43話 商会が移住してきた
では次に、俺達が中央政府の機構をどのようにして整えたかを書いていこう。
国家というものは、王が存在しているだけでは成り立たない。
食料を管理するもの、インフラを管理するもの、軍隊を率いるもの。
どれほど優秀な王概要と、一人で国家を動かすなど、よほどの”化物”でもない限り、絶対に不可能であると、俺は思う。
だからこそ、俺達は国家を支えるための”中央政府”というものを作り上げる必要があったのである。
当時のこの国は、すでに五つの部門が存在していた。
食料部門、建築部門、軍事部門、工業部門、科学部門である。
これを、前回の会議で言ったように、正式な官僚機構としての「省」というものに再編した。
そして、それぞれの部門のリーダーを、そのまま「大臣」という役職へと任命した。
まずは、これらの具体的な内訳を見ていこう。
食料省。
これは、それまでの食料部門を拡大させたものであり、食料の生産、備蓄、流通、輸入を一括して管理することとなった。
当時のこの国は、発展途上であり、農地も限られたものであった。
そのため、食糧問題は国家の存続に直結する、最重要課題であった。
ゆえに、やる業務はかなり多くなった。
大臣に任命されたのは、今まで通りのコンラートである。
彼は実直な人物であり、華やかな才能こそないものの、現場のことをとても良く理解していて、何より数字に強かった。
今思えば、コンラートを大臣に任命したのは、本当に正解だった。
このときの食料省の内部は、こんな感じである。
農産局
畜産局
輸出・国際局
農産局は、農地の管理と作付け計画を担当し、畜産局は家畜の飼育や養殖の管理を担当した。
そして、輸出・国際局は財務省と連携して、他国との食料取引や、輸入品の管理などを担当することとなった。
人数は、ロボットを合わせると三百人近くに登る。
この人数で、八千人近くに及ぶ当時の食糧生産者を管理する。
当時としては、かなり大規模な行政組織だったと言えるだろう。
工部省。
これは、それまでの建築部門を再編したものであり、建築物の建設、インフラ整備の計画や指示出しをする組織だった。
国が拡大すれば、人も自然と増える。
人が増えれば、自然と家が必要となる。
さらに、道路や倉庫、工場が必要となる。
”工部省”というものは、「国家の形」というものを作る省なのだ。
大臣に任命されたのは、今まで通りにブルーノである。
ブルーノは、もともと熟練の大工であり、現場を誰よりも理解していた。
豪快で細かいことは苦手な男だが、現場の人間からは絶大な信頼を得ていた。
それにより、大臣として任命されたのである。
工部省の設立以降、この国ではさらに、インフラや住居が整備されていくことになる。
後に、「建国期の建設ラッシュ」と呼ばれるこの出来事は、工部省の功績だった。
工業省。
これは、工業部門を発展させたものであり、資源の管理、工業化製作の推進などを担う省だ。
この世界において、工業力は軍事力と同義である。
どれだけ優秀な兵士がいても、それを支える物を作ることが出来なければ戦えない。
逆に工業力を持つ国家は、負けていても工業力を使って、いずれ反撃することができる。
今までの経験を思い出せば、俺はこう思う。
大臣に任命されたのは、ロンメルである。
科学省。
科学省は文字通り、研究の管理などの科学に関すること全般を管理する省だ。
大臣に任命されたのはロンメル、今になって思い返せば、工業省と科学省の両方の大臣をロンメルに任せたのは、本当に無茶だったと思う。
だが、当時のこの国には、ロンメル以外にその役目を果たせる者がいなかった。
本人も、最初はとても嫌そうな顔をしていた。
「無理ですよ、今でも大変なのに、それが拡張されるとなったら、厳しいです」
しかし、俺が皆に質問をしたら、ロンメルはそれを渋々引き受けてくれた。
その質問が、これである。
「じゃあ皆、他に誰がやれそうか名前を上げてみてくれ」
そして、この質問には、誰も答えることが出来なかった。
「.............わかりました、やります」
こうして、ロンメルが二つの省の大臣となったのだった。
こんな感じで、既存の五つの部門は「省」へと変化を遂げた。
さらに、俺たちは新たな省を作ったのだ。
新たに作られた省は三つ、内務省、開拓省、財務省である。
内務省は、カリウスの下で俺の政治の補佐をする省だ。
開拓省は、文字通りに開拓事業を進めていく省。
財務省も、文字通りに国の財政を管理する省である。
しかし、この中でとある組織が極端に巨大化してしまったのだ。
それは、”財務省”である。
なぜなら、このタイミングでパウルの商会が丸ごと移住してきたからである。
パウル達が移住してきたあの日、作りたての宇宙船発着場には、無数の輸送船が並んでいた。
人、人、人。
とにかく、とんでもない商人が次々と降りてきたあの光景は今でも鮮明に覚えている。
「すごい人数だな、どのくらいいるんだ?」
その光景を見て、俺はパウルにそう訪ねていた。
すると、パウルは苦笑しながら俺からの質問に答えた。
「ざっと三千人ってところですね.........」
俺は、それを聞いて言葉を失った。
このときのヴァルキリア王国の人口はロボットをあわせて三万人、三千人という人数は、このときのヴァルキリア王国にとって決して少なくはない。
むしろ、一つの街が丸ごと増えるようなものだった。
「三千人か.......... まあ、住居と食料は用意するけど、その分何かしらはやってくれるんだろうな?」
俺がそう言うと、パウルは自信満々に胸を張った。
「もちろんです、この国の財政管理、輸出入、必用なら税の管理までやらせてもらいます! 何しろ、三千人もいますから!」
そう言って笑うパウルを見て、俺は思わず笑ってしまった。
「そうか、期待しているぞ! しかし、商会の皆はこの移住に賛成していたのか?」
「ええ、そもそもこの商会自体がグレース様の父上であるクラウス様が作ったものですから、異論はありませんでした」
ここで少し、パウルの商会のことを書こう。
パウルの商会は、もともと前のグレースの父親である、クラウスという人物がたった一代で作り上げたものだ。
しかし、その人物は知っている通り、宇宙船の墜落事故で命を落とした。
そして、その子である前のグレースも行方不明となった。
商会は、商会長と後継者を失い、かなりの危機に陥ったそうだ。
そこで、後継者として立てられたのがパウルである。
彼はもともと、クラウスに才能を見出され、商人としての教育を受けていたのである。
「若すぎる!」そう思うかもしれないが、パウルの商人としての才能はこの時点で完全に開花していたらしく、商会を率いるのに十分だったそうだ。
だからこそ、商会の者たちはパウルを信頼していた。
そして同時に、パウルが臣下になると決めた正式な後継者である俺のことも信頼してくれた。
だからこそ、商会の皆は移住してきてくれたのである。
あの日、パウルはこんなことを言っていた。
「グレース様のことを皆で支えますからね、一人で抱え込まないでくださいよ...........」
その言葉を聞いたとき、俺は一人で国を作っているのではないのだと実感した。
東暦7028年2月11日のことである。
まあ、こんな感じでこの国の中央政府機構は着々と整備されていったのである。




