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炎は天井すれすれまで上がり、ゆらゆらと揺れ、勢いよく下駄箱から校舎の外に向かって吹いていく。鬼は地面にうずくまり、腕を伸ばした。もう片方の手は喉元にあり、何とか呼吸をしようともがいている。私は鬼の正体を確かめなかったことを後悔した。いや、後悔という表現は正しくない。正しくは規則違反かもしれない。敵意を向けられただけで、殺傷したことはルール違反のような気がした。振り返ると、彰に責められてるような視線を感じたが、彼は先生を床に降ろすと、私に向かって飛びついてきた。
「なんだよ。晴翔、すっげえじゃねえかよ」
「いや」
私は無闇に人を殺した。人殺しの経験をしたのだ。あれは鬼の姿をしていても、元は人間に違いない。彰はそっと肩を叩いた。
「おまえは俺らを守ったんだ」
「彰は、これが普通のことに見えるのか?」
「普通じゃねえけどよ。そりゃあ、普通の人間技じゃねえ。スーパーヒーローの技だ」
「スーパーヒーロー」
私が繰り返すのを聞いて、彰は私を抱き寄せて、頭に触れた。そして髪をもじゃもじゃと搔きまわした。
「どうしたい」
彰が言う。
「火の力に悩んでるのか?」
彼はそう言って笑顔を見せる。階段を降りてきた少年達は恐る恐る私の顔を見上げた。
「お兄ちゃん、僕にも教えてください」
一人の少年が言う。
「あ、僕にも」
「俺が先に言ったんだからな」
少年達の声を聞いて、自己肯定感が戻る。悪いやつは殺してもいい。そんな世界になったのだと自分に言い聞かせた。しかしながら、本当に悪い人間だったのかは分からない。私は少年達を見下ろし、聞きたいことがあった。
「君達の中で、超能力を使える同級生はいるかな?」
彼らは顔を見合わせる。そして一様に首を振るのだ。彰が近寄ってきた。
「どうして晴翔は超能力に目覚めたんだ?」
「恐らく、恐怖したからだと思う」
「怖がった。それはどういうことだよ。なんなら今だって鬼は怖いさ」
「あの部屋の中で恐怖するのが重要なんだ」
彰は黙りこんだ。口元に手を当てて、あの部屋のことを思い出しているようだ。
「どうだったかな。あの部屋のことは今となっては怖く感じるが、あの部屋にいたときは、そんなこと思ったような思わなかったような」
「恐怖を感じたなら、何かしらの能力に目覚めたはずだ」
「じゃあ、何もねえわ」
彰はそう言って笑う。少年の一人が先生に向かって言う。
「先生も変な部屋に閉じ込められたの?」
先生は私と彰を眺める。
「ええ、そうですよ」
とだけ答えた。
「世界中の人が皆、あの部屋に閉じ込められたんだ。そして恐怖した人間だけが、何かの真理を得る」
「真理って、そりゃあ、かっけえな」
彰の目は光輝いていた。彼はスマートフォンを取り出すと、メールを私に見せてきた。
「このメール」
世界が変わってから届いたメールだった。口調は女のように思えたが、文章なので性別は確かではない。もしかしたら男かもしれなかった。
「皆に届いたのかな?」
先生はスマートフォンをズボンのポケットから取り出し、そのメールを確認した。
「電気も止まってるの」
先生は呟いた。
「電気も、インフラは止まったみたいですね」
私が言うと、先生は「はあ」と呆れた声を出した。
「でも、このメールはどうやって送信したのかしら」
「超能力かもしれません」
私が言うと、彰が返す。
「返信できねえかな、このメールの送り主とやりとりをしたら、何か分かるかもしれないぞ」
彰はそう言って、メールを操作する。しかしながら、送信失敗とメッセージが出て、彼はその画面を私に提示した。
「晴翔ならいけるんじゃないか?」
私はメールの文章を眺めた。何かの手品ではない。このメールも超能力の一種だろう。火を操ることのように、早々に気付いた人間が、メールを一斉送信した。そう考えるのが妥当だった。この世界の新しいルールを見つけた者がいる。きっとそうに違いない。
「ちょっと時間が掛かるかもしれない」
私がそう言うと、先生は生徒の背中をぽんと押した。
「危ないところをありがと。先生助かったわ」
先生は私のほうにも向き、お礼を述べた。




