47話 行くぞ!ルーンハイム
東暦7028年5月14日
あの出来事からすぐに、ガスターからの緊急連絡が、アイゼンシュタットの行政ビルへと届けられた。
モニターに映し出されたガスターの顔には、いつもより少し焦りが浮かんでいた。
「というわけだ................」
ガスターは、記者の正体と、ルーンハイム王国へ招待されたという話を、急ぎながらも丁寧に報告した。
そして最後に、俺にすがるような声で、こう言った。
「どうするんだ、グレース?」
その言葉を聞いた俺は、自分の頭で考えられることを思いついたままに言った。
「どうするって言われても、怪しすぎるだろ......................」
俺は、椅子の背もたれに深くよりかがりながら、半ば呆れたようにそう答えた。
「まあ、怪しいが......... もし本当なら結構な恩を売りつけたことになるだろ?」
その言葉に、俺は一瞬だけ思考を止めた。
「つまり、外交に使ってくれってことか........ 王女たちの母国は、確かルーンハイム王国だっけ?」
「ああ、そのとおりだ」
ルーンハイム王国
それは、アストラ星域の南に位置する、アルディア星域に存在する小国である。
恒星一つと惑星一つのみという、狭き版図。
ワープホールは一応通っているが、通行する艦艇の数は少なく、交易の規模も限定的。
いわゆる、辺境国家というものである。
「まあ、もし罠だったとしてもルーンハイムなら今の戦力で倒せるか............................」
この言葉は、今考えると尋常じゃなくイカれているものだ、しかし、弱肉強食というこの世界の現実でもある。
少しだけ沈黙が流れた後、俺はゆっくりと口を開いた。
「わかった、ものは試しだし、ルーンハイムに行ってきてくれ! せっかくなら国交を開いておきたいしな!」
すると、ガスターは「マジか!?」みたいな顔をして、その顔通りのことを言った。
「おいおい、俺は外交なんかできないぞ? それに罠だった場合はどうするんだ?」
その問いに対し、俺は思わず不敵な笑みを浮かべてしまった。
「向こうでの話し合いはカリウスに任せろ。 お前はルーンハイムが変な行動を起こさないように艦隊で威圧してこい...................」
その言葉を聞いた瞬間、ガスターの表情が変わった。
「なるほど.............. それなら任せとけ!」
その目は、普段のガスターの攻撃的な目に戻っていた。
ガスターは、俺との会話を終えた後、再び二人を呼び出した。
「先程、国王陛下と連絡を取りました」
ガスターは、落ち着いた声でそう切り出す。
「国王陛下は、今回の件を期に、ルーンハイム王国との国交樹立を望んでいます」
その言葉に、紫髪の王女は安堵の表情を浮かべた。
「わかりました! 必ずや、我が国は皆様を歓迎いたします」
その言葉の奥には、明確な意思があった。
この後、アストラ星域にワーグナーの艦隊を残して、ガスターの艦隊は一度小惑星キケロに帰還した。
そこで、艦隊の補給と整備を済ませた後に、グライムの艦隊とカリウスを連れてルーンハイム王国への航海を始めたのである。
ガスター達がルーンハイム王国にたどり着いたのは、東暦7028年6月2日のことである。
その日、ルーンハイム王国の宇宙港管制室では、管制室にいた者全てがモニターに映るものを見て青ざめていた。
最初に異変に気づいたのは、一人の若いゴブリンの管制官だったそうだ。
「?」
彼は、その異変を見て、モニターを凝視した。いや、モニターを凝視ぜざるをえなかったといったほうがいいだろう.........................
「な、なんなんだこれは.....................」
次の瞬間、彼の声は震えていた。
モニターに映されていたのは、ヴァルキリア王国軍の大艦隊であった。
この時に送り込んだ艦隊は、ガスター艦隊の戦艦二、重巡二、軽巡四、駆逐艦十。
グライム艦隊の、戦艦一、重巡三、軽巡四、駆逐艦十。
合計、戦艦三、重巡五、軽巡四、駆逐艦二十の大艦隊であった。
この日の前日、宇宙港の管制官は、「ヴァルキリア王国の使節団がミストル王女を救助したついでに訪れる」とだけ言われていたそうだ。
しかし、当日になって現れたのは”ヴァルキリアの大艦隊”。
それは明らかに、使節団と呼べるほどの規模ではなかった。
戦争を始めるための艦隊、そう言われても、誰も否定できない規模であった。
その頃、戦艦ヘルダインの艦橋では、ガスターが腕を組みながらスクリーンを眺めていた。
「さて、ルーンハイムの連中はこれを見てどう思うかな?」
ガスターが不敵な笑みを浮かべながら、そう言った。
「まあ、下手な行動はとれないでしょう」
それは、淡々とした口調だったらしい。
その時、通信員のロボットがこう告げた。
「宇宙港からの通信です、収容能力を超えるため、衛星軌道上での待機を求めています」
通信員のロボットが、無機質な声でそう言った。
「わかった」
ガスターはそういった後に、グライムに一つの命令をした。
「もし俺達に何かあったら、迷わずにルーンハイムの首都を占領してくれ」
その声は、恐ろしいほどに冷静なものだった。
「本当にいいんですか、カリウス様?」
グライムの問いに、カリウスは迷いなく答えた。
「グレース様の命令なので問題ありません、それに、万が一の場合なので」
カリウスは、冷徹な声で簡単にそう言った。
「わかりました............. まあ、舐められたら終わりの世界ですから..............」
それを聞いたグライムも、すぐさま納得した。
三十分後、四人を載せたシャトルは、戦艦ヘルダインから出発した。
宇宙港にたどり着いたカリウスたちを待ち受けていたのは、ルーンハイム王国の国民の熱烈な歓迎だった。
国民の歓迎は、王女を救った英雄を歓迎するものであった。
「なんか照れるな................」
このときのガスターは、国民の熱烈な歓迎に、珍しく照れていたそうだ。
「迎えが来ています、行きましょうか!」
ミストルが手を指す先には、いかにも高級そうな車が何台も待機していたそうだ。
「ええ、行きましょう」
カリウスがそう言うと、皆は車に乗り込んだ。
まさにこの日、ヴァルキリアという国の初めての外交が行われようとしていた。
同時にこれは、カリウスの宰相としての実力が試される、初の戦場でもあった。




