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黄泉の桃

和の世界。


何処までも伸びる緩やかな坂。下った先は闇に支配されている。

辺りにはたわわに実を付けた桃の木が屹立し、甘い香りが漂っている。

坂の上にはこちら側とあちら側を塞ぐ大きな岩が静かに構えている。


"ヨモツヒラサカ"

それがこの場所の名である。


その地に1人足を踏み入れるシジラ。

途端に生暖かい空気が彼女にまとわりつく。


「…」


暗闇から何かの蠢く気配がする。

太腿に装着したホルスターから二挺の拳銃を抜く。


「…殺してあげるわ」












シジラの足元に八体の魔物が転がる。

彼女は拳銃を収めると坂上の岩に寄りかかる。


「なんだ、我輩の出番はないのかい?」


岩の上から酒焼けのような声がする。


「…ケシゴム、始めからそこで傍観していた分際でよく言うわね」


すると青年がシジラの前に飛び降りてくる。


「ありゃ、バレてたか」


ケシゴムと呼ばれた青年は、黄のギルドナイト装備の下にパーカーを着込み、そのフードを目深に被っている。

唯一見える口が、ニィッと釣り上がる。


「珍しいね、チートさんを通報しなかったんだ?」

「ふん…」


シジラは厄介そうに顔を背ける。


「君の心は鉄で出来ているもんだと思っていたが…只の氷だったようだ」

「煩い…」


拳銃を抜き、ケシゴムに突き付ける。

彼は手を上げ、降参のポーズを取る。相変わらず口元は笑っているが。


「…あいつは規約違反者だ…なのにあいつの周りにはたくさんの仲間がいて…皆笑っている…」

「ふーん、君とは大違いだね」

「…余計なことばかり言うな」


ケシゴムは上げた手を頭の後ろに回し、口笛を吹きながらウロウロし始める。


「この坂のお話知ってるでしょ?イザナギとイザナミのやつ」

「ええ…黄泉と現世を塞ぐこの岩を挟んで、イザナミは一日に千の人を殺すと言い、イザナギは一日に千五百の人を生ませると言った話でしょう?」


さして興味も無さ気にシジラが言う。


「君はどっちかっていうと前者だね」

「…構わない。それが私の正義だ」

「ふむ、それはズルい言い方だ」


ケシゴムは口を尖らせる。

シジラは端末を取り出す。


「正義っていうのは先に振りかざした者が得られるものよ」








桃の実が一つ、ポトリと落ちた。

1人残ったケシゴムがそれを拾い上げ、暗闇に向かって放り投げた。


「やれ、イザナギ様は何をしているのかね…」

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