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黒とルチアと調味料の休日


「お願い、1人にしないでよー!」

「うっせー!」

「オレっちさみしいと死んじゃうー!」

「寂しくて死ぬとかウサギでもありえねえから」


ここはテツが独り暮らししているアパート。

必死でルチアを引き留めるテツを、これまた必死に引き剥がすルチア。


「行かないで…楽しませてあげるからさ?」

「遠慮する」


バタンッと勢いよくドアを閉め早々にその場を立ち去るルチア。


駐車場まで行くと黒が車にもたれ掛かりながらルチアを待っていた。


「全く…2人でイチャイチャしてんじゃねえよ」

「してないから」

「浮気しやがって」

「浮気ではないしお前と付き合っているつもりもない」


黒が車に乗り込む。ルチアは後部座席に乗る。


「ったく、可愛くねーの。こういうときは助手席だろ」

「可愛くなくてけっこう」


ルチアの隣にはたくさんの調味料が乗せられている。今日は調味料と一緒に休日を過ごしてくれとオオヤに言われたのだった。


「んで、どこ行くんだ?」

「ラブホとかどうよ?」

「殺されたいの?」

「ったくー」


2人と数本と数袋の乗った車は駐車場を出ていった。







「はい到着ー」

「美術館?」

「そ、美術館デート」


このあたりで一番大きな美術館に車が止まる。

黒が車を降りて行き、ルチアもその後を追う。


「美術館ねー…ありきたりなデートプランだな」

「無難なのが一番だろ」


受付を済ませて館内に入場する。

ルチアは作品を1つ1つ見ていくが、黒はスタスタと歩き続ける。


「おい黒…見ねえのか?」

「…」


すると黒が一枚の絵の前でやっと止まる。


-大地の夢-


そう名付けられた絵には、綺麗な青空の中に小さな小さな飛行機が飛んでいる。飛んでいるというより浮かんでいるような雰囲気もする。


「大地の…夢…?」

「大地は大空に憧れた。でも空に手が届かない。大地は空をずっと見上げ続けていつしか地面になった。空に気に入られるよう木々を生やし花を咲かせた。空を映す海も作った。」


黒は絵から目を離さずに続ける。


「そして気付いた。自分はもう永遠に空に近づけない存在になったことを。だから生命を作った。自分のかわりに空に憧れ、飛んでいってほしいと願って。この飛行機は空に手を伸ばした大地なんだ」


黒はやっとルチアのほうを向いた。


「長話だったな」

「なあ黒、それ誰から聞いたんだ?」


そしてまたゆっくり歩き出す。


「作者」

「作者って…あ…」


ルチアの知っている名前だった。

黒の大事な人の名だった。もう彼女は黒の傍から離れてしまったが…


(あいつ…まだ引きずってんのか…)


歩き続ける黒を追いかけようとしてもう一度青空を見上げる。

空は飛行機を優しく包み込んでいるようだ。

ルチアはだいぶ開いた黒との距離を縮めようと早足で追いかける。



車まで来ると、車窓から醤油がお帰りと言わんばかりに顔を覗かせている。


「ほら、お乗りください。お嬢様」


恭しく助手席のドアを開ける黒。


「助手席なのかよ…」

「不満なのか?」

「…」


やれやれ、とドアを閉めようとする黒の手をルチアが掴む。


「…後ろは調味料さんたちの席なんだってさ」

「は?」

「だから…助手席に乗るってこと!」


黒を押し退け助手席に乗り込むルチア。


「ほら、早く帰るぞ!」


シートベルトを閉めて黒を急かす。


「…ったく、可愛いいやつだな」

「あ?」

「なんでもねえよ」



調味料たちはそんな2人をどことなく楽しそうに見つめていた。


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