58話 戦略会議
東暦7029年4月22日
この日、アルディア星域から帰還した俺は、すぐさま会議を行った。
会議の議題は、ドルツィオ帝国への今後の対応についてという内容だった。
「グレース様、ドルツィオ帝国がどこまでやった場合、我々は宣戦布告しますか?」
初っ端から、いきなり厳しめの質問をしてきたのは、カリウスだ。
正直、この質問への解答は死ぬほど考えた。
だって、この国の未来に直接関わるものなのだから............................
「俺的には、ドルツィオがルーンハイムに攻め込んだときに、戦線布告しようかと思っている..............」
それを聞いたカリウスは、さらに踏み込む。
「理由を教えてください」
あの時のカリウスの態度は、執事や友人のような態度ではなく、宰相としての態度であった。
まあ、そのほうが俺的にはすごく助かる。
なんせ、これは国のことを決める会議なのだから..............
「ああ、ルーンハイムが占領された場合、奴らの手にワープ回廊が渡ることとなる。 そうすれば、奴らの本国から一気に戦力が送り込まる事となり、俺達は負けることとなるだろう...................
俺達の最大の武器は”距離”だ、国力で負けている以上、戦争になったなら敵の主力が来るまでに各個撃破するしかない..................」
カリウスはそれを聞いて納得したようにこう言う。
「わかりました........................」
二日後、再び会議が行われた。
本当ならあの日は会議を行う予定ではなかったが、ミストル率いる諜報部の情報がこの国の中枢に激震をもたらした都合上、会議を開くこととなったのだ。
ミストルがもたらした情報、それはドルツィオ帝国が6月2日にルーンハイムに宣戦布告するという情報だった。
ドルツィオ帝国の情報管理能力は、信じられないほどにずさんな管理状態であった。
まあそれは、あの国がめちゃくちゃ強かったからなのだが................................
「さてグライム、作ってもらった戦争計画を聞かせてもらおう」
「はっ..............」
それを聞いたグライムは、冷静に参謀らしい態度として戦略のことを説明しだした。
「ではまず、我が軍の状態です。 昨年からの軍備拡張計画により、我々は宇宙艦隊、地上軍とともに相当数の戦力を整えることに成功しました。 しかし、それでもなお戦力差は二.五倍であり、圧倒的に不利な状態です.............」
それを聞いた瞬間、会議室にいた皆は固唾をのんだ。
「しかし、我々が最初に交戦するであろうドルツィオの前線部隊は比較的に少数であり、今のところは多少なりの数的優位を保っております。 我々が狙うのはそこです!」
一気にグライムの声が高揚する。
「本国に配置されているドルツィオ帝国の増援が来るまでには、五十日の日数を要します。 つまり、その五十日以内に敵の前線部隊を削りきることによって、あとから来るであろう敵の主力と戦って勝利し、講話に持ち込もうという戦略です。まあ、それでも奴らの、主力との戦力差は一.五倍ですが...................」
これは、当時のこの国にとっての最善の戦略であった。
しかし、それでもワーグナーの質問で、それの現実は分かる事となる。
「総参謀長殿、勝率は何割でしょうか?」
それを聞いたグライムは、冷静と言い放つ。
「四割と言ったところだ..............」
質問の時間となり最初に口を開いたのは、当時の最精鋭である第二艦隊を率いるガスターだ。
「ドルツィオの主力が、開戦前に本国から動くということはないのか?」
それに対し、グライムは完璧に想定していたように回答する。
「ドルツィオの主力は、トラキア王国を牽制する以上、あまり動くことはないと思われます........」
それに対してガスターも反論する。
「随分と希望的観測だな、なにか確証はあるのか?」
それに対してグライムは、同じく会議室にいたミストルに目で合図した。
「お話を遮るようで失礼します。現在、ドルツィオ帝国軍は戦争準備を進めていますが、それは奴らの前線部隊に限った話です。ドルツィオ本国では、何も戦争準備は進められておらず、動くことはないと思われます..............」
それを聞いたガスターは、さらに食って掛かる。
「しかし、それは現段階の話だ。こちらから宣戦布告を行わない以上、奴らはいくらでも準備してくるぞ!」
それに対し、グライムはさらに反論する。
「ならば、前線部隊が壊滅しないかぎりは絶対に動かないと断言しましょう!」
「ほう、なぜだ?」
少しばかり熱くなっているグライムは、冷静な口調で説明をする。
「奴らの主力が本国から離れた場合、奴らの本国に残る戦力だと、トラキア軍との間に約三倍の戦力差が生まれます。 そんな状態になった場合にもかかわらず主力を投入するということは、本当に戦争に負けそうな場合のみです!」
それを聞いたガスターは、さらに細かいことを聞いてようやく納得したようだった。
