伏せた写真
ルチアは机に向かい、ディスプレイを立ち上げる。
黒はベッドで転がっている。
「そのまま寝たら承知しないからな」
「んじゃ一緒に寝るか」
「…永遠に目覚めないようにしてやるからな」
ディスプレイから目を話さずに殺気を送ってくるルチア。
黒はつまらないといった様子で起き上がる。
「…それ作ってて忙しいのか?」
「ん、まあ」
ルチアが操作しているのはビジネスパソコンのほうで、主に彼女がプログラミングをする際に使っている。
「これはもう少ししたら終わるだろうけどな」
ディスプレイの中でキャラクターが動いている。RPGを作っているようだ。
「ふーん…」
黒は部屋を見回す。
パソコンが三台に自分と同じベッド、技術系の本ばかりの本棚、伏せた写真立て。
黒は気になってその写真立てを持ち上げる。
「ん…?」
「人のもの勝手に弄るなよな。元通りにしとけよ?」
ルチアはまだディスプレイと睨み合っている。
写真に写る少女はルチア本人だろう。少女は笑顔で見知らぬ青年に抱きついている。
その笑顔が紫乃によく似ている。
自分に駆け寄ってきた、あの笑顔に。
愛しい者に向ける、あの笑顔に。
「…」
黒は黙って写真立てを元の場所に置く。
おもむろに立ち上がると背を向けているルチアに覆い被さる。
「重い」
「…」
黒の呼吸だけしか返ってこない。
「…黒?」
「黒じゃない…」
ルチアからは彼の表情はわからない。黒はルチアに回している腕に力を込め、きつく抱き締める。
「俺の名前は…」
「言うな!」
腕の力が僅かに緩んだ。
「言うんじゃねえ…」
「和花…」
「その名前も使うな」
黒は顔を上げる。
彼女は小さく震えていた。
「もう出ていけ」
「…」
ルチアの表情は黒には見えない。
「…早く」
「わかったよ…」
ドアの閉まる音が響く。
ルチアは椅子から立ち上がり、本棚の上に伏せてあったはずの写真立てを手にする。
「これを見たのか…」
15歳だった自分。その自分が大好きだった人。
彼女はまた写真立てを伏せ直した。




