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紫乃のいる世界で


「あ、ルチアさん」


NPCだけがポツリポツリと暮らしている世界。

そこに紫乃がいる。


「今日も来てくれたんですね」


紫乃はルチアに嬉しそうな顔を見せる。

ルチアの見真似なのだろうが、感情を表せるまでに成長したのは事実だ。


「ああ、変わりはねえか?」

「今日は少し街の外を出ました」


自分以外の人を探しに行ったのだとか。


「でもやはり誰もいませんでした」


彼女は少し寂しそうにする。この表情も自分から学んだのだろうか。


「外に行くのはいいけど気をつけろよ?魔物がいないわけじゃねえんだし」

「ルチアさんが帰った後は一人ぼっちですから…」


その感情も紫乃が自分から覚えたものなのだろうか。


「ごめんな…」

「いえ、あなたがいるから今の私がいるんです」


今度はパッと明るくなる。自分より上手に笑えているような気がする。


「そういえば…知りたいことがあるんです」

「ん?」

「私はどうして"紫乃"なのでしょう?この名はルチアさんが付けてくれたのですか?」


この好奇心も自分が与えたのだろうか。


「うーん…名前を付けたのは俺じゃなくて紫乃の両親だろうから…」

「…?私を作ったのはあなたではないのですか?」

「紫乃を生んだのは紫乃の両親だよ」


彼女には理解出来ないようだ。


「ではルチアさんの名前もリョウシンというものから付けてもらったのですか?」

「この名前はユーザーネームだからなー」

「どうしてルチアなのですか?」


ルチアは少し照れくさそうにする。


「ルチアっていうのは聖人の名前でさ」

「聖人…?」

「ルチアは厳しい拷問を受けても、そのせいで目を失くしても、死ぬまで神を愛し続けた人なんだ」


空を見上げる。

この世界はいつも青空が広がっている。


「病室で眠り続けてた"あの子"を見てたらその名前が思い浮かんでさ…」


もうあの病室に紫乃の身体は無いだろう。


「ルチアさんにもリョウシンからもらった名前があるのですか?」


紫乃は自分の持ち得る知識を引き出して尋ねる。


「和花っていうんだ」

「ノドカ…素敵な名前ですね」

「そうか?」

「そうです」


感情の芽生え始めた彼女は楽しそうにクルクル回る。その唇は歌を奏でる。


「…歌…?」

「どうしました?」


彼女はいつこの歌を知った?

自分の知り得ないこの歌を、誰もいない世界で。


「どうして…?私は…一体…」

「うっ…」


紫乃が何か思い出そうとしている。なのに。

頭痛がタイムリミットを知らせる。


「く…こんな時に…!」

「ルチアさん!早く戻らないと…!」


彼女の悲痛な叫びが聞こえる。

激しい頭痛に意識を持っていかれそうになりながらも、端末からログアウトを選択する。


"あなたは今を生きて。私の分まで。"


消えて行く世界の中で、そんな声が自分の耳に響いた気がした。


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