新しい世界で 1
NPCだけの世界。
BGMだけがやけに耳につく。
「そういえばルチアさん、最近頭痛があまりしないんですね」
かつて人だったNPC、紫乃が座るベンチ。
彼女の目の前にはルチアがいる。
「確かに、頭痛で強制落ちってのはあんまりないな」
ルチアは素っ気なく言う。
「…もうここにはこないほうがいいんじゃないですか…?」
「どうしてそう思う…?」
紫乃は俯く。
「…ここにいたら…帰れなくなるから…」
「紫乃…」
彼女は人であった頃の記憶を少しずつ思い出しているようだ。
ならば尚更諦めることは出来ない。
「…大丈夫、帰れるから」
「嘘です」
「え…?」
紫乃は勢いよく立ち上がり、ルチアに詰め寄った。
「わかってるんです。この世界のこと。同じことをただ繰り返すNPCの中には人間がいること。私もその1人だってことを」
「紫乃….」
ルチアの前にいるNPCは、今にも泣き出しそうな顔で彼女を見つめる。
プログラムではない、人の顔で。
「まだ全部は思い出せない…どうしてここにいるのかとか…でも現実世界で生きていた事実はわかります…そしてルチアさんもこのままだと同じようになってしまう…」
紫乃はルチアに背を向ける。
「…もう…これでお終いです…」
「…!何を…!」
彼女の周りに二進数が渦巻く。
「あなたまで"死んでしまう"必要はないんです」
「紫乃っ…!」
静かな世界に、紫乃だけが残る。
「…私は…昔もこうやって誰かを突き放したような…」
「…くそっ…」
気が付けばルチアの自室。
「蹴られた…」
紫乃によって強制退去させられてしまったのだった。




