46話 ガスターの試練?
東暦7028年5月1日
アストラ星域に派遣されたヴァルキリア軍は、月が変わると同時に、宙賊の占領地である惑星に対する降下作戦を開始した。
この作戦では、グライムの軍事改革で新たに誕生した”地上軍”が初めて実戦投入された。
これは当時から変わらないが、ヴァルキリア軍には、大きく分けて二つの軍がある。
”宇宙軍”と”地上軍”だ。
宇宙軍は、宇宙艦隊を中心とし、制宙権を確保することを任務とする。
対して地上軍は、惑星へ降下し、敵拠点の制圧をするということを担う存在であった。
まあ、組織場は宇宙軍の補助的な立場に置かれているのだが..................
最初に降下作戦が行われたのは、Ca5748という惑星である。
この惑星には、宙賊の採掘基地が複数存在していることが事前の偵察によって判明していた。
当初の見立てでは、この作戦はかなり苦戦すると見られていた。
それはどうしてか? 答えは、ヴァルキリア軍にとって、惑星の制圧という本格的な地上作戦はこれが初めてであったからだ。
地上戦は宇宙での戦闘とは違い、地形、建造物、視界、天候などのさまざまな要素が戦況を左右する。
それに、地上軍の兵士は指揮官以外はほとんどがロボットだ。
そのため、この惑星の完全制圧には一ヶ月ほどの月日を要するとの予測が立てられていた。
だが、その予測は良い意味で裏切られることとなった。
5月3日、惑星に降下してから初の敵拠点攻略作戦が実施された。
ロボット兵がパラシュートを使って降下し、宙族の鉱山基地へと次々に突入していった。
地下の坑道は、暗く、狭く入り組んでいる。
しかし、センサーで敵を捉える力が高かったロボット兵は、次々と坑道内の敵を制圧していった。
やがて、六時間にわたる激戦の末、敵の最後の抵抗が沈黙した。
拠点の制圧は成功したのである。
この成功を皮切りに、この惑星の敵拠点は次々と陥落していった。
結果として、わずか一週間という短期間で、惑星全域の制圧が完了した。
この結果は、当時の軍の内部でかなりの衝撃をもたらした。
そして三日後、隣の惑星であるCa5749の攻略作戦を開始された。
東暦7028年5月12日
ガスターは旗艦である戦艦ヘルダインの艦橋で、スクリーンを静かに見つめていた。
「攻略作戦は順調か? ガーランド大佐」
低い声で、明確に問いかける。
「はっ、残る敵の拠点は二つ、作戦はとても順調に推移しています!」
若き大佐は、自信満々にそう答えた。
この男は、若くして大佐の階級に就いた男であり、その実力はグライム自身が保証している。
ここで少し、ヴァルキリア軍の階級について触れておこう。
まあ、流石に全部書くと大変なので、下士官と兵は省略させてもらう。
元帥、上級大将、大将、中将、少将、准将、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉、下士官、兵
全部書いてみるとこんな感じだ。
これは、ヴァルキリア軍の軍組織がグライムによって作られてから、全く変わっていない。
ちなみに、当時の軍のメンバーは、ガスターとグライムが中将、リアルヌとワーグナーが少将という感じだった。
「それと..................」
ガーランドは、一瞬言葉を区切った。
「敵拠点の制圧中に、トラキア王国の記者を二人保護しました。 現在は保護下にあります。 それで、その二人がお礼を言いたいとのことですが、お会いになられますか?」
その報告を聞いた瞬間、ガスターの中に小さな興味が芽生えた。
「...................少し興味があるな」
ガスターは腕を組みながら、そう小さく呟いた。
「落ち着いたらでいい、その記者を本艦へ案内してくれ」
「はっ、わかりました!」
二日後、戦艦ヘルダインの一室に、二人の記者が案内された。
一人は、紫色の髪を持つ若い女性。
もう一人は、片眼鏡をかけた白髪の老人であった。
二人は、部屋に入ってガスターに会うなり、深く頭を下げた。
「この度は命を救っていただき、誠にありがとうございました!」
その言葉は、心からのものだった。
「作戦行動中に助けたまでです、礼には及びません........」
普段は口が悪いガスターが、他国の人間の前でしか見せない丁寧な口調で応じた。
「ところで、お二人はなぜこんな危険な場所に?」
そう問いかけると、紫髪の女性が苦笑しながらこう言った。
「うちの会社はこんなところまで行かせるんですよ.....................」
その言葉には、諦めの感情が混ざっていた。
流石にこのことは、普段はのんきなガスターも引いたそうだ。
「そうですか.............. もしよろしければトラキアまで送ろうと思っていたのですが、どうします?」
すると、白髪の老人のほうが口を開いた。
「いえ、ちょうどこの仕事が終わったら会社を辞めて母国に帰る予定でしたので.........................」
そして、紫髪の方が続けた。
「もしよろしければ、私たちの母国に来ませんか? 艦隊の補給などでお礼をしたいのですが....................」
その提案を聞いた瞬間、ガスターの思考は一気に加速した。
「ワーグナー、どう思う?」
ガスターは、すぐさま隣に立っているワーグナーに小声でこう質問した。
するとワーグナーは、少し顔をしかめながら答えた。
「めっちゃ怪しいですね.............. トラキアのスパイではないですか?」
「同感だ、記者なんかがこの艦隊の補給をするなんて、できるわけがない.................. しかし、艦隊の補給ができるというのが本当だった場合、かなりの人物に恩を売りつけた事になる.........」
その会話には、ガスターらしくない冷静さが大量に含まれていた。
「失礼ですが、身分を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
ガスターは、再び記者たちを見ると、そう言った。
「申し遅れました、私はルーンハイム王国第四王女の、ミストルと申します!」
「私は、ミストル様の執事であるガンツと申します」
それを聞いたガスターとワーグナーは、思わず絶句した。
そして、少しして落ち着きを戻した後に、こう言った。
「これはとんだご無礼を...................」
そして、ガスターは少し考えた後に、二人に向けてこう言った。
「我々では決められないので、王に聞いてから返答させてもらいます。 それまで本艦て休んでください、部屋を案内させます。」
普段はこういう場面が得意ではないガスターへの試練が始まった。




