59話 二王国の密約
「..................トラキアに和平交渉の仲介役を頼むだと?」
カリウスが言ったことに対して、俺はあまりの衝撃に気づいたらそう言っていた。
「ええ、トラキアが仲介役としてなってくれれば、我々のような小国の言うことを聞かないドルツィオでも、耳を傾けると思われますが....................」
「たしかにな................ だが、トラキアが仲介役をやってくれると思えないな.......」
俺の自身のなさそうなそれを聞いたカリウスは、表情に笑みを浮かべると、少し自身げにこう答えた。
「同盟を結ぶわけではありません、何か良い餌を引っ提げておけば、和平交渉の仲介ぐらいはやってくれるでしょう」
それを聞いた俺は頭の中でどうするか考える。
確かに、トラキアに仲介役をやってもらえるのならば、最高に助かることだ。
しかし、そう簡単にあの超大国が動いてくれるとは思えない。
少し考えて出した結論は................
「ものは試しだ、やってみよう!」
先ほどまで難色な顔をしていたグライムも、これを聞いたら「やれやれ」と言いたげな顔で俺達のことに賛成してくれた。
「ありがとうございます! では、交渉に向かわせる人材はこちらで決めてよろしいですか?」
「ああ、カリウスの好きにやってくれ!」
東暦7029年5月4日
この日、トラキア王国との交渉を任されたゲオルクとパウルは、トラキア王国の王城の謁見室の目の前に立っていた。
「いよいよですね、閣下」
こういう交渉に慣れているパウルが、少し余裕を見せつつそう言った。
「ああ、そうですな」
ゲオルクは、普段の落ち着いた表情を保ちつつも、内面では少し緊張していたそうだ。
「緊張していますか?」
「まあ、緊張しています.......... ただ、私たちを選んでくれたグレース様とカリウス様の期待に答えなければならないので、そんな緊張はしている暇なんてないですね!」
それを聞いたパウルも微笑む。
「同感です!」
その時、重厚な扉が開かれ、衛兵が「入れ」と言った。
「さて、未来を掴みに行きましょう!」
パウルの掛け声とともに、二人は謁見室へと入っていった。
謁見室は、空気が凍りついたような部屋であったそうだ。
中に入ると、玉座の隣に、一人の長身で筋骨隆々の衛兵が一人立っていた。
その雰囲気は、衛兵としての威厳を備えていると同時に、圧倒的な強さを感じさせられる雰囲気だったそうだ。
「国王陛下の御入来です..............」
衛兵がそう言った瞬間、一瞬にしてトラキア王国の国王である、ルキール八世が二人の目の前に現れた。
そして、せっかちそうに口を開く。
「久しぶりだな、パウル。 挨拶はいらん、なんの用か手短に話せ」
それは、なんとも冷たい雰囲気であった。
「はっ、ではお言葉に甘えまして............ 我々は本日、ドルツィオ帝国との戦争になった場合に、貴国に仲介役として和平交渉の仲介をお願いしたいと思い、ここに赴かせてもらいました!」
それを聞いた瞬間、国王の冷酷な視線がさらに冷える。
「ほう、やはり戦争をするつもりなのか..........」
それに対して、パウルはためらうことなく言う。
「はっ、ドルツィオ帝国がルーンハイムに宣戦布告した瞬間、我が国はドルツィオ帝国に宣戦布告を行う予定です!」
「そんなにこちらのことをバラしたらまずいんじゃないか?」これを読んだものは、そう思うだろう。
しかし、俺はこの交渉で、パウルとゲオルクに全ての権限を預けていた。
パウルは、国王のことをよく知っているのと、俺から預かった権限をうまく利用して最大限に交渉を行おうとしていたのである。
「なるほどな.............. しかし、我が国が貴様らのような新興国の勝てるかもわからぬ戦争の和平交渉の仲介役をするというのは、こちらに利益がないではないか?」
当然の反応だ。
さらに、ルーキル八世は畳み掛ける。
「貴様らの王は何を望んでいる?」
それを聞いたパウルが、ゲオルクに目で合図をする。
すると、ゲオルクは待ってましたとばかりに目を輝かせて、口を開いた。
「国王陛下の目的は、誰にも邪魔されない理想な国を作ることです...................」
それを聞いた国王の表情に笑みが浮かぶ。
「とんだ馬鹿みたいな夢だな、付き合うのも馬鹿馬鹿しい。 しかし、お前らのような馬鹿がドルツィオと戦って、万が一勝利したら儲けものだ..............」
彼はそう言うと、再び冷酷な表情に戻り、こう言った。
「貴様らは、何を差し出す?」
これで提示する条件によって、この国の未来が決まる。
国王の表情が変わるとともに、ゲオルクの表情もかつて見たことないほどに恐ろしく覚悟の決まったものとなった。
その表情は、あまりの貫禄にパウルも少しビビったそうだ。
「現在の我が国には、今差し出せるものは何もありません................」
ゲオルクは一拍の間を開ける。
その瞬間、ゲオルクの体をどす黒いオーラが包みこんだ。
「しかし、未来の利益ならお約束出来ます..............」
それを聞いた瞬間、国王の顔にさらなる興味が浮かび上がる。
「我が国は、誰にも邪魔されない国を作るために、ドルツィオだろうが倒します。 ドルツィオを完全征服した暁には、ドルツィオ帝国の領土の四分の三を貴国に譲渡しようと思います!」
それを聞いた瞬間、国王の表情は満面の笑みへと変わった。
「本当にそれで良いのか?」
「ええ....................」
すると、国王は冷酷な雰囲気から百八十度変わって、まるで子供のような雰囲気になった。
「ハハッ、なんとも面白い! いいだろう、その条件で飲んでやる!」
それを聞いた瞬間、ゲオルクの表情も満面の笑みへと変わった。
「ありがとうございます!」
「何百年かかるかもわからんが、約束は必ず守れ、さもないと滅ぼすからな!」
こうして、ヴァルキリア王国とドルツィオ帝国の間における、後に”二王国の密約”と呼ばれる密約が結ばれたのであった。
トラキア王国を出発した後、ゲオルクとパウルは艦内でこのような話をしていた。
「流石です閣下、あのような素晴らしい交渉をなさるとは.............. しかし、あのような条件で本当に良かったのしょうか?」
それを聞いたゲオルクは、いつもの温和な表情のままで口を開く。
「ええ、大丈夫です。 グレース様がドルツィオを完全征服する頃には、トラキアと互角に戦えるような力を手に入れてれているでしょうから.........」
それを聞いたパウルは、口元を緩めて笑った。
「それもそうですね!」
パウルとゲオルクは、本当に先見の明が鋭いものだ。
「そういえば、少し話題が変わるんですけど......... さっき、国王の隣にいた衛兵の雰囲気、なんかガスター様と似ていませんでしたか?」
それを聞いたゲオルクは、ふと思い出したかのように表情を変える。
「そういえばそうでしたね............ まあ、気の所為でしょう............」
この話が再び二人の記憶の表舞台にでてくるのは、まだ先の話である..........




