鳥鳴き花笑う。
物陰から1人の青年を伺うルチアとシン。
「わかってるだろうな」
「はいはい、誰にも言うなよな…」
ルチアがその青年に近付く。
「はじめましてー!」
「え…は、はじめまして…?」
ルチアはフルテンションで臨む。
「そんな落ち込んだ顔しちゃダメだってー」
「あ、えと…」
青年は勿論戸惑う。
「ストレス発散は衝動買いが1番!お安くしときますよ!」
ルチアは青年にアイテムを見せ、値段も提示する。
「や…そんな金持ってないから…」
「…チッ」
「し、舌打ちした…」
「やだなー、してねーよバカヤロー」
すると物陰からシンが全力疾走でルチアに駆けてくる。
「素が出てる!ちゃんとやれ!」
「やっぱ俺には無理だって」
「え、え?」
ルチアが困惑する青年に向き直る。
「ネットマネー稼ぎに付き合わされててさー、アンタの顔見てると売り付けたくなったから」
「そ、そんな顔してます…?」
「この世界は笑顔が歩いてナンボだからな」
リアルのことを考えないで遊ぶ。それがこの世界なのだとルチアは語る。
「それに俺はナヨナヨしたやつが大嫌いだからな」
「男勝りな奴め…」
シンのみぞおちに拳が入る。
「…キミ、ネカマってやつ…?」
「ははは、残念だが女だ」
少し間が空いて、ふいにルチアが真剣な顔になる。
「なあ、名前は?」
「テツ…」
「テツ、俺はお前のことを全く知らない。お前がどれだけ苦しんでるかもわからない。だからこそ言える他人事の我が儘がある」
「我が儘…?」
彼女はテツに微笑む。
「笑え。この世界にいるときぐらい。そんなお前を誰も責めたりしないし責める権利も無い」
「…オレの実家は代々板前でさ。無論オレも板前の修行させられてさ。小さい頃はそれでも楽しいって思ってた。でも段々嫌になって来て…」
「家出したと」
「ああ…」
ベンチに3人。
テツが話すのを見守るルチアとシン。
「ここはオレを知る人に会わないから…」
シンはテツにしきりに頷いている。しかしルチアは腕を組んだまま納得のいかない顔をする。
「…気に入らねえな」
「む、テツを否定するのか?」
ふいに口を挟んだルチアをシンが睨みつける。
「親に押し付けられた人生から外れるのは構わないけどよ、この世界を逃げ道にしてほしくはない」
テツが俯く。シンも押し黙る。
「リアルを気にせず仲間と笑って楽しんで、また頑張ろうってリアルに戻って行く。そのためにこの世界が存在してるんだ」
ルチアが立ち上がる。
「ま、製作者の受け売りだけどな。テツも逃げずにちょっとでいいから頑張って見ろよ」
ベンチの側の縁石を、両手を広げながら慎重に伝い歩きし出すルチア。
「お前の歩く道ぐらい自分で決められるだろ?」
「…」
ルチアはいなくなっていた。
「あ、勝手に落ちるな!まだ稼ぎが!」
シンが慌てて立ち上がる。
「…と、いうわけで有難いお説教代を頂こう」
「へ…?」
「そうだな、上手い飯を食わせてくれ」
シンも消えた。連絡先をプライベートメッセージに残して。
「…世界にはあんなおかしなやつらがいるんだな…」
だけどそのおかしなやつらに救われる。
ベンチは誰かを待つように、そこにポツンと置かれているのだった。




