56話 火種
東暦7029年4月15日
この日、俺に率いられたヴァルキリア王国の艦隊は、アルディア星域にて、ドルツィオ帝国の大艦隊と対峙していた。
すでに、事件発生から八日が経過し、ヴァルキリアとドルツィオは、まさに一触即発の状況であった。
この八日間、俺達はルーンハイムを含めて、あらゆる交渉を行ってきていた。
しかし、奴らの言ってきたことは、こちらには到底受け入れきれないものであった。
「我が国の艦隊に接近してきたので、拿捕したまで」
奴らの言ってきた内容を手短にまとめると、こんな感じだ。
いや、実際これの一言しか言われていなかった.......................................
小国だから舐めていたのだろう、だとしたら、こんなふざけた内容を俺達に平然と送ってくるはずがない。
まあ当然だ、なんせ当時のヴァルキリアは辺境の弱小国家だったのだから..............
「ドルツィオ帝国の艦隊は、戦艦七隻を中心にしています、おそらくトウキョク星域に展開している前線部隊総出で進出してきたのでしょう............. さすが、この勢力圏のトップを自称しているからには、挑発も見えを張っていると見えます」
ドルツィオ帝国の艦隊の規模をひと目見た総参謀長のグライムは、冷静に分析をするとともに、少しの冷笑を含めてそう言った。
「ああ、こちらとは互角と言ったところか..................」
この時、俺達が投入したのは三個艦隊である。
当時の俺達の艦隊は、戦艦二隻を中心に二十隻の艦艇で構成されていた。
それが三個、紛れもなくかなりの大艦隊であった。
普通、こんな艦隊を見たら何かをしようとは思わない。
少なくとも俺はそうだった...........................
その頃、ドルツィオ帝国の旗艦である、戦艦インペリヤの艦橋内では、とある議論が交わされていた。
「本国からのこの命令は、あまりにも危険すぎます!」
艦橋内に、参謀であるモルトケ中将の訴えかける声が響き渡る。
彼の顔は、とても焦りに満ちていた顔だったそうだ。
彼の手には、一通の本国からの命令書が握られていた。
内容は極めて単純。
「ヴァルキリアの艦隊を攻撃して威嚇せよ」、ただ、これだけだった。
実は、この事件が起こるちょうど一ヶ月前、ドルツィオ帝国の皇帝はとある決断をしていた。
東暦7029年3月15日
これは、皇帝とその腹心である部下たちの会話である。
「やはり、あのヴァルキリアは放置しておけないな........................」
皇帝が、普段なら珍しい冷静な表情でそう呟く。
「ええ、力がより強大になる前にも、潰しておくべきかと....................」
そう進言したのは、帝国地上軍の最高司令官である、武力を第一に信じている強硬的なフロスキー元帥だった。
「しかし、こちらから宣戦布告した場合には、トラキア王国が動くかもしれませぬ.............」
それに対して冷静にそう発言したのは、帝国宇宙艦隊を率いるのには少し似合わない、温厚的なバルクモロー元帥だった。
「ふむ、たしかにな.................」
皇帝は、冷静に考えを張り巡らせる。
だが、フロスキー元帥が、少し冷笑を含めながら宇宙艦隊を率いる元帥に向けてこう発言した。
「ほう、皇帝陛下の作り上げた宇宙艦隊の力を疑っておるのか、司令長官殿は?」
それは、元帥を明らかに煽る発言だった。
当然、バルクモロー提督は引き下がらずに反論する。
「なんだと、私はトラキアが動いた場合にめんどくさくなるからこう言ったのだ!」
「ふん、それを疑っているというのだ! 司令長官殿は臆病風に吹かれていると見える!」
「貴様!!!!!」
その完全なる侮辱の発言に対し、バルクモロー提督は怒りを声にあらわにした。
「静まれ、二人とも!」
まさに喧嘩寸前、その空気を浄化したのは、皇帝のその言葉だった。
二人とも、皇帝にそう言われてしまえば、喧嘩などできるはずがない。
「誠に申し訳ございませぬ、陛下................」
二人とも落ち着きを取り戻し、冷静な声で口を揃えて非礼を詫びた。
それを確認した皇帝が、一つにまとまった自身の考えを口に出す。
「トラキアが動く前に奴らを潰せばいいだけのことだ」
その考えを聞いたフロスキー元帥は、先程まで争っていたもう一人の元帥に向けて、顔に少しの笑いを浮かべた。
「バルクモロー、トウキョク星域に展開している艦隊を、ルーンハイムに動かせ! そして、ヴァルキリアの艦艇を拿捕するのだ! そして、奴らが攻撃してきたならば、その場で打ち破れ!」
その発言を聞いたバルクモロー元帥は、表情を変える。
だが、若き者と違って、皇帝に反論するということの罪をよく理解していた元帥はこうとしか発言しなかった。
「はっ..........................」
「しかし、皇帝陛下の命令を無視するわけにはいかぬ...................」
戦艦インペリアの艦橋内にて、三日前に五十六歳を迎えた初老の艦隊司令官である、カカロマフ提督は冷静にそう言った。
ドルツィオ帝国では、皇帝の命令が最優先である。
故に、この提督は当然のことを言ったまでだった。
命令書に書いてある命令の内容は、あまりにも危険すぎる内容。
普通なら、全面戦争に即座に発展する恐れのある行動だった。
だが...........................
「これより、命令通りに威嚇射撃を行う!」
戦艦インペリアの艦橋内に、老提督の声が響く。
その瞬間、少しのざわめきが艦橋内で広がるも、兵士たちはすぐさま準備を開始した。
「閣下、どうかお考え直しください!!!」
若きモルトケ参謀は、かなり焦りながら必死に上官を止めようとする。
「参謀、君は皇帝陛下の命令を無視するのかね?」
しかし、上官から帰ってきた言葉はそんなことだった。
ドルツィオ帝国は皇帝の命令こそが最重要であり、それに逆らうことは”死”を意味する。
「.......................出過ぎた真似をしました............」
これ以上は死を意味していたのを察知した若き参謀は、そう言って下がってしまった。
「閣下、射撃準備が整いました」
数分後、一人の兵士がそう告げた。
「よし、始めろ!」
老提督の口からその命令が発せられた瞬間、一発のミサイルが放たれた。
ミサイルの発射を探知した瞬間、俺達の旗艦である戦艦ヴェストファーレンの艦橋では、オペレーターのロボットの大きな声が響き渡った。
「戦艦インペリアからのミサイル発射を確認、直撃コースではありませんが、本艦直撃ギリギリのコースです」
その瞬間、俺の背筋全体に冷や汗が浮かび上がる。
「なっ....................」
一瞬、そんなことを口から発したが、その時の俺は、今までの俺とは違った。
すぐに思考を全力で回す、そしてある結論を一瞬で叩き出した。
威嚇かもしれない、だが、部下の命を守ることが最優先だ。
そう思った俺は、すぐに大声で叫ぶ。
「万が一のことがあるかもしれん................. 対空戦闘、機関砲で撃ち落とせ!」
その命令が俺の口から大声で発せられた瞬間、艦隊の各艦から機関砲が一斉に火を吹いた。




