45話 新たなる力
東暦7028年4月22日
アストラ星域に到着したヴァルキリア軍は、到着と同時に作戦行動を開始した。
最初に着手したことは、星域全体を監視する哨戒網のこうちくであった。
この作戦には、哨戒艦が二十四隻も投入されていた。
この作戦で哨戒艦のがこんなにも投入された理由は、前回の単一の惑星を監視するものとは異なり、星域全体を対象として索敵を行うためでもあったが、この時期にヴァルキリア軍の戦略思想が定まっていたからでもある。
あの戦いの後、俺はグライムに一つの命令をしていた。
「宙賊の戦略と戦術を、可能な限り吸収してくれ」
グライムは、この命令を言葉どおりに受け取った。
その結果、ヴァルキリア軍の基本戦略は、「広域の哨戒による敵の早期発見と、通商破壊による敵戦力の漸減」というものとなったのである。
しかし、この戦略を成立させるには、艦艇の数が決定的に不足していた。
俺達はそれを解決するために、とあることを考えた。
それは、「自ら造る」というものだった。
しかし、「軍艦を建造するには技術と時間がかなり必用なんじゃないか?」、これを読んだものはそう思うかもしれない。
だが、当時の俺達にはそれを達成する条件が揃っていた。
まずは技術。これは、当時持っていた軍艦を参考にすれば、すぐに達成できるものであった。
次に時間。これも、建築加速の魔法を使うことによって、いとも簡単に達成することができた。
こうして、短期間のうちに大量の哨戒艦と、通商破壊を行う駆逐艦が建造されたのであった。
後に、この建国期の軍備拡張は、「魔法と工業による軍事革命」、そう呼ばれることになる。
まあ、当時の俺達はそんなに深く考えずに軍艦を作りまくっていたのだが..................
ただ、一つだけ言えることがある。
この時から、ヴァルキリアという国は、「国家としての戦争遂行能力」を僅かだが手に入れていた。
東暦7028年4月25日
前日に哨戒艦が補足した宙賊の輸送船団に対し、ワーグナーが率いる艦隊が襲撃に向かった。
「敵輸送艦隊の陣容は?」
ワーグナー艦隊の旗艦となった軽巡アドラーの艦橋で、ワーグナーはそう質問していた。
「輸送艦二十、駆逐艦四、哨戒艦からの報告と同じ内容です」
レーダー員のロボットが、無機質な声でそう告げる。
それを聞いたワーグナーは、不敵な笑みを浮かべた。
「これなら問題はなさそうだ............... しかし敵さん、どうしてこんな狩られやすい場所を通るかね.......」
その言葉には、冷笑がそれなりに含まれていた。
このときの戦いの場となったのは、小惑星帯であった。
小惑星帯の複雑に入り組んだ岩塊群は、艦隊行動にとっては視界が遮られて危険であると同時に、待ち伏せには理想的な地形でもある。
視界が悪くて待ち伏せがしやすいとなると、必然的に交戦距離は短くなり、戦闘は乱戦になることがほとんどだ。
本来ならば、そういうときにはレーダーが生命線となる。
しかし、このときのヴァルキリア軍は、事前に電波妨害を敵艦隊にかけており、敵の生命線を断っていたのである。
同日の7時46分、ワーグナーからの命令が発せられた。
「全艦、突入せよ! 一撃で全艦仕留めるぞ!」
ワーグナーのその命令と同時に、小惑星の陰に潜んでいた駆逐艦十六隻が一斉に敵艦隊に襲いかかった。
小惑星の陰から現れた艦隊は、死神のごとく敵の輸送艦に迫った。
次の瞬間、空間は閃光で満たされた。
敵の輸送艦はなすすべなく次々と爆散し、護衛の駆逐艦は反撃することが出来ずに一隻一隻と爆散するか、戦闘能力を喪失していった。
ワーグナーの艦隊は、このときにお得意の機動戦術を行い、徹底的な”ヒットアンドアウェイ”で敵艦を破壊していった。
敵は、この戦い方を前に、照準をまともに合わせることも出来ずに敗北していったのである。
結果、わずか五分ほどの短い交戦時間にもかかわらず敵は輸送艦すべてと、駆逐艦三隻を失った。
対してワーグナーの艦隊は、損害ゼロだったのである。
こうして、アストラ星域での初めての戦闘は、”パーフェクトゲーム”という形で終わったのである。
東暦7028年4月27日
さらに事態が大きく動いたのは、この戦いの二日後のことであった。
その日、哨戒にあたっていた哨戒艦C18から、敵艦隊補足の報告がガスターのもとに届いたのである。
「思ったよりも早かったな............... ナイスだワーグナー、おそらくだが、お前が敵の輸送艦隊を壊滅させたことによって、焦ったのだろう」
それを聞いたワーグナーはスクリーンの画面越しに、少し照れくさそうにこう言った。
「ありがとうございます!」
それを聞きながら、ガスターは敵艦隊の陣容を改めて確認した。
「戦艦一、重巡一、軽巡四、敵の陣容を見るに、力任せに押し込んできそうなかんじだな........... 俺達の艦隊のことを、駆逐艦だけの烏合の衆だとでも思っているのだろう.....................」
その言葉に、通信越しのワーグナーが言葉を返す。
「ええ、宙賊というものは素晴らしい勇気をお持ちのようで...........」
ワーグナーの皮肉を含んだ言葉に、ガスターはわずかに笑みを浮かべた。
「お前の艦隊が離れていて投入できないから、俺の艦隊でやらせてもらうぞ」
「はっ、宙賊のやつらに力の差を思い知らせてやってください!」
同日の18時46分、ガスターの艦隊と、宙賊の艦隊は、お互いを目視で捉えていた。
「撃て!」
最初に砲撃を開始したのは、戦艦を有している宙賊ではなく、俺達の艦隊だった。
ここで、グライムが言っていた例の”新型艦”のことを思い出してもらおう。
そう、その新型艦というのは”戦艦”であった。
しかも二隻、こいつらは今後の軍艦建造に役立てようとして購入したものだ。
戦艦ヘルダイン、ヘルゴラント、この二隻から放たれた砲撃は、あまりにも強力なものであった。
いくら、シールドと装甲があってタフな戦艦でも、同じ戦艦二隻からの砲撃を受けてしまえばひとたまりもない。
その巨体は、その一撃で火球へと姿を変えたのであった。
この出来事は、宙賊の艦隊を怯ませるには十分すぎるほどのものだった。
その隙を、ガスターが見逃すわけがない。
「いまだ!敵が怯んだうちに、軽巡は左右に展開、包囲殲滅する!」
それを見たガスターの無慈悲な命令がすぐさま飛ぶ。
すぐさま、左右に展開した軽巡部隊が、敵を完全に囲い込む。
逃げ場は”ゼロ”、あとは火力の差が結果を決めるのみであった。
しかし、戦艦を失った敵艦隊は火力が少なく、次から次へと原子へと変換されていった。
戦場は、一方的な殺戮の場所と化した。
そして19時12分、レーダーから敵艦の反応は消えていた。
それはすなわち、殲滅ということである。
少し前までは怯えていた宙賊の艦隊、それさえもヴァルキリア軍は、いとも容易く倒せるまでになっていたのである。
また、このアストラ星域の開拓を機に、ヴァルキリアは次々と領土の版図を広げていくのである。




