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帝国のつくり方  作者: ムックk
建国編
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50/61

50話   静かに進み始めた道

 東暦7028年7月29日

 この日、俺は執務室の机に広げられた一冊の計画書を、長い時間黙って見つめていた。

 室内は、静まり返っていた。

 外では、いつもと変わらぬ日常が流れているはずであったが、この一冊の計画書に書かれていた内容は、俺の平和な日常を崩すものであった。

 計画書のタイトルには、黒々とした文字でこう記されていた。


 「第二次艦隊増強計画」


 その文字の重さは、紙の束の厚みなど比較にもならないものだった。


 「戦艦二隻を中心とした艦隊を、六つもか...................」


 当時、思わず俺の口から漏れた独り言は、驚きとも呆れともつかない響きを持っていた。

 だが、それも無理はない。

 この計画書の内容を簡潔に要約すれば、こんな感じの内容である。


 ドルツィオ帝国の領土拡大政策に対抗するために、戦艦二隻を中核とした二十隻規模の艦隊を、六個編成する。

 まあ、要するに


 新たに六個艦隊を創設するというものである。

 

 今こうして書いていても思うが、まったく、正気の沙汰ではないぶっ飛んだ計画だ。

 一応言っておくが、当時のヴァルキリア王国は、建国からわずか一年ほどしか経っていなかった。

 普通の国なら、まだ行政機構の整備すらまともに終わっていない状況だろう。

 それなのに、六個艦隊を新設し、強国に対抗しようとしている。

 冷静に考えれば、狂気というか異常としか言いようがない。

 だが同時に、それがヴァルキリアという国なのだ。

 ヴァルキリアという国家は、最初から魔法というガジェットと、優れた人材によって。最初から常識の枠の外側を歩き続けてきた。

 ていうか、そんな話を書いている暇はない。

 今ここで書かなければ行けないのは、「どうしてこんなことになったのか?」というものである。

 



 東暦7028年、この年は当時のヴァルキリア王国があった九つ目の勢力圏にとって、大きく歴史が動き始めた年であった。

 それはどうしてか? 答えは、三百年にも渡って九つ目の勢力圏の覇権をトラキア王国と争っていたドルツィオ帝国が、大規模な領土拡大を始めたからである。

 わずか半年、たったそれだけの期間で三つの小国が地図から消えた。

 なので、危機感を持ったグライムによってこのような計画が提案されたのである。

 外交もなければ猶予もなく、ただ軍が進んで、国が消えた。

 それだけだったのだ.............

 最初の国が飲み込まれた時、当時の俺はまだ、「遠い話だろう」そう思っていた。

 しかし、それは間違いであった。

 帝国は、急速かつ確実に俺達の国に向かってきていた。

 だが、同時にその自体に危機感を持ち始めた者も何人かいた。

 その中でも一番最初に行動にうつしたのが、グライムであった。




 翌日、計画書の内容を一晩かけてじっくりと読み込み、俺は計画の発案者であるグライムを呼び出していた。


 「グライム、この国とドルツィオ帝国の戦力差はどんな感じだ?」


 俺がそう質問すると、グライムはわずかに頷き、淡々と説明を始めた。


 「ではまず、我々の保有する戦力です.................」


 執務室の壁面に設置されているモニターに、俺達の保有している艦艇の数が表示された。


 「我々は現在、戦艦四隻を中心に、七十二隻の戦闘艦を保有しています。 さらに、支援艦艇四十隻を含めて、これらを五個艦隊として運用しています........」


 それは、建国からわずか一年の国家としては、常識を逸した”異常”な規模のものであった。

 普通なら、誇っていい数字だ。

 だが、あの時のグライムの声は、少しも誇らしげの声ではなかった。


 「それに対して、ドルツィオ帝国の戦力です....................」


 次にモニターに表示された数値を見て、俺は一瞬、安堵しかけた。


 戦艦七隻、重巡洋艦四隻。軽巡洋艦十五隻、駆逐艦五十五隻


 数としては、普通に多い数だ。

 しかし、一見すれば「なんとかなるかもしれない」、そう思えてしまうような数であった。

 だが、グライムの放った次の一言が、俺のその甘すぎる幻想を跡形もなく粉砕した。


 「一応、これがドルツィオの”前線部隊”です................」


 「............................は?」

 

 流石に、これには思わず声が漏れた。

 まあ。理解が追いつかなかったのだ。


 「どういうことだ.................?」


 俺の問いに対し、グライムは冷静な表情を変えることなく、極めて冷静な声で答えた。


 「ドルツィオ帝国は現在、トウキョク星域に新たな軍事拠点を建設中です。 つまり、今表示されている戦力は、あくまで前線に送られてきた一部の戦力に過ぎません」


 流石に、これには背筋に冷たいものがめちゃくちゃ走った。

 この数でも、”一部”なのだから.......................

 

 「じゃあ、主力は................?」


 声が震えていて、このことから目をそむけたかったが、続きを聞かずにはいられなかった。

 モニターに、新たな数字が表示される。

 それは、まさしく地獄絵図と言っていいほどのものであった。


 戦艦十四、重巡洋艦八隻、軽巡洋艦二十隻、駆逐艦六十隻


 室内の空気が、一瞬にしてさらに凍りついた。


 「これが、ドルツィオ帝国の主力艦隊です......................」

 

 グライムは、微動だにせずに言った。

 そこには、恐怖などなく、現実の提示だけだった。

 

 「このままドルツィオ帝国が領土拡大を続ければ...........................」


 グライムの声は低かったが、それは確実に当時の俺の耳を貫いた。


 「我が国は、必ず飲み込まれます.....................................」


 それは予測ではなく、宣告であった。


 「どうか、計画の承認を」


 グライムは、まっすぐと俺をみてそう言った。

 その瞳には、今までの部下を食わせるために戦うという、グライムの信念が宿っていたのではなく、国家を守る覚悟があった。

 当時の両国の戦力差は、”一対三”、それは、かなり厳しい現実であった。


 「わかった、パウルと相談して好きにやってくれ........................」


 結局、俺はグライムの計画を承認するしかなかった。

 グライムは、深く頭を下げた。


 「ありがとうございます................」


 それは、短い言葉であったが、確かな重みがあるものだった。




 こうして、この国にとって初めてとなる、大規模な軍備拡張計画が始動した。

 それは、当時のこの国の総力を上げた挑戦であり、同時に、外交の最終手段である”戦争”という物への備えであった。

 この計画は、当時のこの国にとって、かなりの困難をもたらした。

 だが、それでも俺達は前に進んでいった...................

 なぜなら、この世界は止まった国家から、滅びていくからだ........................


 そして今、このことをこうして振り返ってみればわかる。

 あの時の選択は、間違っていなかった。

 むしろ、この決断こそが、この国を歴史を未来へと進めていったのだ。

 なにしろ、この「第二次艦隊増強計画」こそが、後にこの国がドルツィオ帝国との戦争を生き延びることが出来た、最大の要因となるのだから..............................

なんとか50話まで行くことができました!

これからもよろしくお願いします!

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