「わかった」
その様子を見聞きしていた俺は、話が終わったタイミングで口を開く。
「となると、制圧するのは奴らの前線部隊の拠点があるトウキョク星域だけか?」
それを聞いたグライムは再び口を開く。
「左様です」
「それは随分と楽なことだ」それを聞いた時、俺は心の中でそんなことを思った。
しかし、戦争をしてきた者たちにとって、それは別な視点に捉えることができる。
「トウキョク星域は惑星一つですが、その惑星一つを制圧するのも、かなり大変なことです.............. 敵の前線部隊の宇宙艦隊だけを叩けばよろしいのではないのですか?」
そう質問したのは、地上軍の最高司令官であるガーランド中将だ。
それを聞いたグライムは、またしても想定通りに解答をする。
「現状、我々の宇宙艦隊は戦力で勝っているが、勝てるかは分からない.............. なので、敵の補給拠点を叩くためにも、地上軍で制圧することが必須だ...................」
それを聞いたガーランドは、更に質問する。
「ですが、我々の地上軍は兵三十万で構成されていますが、奴らは五十万と予測されています、こちらだって勝てるかわかりません!!!!!!!」
三十万のロボット兵士、それだけでめちゃくちゃ異常な数だ。
これは、ロボット工場を最優先で作りまくったからである。
しかし、それでもドルツィオ帝国の数には追いつかないものだった。
「そりゃあ、大規模な会戦をやったら勝てるかは分からない。しかし、幸いなことにあの星は、広大だ。その分、各個撃破することがしやすいだろう...............」
「兵力分散をさせた後に各個撃破」この戦術は、常に兵力が劣っていたこの国にとって、戦略を立てる上での根本的な考えである。
その言葉を聞いたガーランドは、それ以上は善処を尽くすしかないと判断した。
「わかりました....................................」
この後、さらに色々な基本戦略がグライムの口から伝えられて、会議は終わりを迎えた。
「ありがとなグライム、大変な役を引き受けてもらって..................」
会議が終わって静かになった会議室で、俺は残ったグライムに向けてそう言っていた。
「お気遣いには及びません、私はグレース様の戦略構想をわかりやすく言語化したまでなので.......」
俺の不明瞭な戦略や戦術を言語化して、皆に伝える。
それを完璧にこなしてくれるグライムは、本当にすごいものだ。
「せっかく頑張ってくれているんだ、なんか褒美とかはいらないか?」
前世の会社で勤務してきたように、部下を気遣う。
するとグライムは、俺の質問に対してこう答えた。
「褒美ですか....... 強いて言うなら、私の代わりとなる新しい総参謀長を立ててほしいですね.........」
「新しい総参謀長か............」
それを聞いた俺は、そう呟く。
「私はどちらかと言うと、前線で戦う指揮官のタイプですので、参謀畑には向いていません........... どうせなら、より得意な前線での戦いをやりたいものです..................」
確かに、グライムは前線で戦う指揮官のほうが似合っている人間である。
なんせ、リバタリア共和国で一兵卒から叩き上げてきたのだから.....................
「わかった、考えておこう..............」
それを聞いたグライムの顔に自然な笑みが浮かぶ。
「ありがとうございます。まあ、ドルツィオ帝国との戦争が終わるまでは総参謀長としてやらせてもらいます.............. もしかしたらドルツィオ軍の中に、総参謀長を務めてくれる優秀な者がいるかもしれませんね............」
「ああ、そんな人材がいてくれたらいいな!」
話が終わり、俺達が会議室を出ようとしていたその時。
会議室の扉を誰かがノックした。
「入れ」
俺がそう言うと、会議室の中にカリウスが入ってきた。
「グレース様、先程の会議で質問し忘れていたことがあるので、今よろしいですか?」
「ああ、いいぞ」
それを聞いたカリウスは、一礼すると早速本題に入ってきた。
「先程の会議で戦略はわかりました。しかし、戦争を終わらせる戦略は定まっているのですか?」
それを聞いた瞬間、グライムの表情が変わる。
「私としては、敵の主力を潰したところで講話にのってくるとは思いませんが.................」
それは、ごもっともすぎる意見だった。
当時のこの国は、小国かつ新興国である。
対してドルツィオ帝国は、この九つ目の勢力圏の超大国。
主力を潰したところで、講話にのってくるとは、とてもだが思えなかった。
「確かに、講話にのってくるとは考えにくいな...............」
戦術面で勝っても、外交という戦略面では勝てない。
そのことを思い出した俺は、考えが止まってしまった。
「そこで提案なのですが...............」
カリウスが、それを見て冷静に口を開く。
「トラキア王国に、講話する時の仲介役を頼みませんか?」




