90
「ルチアさん…いますか…?」
ルチアの部屋の前。
彼女の返事はない。
(いないのかな…)
鍵は開いている。
「…お邪魔します…」
恐る恐る部屋に入ると、机に伏したルチアがいた。
彼女は旧型のコントローラをつけている。
今は旧世界に行っているのだろうか。
「ルチアさん…?」
「ん…ハルカちゃんか…」
ルチアは重たそうに頭を上げ、コントローラを外す。
「勝手に入っちゃってごめんなさい…」
「構わねえよ、それよりどうしたんだ?」
私はゆっくりと、無理に口を開くようにルチアに話す。
ノラに聞いた、紫乃のいる世界のことを。
「…そっか…」
彼女は驚かず、ただ悲しそうにした。
「…俺さ…最近思うんだ…」
「…?」
「自分がもしあの世界に行かなかったら…紫乃は…辛い思いしなかったんじゃないかって….」
「え…」
彼女がどうしてそんなことを言うのかわからない。
「紫乃はもう死んだ身だ、それを俺が中途半端に生き返らせて。この世界でまた生きられるわけでもねえのに。逆に世界が消えて死んでしまうという恐怖を紫乃に与えてしまってさ」
「…」
「それだったらまた紫乃の感情を消したほうがいいんじゃないかな…」
確かに、そうかもしれない。
もしルチアがいなかったら、紫乃は何も知らずにただ消えて、苦しむこともないかもしれない。
「…だけど…」
「ハルカちゃん…?」
だけど。それでも。
「死ぬってわかって…逃れられないのはこわい…けど…大事な人を忘れて死ぬのだってこわい…」
「…」
「過去のことは…リセットできないし…リセットしてもダメだと思うんです…」
彼女は立ち上がり、私に寄りかかる。
「…やらなきゃ、ありがとう」
私は彼女に頷くと、安心と不安の混ざった心情で部屋を後にしたのだった。




