48話 カリウスの試練
東暦7028年6月2日、15時00分
この時刻、ヴァルキリア王国にとって史上初である他国との外交交渉が、幕を上げようとしていた。
場所は、ルーンハイム王国の王城の大会議室。
天井は高く、壁面には様々な彫刻などが城らしく見事に飾られていた。
この重要な話し合いは、ルーンハイム王国第三代国王である、フォーチュン三世のこの言葉によって幕を上げた。
「まずは、我が娘であるミストルを助けていただき、誠にありがとうございました!!!!!!!」
それは、部屋一面に轟くようなとてつもなく大きい声であった。
穏やかな外見からは想像もつかないほどの、大きく真っ直ぐな声。
それは、嘔吐してのことばというよりも、一人の父親としての、娘を救ってくれたことへの心からの感謝の声であった。
その声に室内には、静寂が訪れる。
二十秒ほどしてその沈黙を破ったのは、ガスターであった。
「いえいえ........................」
ガスターは、落ち着いた様子で頭を軽く下げながらこう言った。
「人助けをするのは当然のことなので.......................」
ガスターは、アイゼンシュタットに帰ってきた時に、俺にこう言っていた。
「あの国王には随分と驚かされたもんだ............. なにせ、穏やかそうなおっさんだからな................」
彼はそれを聞いた後、ゆっくりと穏やかな表情を引き締めた。
そこに現れたのは先程までの父の顔ではなく、一国の王の顔であった。
「それでは早速本題に移りましょう、我が国とヴァルキリア王国の国交の樹立とのことですね.........」
その言葉は先ほどとは打って変わって、とても冷静なものであった。
「はい、貴国はどうお考えておりますか..........?」
カリウスは、冷静に質問をする。
当時の俺からしたら、カリウスのこの姿は、少し信じがたいものだった。
なにせ、あれほど陽気で、活発に行動をするのだから。
だが、このときのカリウスはあの星を脱出するときの顔ではなく、一国の宰相としての顔だった。
すると、フォーチュン三世は悩むこともなく、口を開いた。
「我が国としては....................」
ほんの一瞬、室内の全員が息を止めた。
「ぜひとも、貴国との国交を開きたいと考えております!」
その言葉は、迷いもなく大きな声で放たれた。
その目には、国王としての決意があった。
それを聞いたカリウスは、わずかに微笑んでこう言った。
「それは話が速くて助かります、そうでしたら早速、今後の具体的な関係について話し合いましょうか!」
こうして、ヴァルキリア王国とルーンハイム王国の間に国交が結ばれたのである。
その夜は、王城では国交樹立を祝う盛大な宴が開かれた。
音楽が鳴り響き、うまそうな料理がたくさん並び、人々の笑い声が響く。
ルーンハイムの国民にとっては、王女の帰還を祝うものであり。
国家にとっては、新たな時代を祝う宴でもあった。
翌日から、今後のことや様々な条約締結に向けての会議が行われた。
軍事、交易、資源、技術、ありとあらゆる分野について、議論が重ねられていった。
その会議は、一週間にも及んだ。
流石に、その全てを書くのは大変なので、特に重要だったことを一つ書かせてもらおう。
それは、ヴァルキリア王国とルーンハイム王国の”相互不可侵条約”についてだ。
会議の最終日、その提案を持ち出したのは、ルーンハイム側だった。
「なるほど、相互不可侵条約ですか.......................」
フォーチュン三世は、ゆっくりと頷いた。
「はい....................」
その声には、かなりの緊張が含まれていた。
「我が国は小国なものでして.....................」
その言葉は、誇りを捨てものではなく、現実を正確に認識した言葉であった。
「貴国のような強大な国家と不可侵条約を結ぶことができれば、我が国にとってこれ以上の安心はありません......................」
それは、小国が近隣にできた強大な軍事力持つ国家にたいして生き残る現実的な選択であった。
フォーチュン三世のこの選択は、本当に素晴らしいものだった。
俺は、この後に誇りなどというものを優先して自ら滅んだ国などをたくさん見たのだから....................
カリウスは、これを聞いてしばらく沈黙した。
このときの室内の空気は、ガスターによればかなり張り詰めていたそうである。
そして.....................
「いいですよ!」
カリウスは、あまりにもあっさりと言い放った。
一瞬にして、ルーンハイム側の面々の顔がぱっと明るくなった。
しかし、その直後にカリウスが静かに言葉を続けた。
「ただし..............」
その一言によって、会議室の空気は再び凍りついた。
「一つだけ、条件を飲んでいただけませんか?」
「何でしょう....................」
フォーチュン三世が恐る恐る問いただす。
カリウスは、そんなことを一切気に留めずにこう言い放った。
「条約を締結する代わりに、ルーンハイム王国内にあるワープホールにおいて、我が国の軍用艦の自由航行を認めてくれませんか?」
それは、対等な交渉というものではなく、戦略的な支配の要求だった。
ワープホールというものは、長距離のワープをするためのものだ。
これは、この宇宙に残っている古代文明の遺物であり、遺跡に残っている生きている機械を操作することによって、自由に止めることができる。
ルーンハイム王国には、生きている遺跡が残っているのだ。
普通なら、同等の力を持っていたら、こんな条件は絶対に飲まなかっただろう。
なんせ、自分の喉元にナイフが突きつけられているようなものなのだから.............
しかし、このときのルーンハイムにこの条件を突きつけたのは、それなりの兵力を持っている格上の国だ。
同時に、娘の命を救った国家だった...............
「わかりました...........................」
結局、ルーンハイム側はこの条件を飲むしかなかった。
やっぱり、いまこうして書いてみるとカリウスは計算高くて恐ろしいもんだ.....................
まあ、フォーチュン三世がこの条件を飲んでくれたのは、俺達のことを多少信頼してくれていたのもあるだろうが..........
こうして、ヴァルキリア王国とルーンハイム王国との間に、相互不可侵条約が締結された。
カリウスが飲ませたこの条件は、後にドルツィオ帝国という、この九つ目の勢力圏の覇権をトラキア王国と争う大国との戦争で大いに役立つこととなる。
まあそれは、遠くの話ではなく、この日からちょうど一年後である
東暦7029年6月2日に始まってしまう話なのだが..................................




