誰もいない世界で
閑散とした街。
人間はルチア以外1人もいない。
「誰も居なくて当たり前だよな…」
NPC化問題によって閉鎖されたゲーム世界。
ここはいずれ削除される予定だと聞いている。
ノラはこのゲームの開発チームにいたらしい。
その話を聞いたルチアは、無理を言ってこの世界のアカウントをノラから入手したのだった。
しかし新型のコントローラでは起動できない。
旧型はNPC化してしまうかもしれないというリスクがあったが、それでも彼女はこの世界に足を踏み入れた。
「…紫乃…」
世界に人が消えた今でも、その少女は街を歩いていた。
「武器はそこの鍛冶屋で強化してもらえますよ」
ただひたすら同じ言葉を繰り返す紫乃。
「どうしたら…あなたを連れて帰れるのかな…」
NPCのプログラムを書き換えてしまえばいいだろうか。
そんなことでは記憶を植え付けるだけになってしまうのだろう。
「でも…それでも…」
「…聞こえるか?」
『はい、良好です』
とりあえず紫乃にAtoriのプログラムを組み込んでみた。
「流石に記憶は戻らないよな…」
『私は何も記憶しておりません』
紫乃は無表情で応える。
「少しは人間らしくしてやらねえとな」
『人間ですか』
「そう、紫乃はこれから人間として生きるんだ。リアルのこと教えてやるから」
『了解しました』
ルチアは紫乃にできる限りのことを教えた。彼女は理解出来ないことも沢山あるようだが、今は知識だけでもと必死で話し続ける。
しばらく話していたルチアだが、急に軽い頭痛に襲われる。
"NPC化には前兆があります。頭痛を感じたらすぐログアウトしてください。"
ノラが言っていた。早く戻らねば自分も帰れなくなってしまう。
「ごめん、また来るから」
『了解しました』
紫乃は最後まで無表情のままだった。




