと、モニターに表情されているのが一瞬にして切り替わる。
「まず、戦車などを中心とした機動力に富む第一、第二、第三軍を敵の補給拠点攻略、および、各個撃破に用います。これらはタイミングを見計らって合流し、最終的に敵の戦力減少したタイミングでテンポウ近くで大規模な決戦を挑みます。第一軍は私が、第二、第三軍は、ビューロ、クルーゲの各中将が率います............」
それを聞いたビューロ中将は不敵に笑い、クルーゲ中将は静かに頷いた。
第二、第三軍を率いるのは、グライムの元でリバタリア共和国で実戦経験もある優秀な二人だ。
「そして、ジュリョン軍港攻略には、火砲を中心とした第四軍が当たります。ジュリョン軍港を早期に攻略できた場合、合流してもらいますが、それはきついでしょう............... 指揮官は、ギノー中将が当たります」
第四軍を率いることになったギノー中将は、ドルツィオ帝国に滅ぼされたシュク王国から亡命してきた軍人である。
陸軍の中では最年長であり、それも相まってすぐに一個軍の司令官まで上り詰めた優秀な軍人だ。
「なるほど................. 勝てるか?」
俺は、ガーランドの話に一区切りがついたところで、そう質問した。
するとガーランドは、少しも恐れることなく力強くこう言った。
「これが最善の戦略です。あとは、現場の私たちが何が何でも勝利に導きます!」
その発言は、若さからくる活力に満ちた素晴らしいものだった。
「では次に、海軍の最終的な方針を頼む」
次に俺が聞いたのは、海軍と名を改めた宇宙艦隊の戦略方針だ。
それに対し、総参謀長のグライムが席から立ち上がり、説明を始めた。
「こちらがまず、敵艦隊の配備状況です」
モニターの画像が、再びミストルの持ってきたものになる。
「敵の主力艦隊は、開戦初日にルーンハイムに攻め込んでくると思われます。それに対し我が軍は、グレース様率いる第一、第三艦隊、ガスター様率いる第二艦隊を投入し、決戦を挑みます。戦略は互角、新鋭艦で揃えられた我が軍のほうが勝てる確立は高いと考えられます。」
グライムの「勝てる確立が高い」その発言を出た瞬間、会議室全体の空気が多少軽くなった。
「しかし、あくまでこれは陽動に過ぎません。 本命はワーグナー提督とリアルヌ提督に率いられた第四、第五艦隊です!」
グライムがそう言うと、再びモニターの画像が切り替わる。
モニターに新たに表示されたのは、惑星シューマンに向けて航行しているドルツィオ帝国軍の大規模な輸送船団の位置だった。
「近々、惑星シューマンに敵の戦力増強が行われます、その数、兵士二十五万!」
それを聞いた瞬間、室内にざわめきが広がる。
「この数が増強された場合、我々の陸軍が勝てる確立は、一気にゼロに近づきます。そのため、機動力に富むワーグナー提督の第四艦隊を投入し、敵の輸送船団を壊滅させます。幸いにも、敵は我々の戦力を過小に判断しているのか、護衛をそこまでつけておりません............ 」
それを聞いた俺は、ワーグナーに質問をする。
「やれるか?」
すると、ワーグナーもガーランドと同じく。
「任せてください!」
自信満々にそう言い切った。
「リアルヌ提督率いる第五艦隊は、惑星シューマンへの上陸作戦の支援をしてもらいます。第五艦隊は防御力が高い艦隊なので、必ずや陸軍を守ってくれるでしょう................」
リアルヌも、それを聞いて自身の席で頷いた。
「よし、完璧な戦略だ! あとは、皆の働きにかかっている、頼むぞ!」
それを聞いた皆の顔は、とてもやる気に満ち溢れていた。
東暦7029年5月23日
この日、各地の基地からヴァルキリア軍は、来たるべき”Xデイ”に備えて相次いで出撃していった.............




