57話 刃か言葉か
東暦7029年4月15日
ドルツィオ帝国軍からのミサイル発射に対して、ミサイルを撃ち落とすために艦隊の各艦から一斉に機関砲が放たれる。
漆黒の宇宙を切り裂く弾の軌跡は、恐ろしいものでありつつも、俺の中では線香花火のような美しさにも思えた。
数秒後、こちらに向かってきたミサイルは、激しい爆発とともに、原子へと還元された。
「ミサイルの迎撃に成功!」
戦艦ヴェストファーレンの艦橋内に、レーダー員のロボットの声が響き渡った。
本当なら、そのことを素直に祝いたかった。
しかし、そんなことをしている余裕などなかった俺は、大声ですぐさまこう命令していた。
「全艦に通達、これより、ドルツィオ帝国を敵とみなし、攻撃を行う! 全艦、戦闘配置につけ!!」
それは、国家間どうしの戦争にほぼ確定で突入するほどの大変危険な命令だった。
「お待ち下さい!」
だが、そんな命令を口に出した瞬間に、総参謀長であるグライムが大声で俺を静止した。
「これは明らかなる挑発、こちらが乗ってしまえば、奴らに戦争を始める大義名分を与えてしまうことになります」
グライムは、感情的になっている俺とは対照的に、いつもの冷静な姿勢を崩すことなくそう言い切った。
「なんだと、先に撃ってきたのは向こうだぞ!!!!!! なぜ奴らに大義名分を与えることになるんだ!!!!!!!!!!」
グライムは、俺の態度を前に、眉一つ動かすことなく説明をする。
「グレース様、我らのような小国の言っていることを、他国が信じると思いますか? それに、このような手口は、奴らが戦争を始めるときの常套手段です」
「.........................」
それは、めちゃくちゃ正確に物事を考えており、俺のことを黙らせるには十分すぎるものだった。
「ここは、反撃せずに我々の余裕を見せつけ、その間に外交で解決しましょう」
「だが、奴らの対応は、俺達のことを歯牙にもかけない態度だったのだぞ!」
「我々の目的は拿捕された輸送艦の解放、輸送艦一隻なら金を積めばどうにかなります」
グライムは、自分の意見をはっきり言い切ると、その考えに肉を詰めていくように根拠を述べていく。
「おそらくですが...................... 奴らの目的は戦争を始めることである可能性が高いです、それが破綻した今、輸送艦一隻などに価値などありません」
普段の俺だったら、いちいち反論してグライムを困らせていたかもしれない。
しかし、前回ので反省しまくっていたのも相まって、それを聞かされた俺は、グライムの言葉に完全に納得させられてしまった。
「わかったよ............ 君の発言を信じよう」
そう言うと、俺は全艦に向けて通信回路を開く。
「全艦、先程の命令は取り消しだ。 警戒態勢を取りつつ、ドルツィオ軍のミサイルの射程圏外まで転進する!」
その頃。ドルツィオ帝国の旗艦である戦艦インペリアの艦橋内では、グライムの考え通りに事態が動きつつあった。
「提督、ヴァルキリア軍は反撃してきません..................」
それを参謀から聞いたカカロマフ提督は、少し笑いながら話を始めた。
「やはり引っかからないか............. 相手さんは立派な指揮官を持っているようだ」
「そうですね............. では、本国からの指示通りに輸送艦を解放しますか............?」
実は、ドルツィオ本国から届けられた命令書は、攻撃命令以外にもう一つあった。
「反撃してこなかった場合には輸送艦を解放し、事態を収拾せよ」こんな感じの命令だ。
流石に無責任すぎる、しかし、それがドルツィオの上層部なのだ。
「ああ、解放してやろう」
そう言うと提督は、艦の通信回線を戦艦ヴェストファーレンに繋いだ。
数分後、ヴェストファーレンの艦橋内は、先程までの緊張とは打って変わり、緊張から解放された雰囲気になっていた。
「君の読みが当たったな..............」
ドルツィオ側から届けられた電文、それは、「輸送艦を解放すると共に、非礼をお詫びする」という内容だった。
「ええ、当たって良かったです............」
グライムは冷静な表情で笑いつつも、内心ではすごく喜んでいそうな感じだった。
三十分後、約束通りに輸送艦が解放されたと同時に、戦艦インぺリアから一本の電文が届けられた。
「貴官の行動に心からの敬意を示す、再び会う時まで健在であれ」
それを聞いた俺は、グライムにこう質問していた。
「なあグライム、これは褒められているってことでいいのか?」
「ええ、そういうことです」
それを聞いた俺は、心のなかで二つの気持ちがぶつかりあい、なんとも複雑な気持ちとなった。
一つは、相手から褒められて素直に嬉しい気持ち。
もう一つは、ドルツィオ帝国への怒りであった。
しかし、そんな複雑な気持ちが心の中で誕生してしまっても、礼儀は礼儀だ。
「俺の名で、相手さんにこう返信しといてくれ。 こちらこそ、再び合う時まで健在であれ、とな」
こうして、この事件は一応落ち着きを見せた。
しかし、この事件によりヴァルキリア王国とドルツィオ帝国の対立に一層の拍車がかかったのは一目瞭然であった。
そして、この時に俺とカカロマフ提督はとても短いやり取りをしたが、わずか五十日後である6月5日に再びやり取りをすることになる。
しかし、そのやり取りは言葉ではなく、軍艦のレーザーやミサイルによってだが......................




