神山ニ座スしじら
私はありとあらゆる武器をこの手で使いこなした。
そのおかげで"智識の青"と呼ばれるギルドナイト装備を支給され、"ギルドナイト"として管理局から務めを任される身になった。
だが一番はこの拳銃。
これなら楽に対象を殺せる。
自分の手を汚すことなく対象を殺せる。
気が付けば私の周りには誰もいない。
皆私を恐れて近寄らないのだ。
別にそれでも構わない。
誰かと親しくなろうと思ってここにいるわけではないのだから。
「…貴殿は1人か?」
私に話しかけて来た盾士。
「小生はシンザン。一つ小生と狩りに行かぬか?」
「…他を当たってくれないかしら」
気に入らない。
盾士であることも。私を誘うことも。
「そんな無体なこと言わず、小生が貴殿を必ず守ってみせ候」
「私に盾なんか要らない。盾士は嫌いだ。何も殺せやしない」
私も盾を使ったことはある。
ただガードするだけで、対象を殺すことも出来ない、なんともくだらない一枚板だ。
「ふむ…貴殿は見たところガンナーだ。引きつけ役は大事だと思うのだが…」
「しつこい」
洋の世界のフィールド。
まだ盾士はついて来る。
「…あんまりしつこいと荒らしとして通報するぞ?」
「よいではないか。小生が要らぬのならそれを見せつければ良いだけのこと」
つまり実力を見せろと。
いいだろう。
目前の空が歪み出す。
そこから降りて来る魔物。
"セイレーン"
美しくも不気味に唄う、少女のような青白い化け物。
「…殺す」
太腿のホルスターから2丁の拳銃を抜き、少女に向ける。
その少女はけたたましく叫ぶ。世界を呪おうとしているかのようなその声は、私の動きを奪う。
「くっ…!」
少女の背中が軋み、骨で出来た翼が生える。
その翼を広げると勢いよく突進して来る。
引き金さえ引ければ、私が勝てるんだ。
ー動け、もう間に合わないぞー
「ー!」
私の目の前で盾を構えるシンザン。
"セイレーン"が弾かれて飛んで行く。
「…!邪魔だっ!!」
シンザンを払い少女に再び銃口を向ける。
「あああぁぁぁぁっっ!!!!」
原型をとどめさせないくらいに鉛を与え続ける。
「…もうやめよ。奴はとうに死んでおる」
「っ…」
気が付けばシンザンが私を哀れむように見つめている。
「そんな目で私を見るなぁっ!」
「…」
彼の額に突き付ける拳銃。
しかし彼はまだ私から目を逸らさない。
「…貴殿は…何をそんなに恐れておるのだ…?」
「!!」
何を…?恐れている…?
「私…が…?」
「貴殿は、この世界を、自分自身を恐がっている」
何で…
私は…
どうして…
お前は…
「…そうさ…私は恐いんだ…」
今まで死んでいた感情が息を吹き返す。
「銃を握るようになったのも!本当は何かを殺す感覚が恐いから!この手が汚れるのが恐いから!誰も周りにいないのも!誰かが自分のために傷付いて行くのが恐いから!」
全てが恐いんだ。
こんなことを言う私でさえも。
ここにいる、貴方でさえも。
「…小生は盾だ。生かすために在るのだ。この盾に身を任す者は全て生かす」
この世界に涙はない。
私がいくら泣こうと、喚こうと、
きっとこの思いは相手に伝わりきれないだろう。
なのに貴方には、私の全てが、この涙が見えているみたいだ。
「…どうやら、小生は貴殿を生かすのが今の使命のようだ」
「私なんかを守って…貴方が傷付いてしまうのは嫌だ…」
シンザンは不器用に笑って見せる。
「小生を甘くみるな。そう簡単に壊れる盾になった覚えはない」
私が、
初めて、
誰かを生かしたい、と。
誰かに生きていて欲しいと願った瞬間だった。




