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2-3

 炎は天井すれすれまで上がり、ゆらゆらと揺れ、勢いよく下駄箱から校舎の外に向かって吹いていく。鬼は地面にうずくまり、腕を伸ばした。もう片方の手は喉元にあり、何とか呼吸をしようともがいている。私は鬼の正体を確かめなかったことを後悔した。いや、後悔という表現は正しくない。正しくは規則違反かもしれない。敵意を向けられただけで、殺傷したことはルール違反のような気がした。振り返ると、彰に責められてるような視線を感じたが、彼は先生を床に降ろすと、私に向かって飛びついてきた。


「なんだよ。晴翔、すっげえじゃねえかよ」

「いや」


 私は無闇に人を殺した。人殺しの経験をしたのだ。あれは鬼の姿をしていても、元は人間に違いない。彰はそっと肩を叩いた。


「おまえは俺らを守ったんだ」

「彰は、これが普通のことに見えるのか?」

「普通じゃねえけどよ。そりゃあ、普通の人間技じゃねえ。スーパーヒーローの技だ」

「スーパーヒーロー」


 私が繰り返すのを聞いて、彰は私を抱き寄せて、頭に触れた。そして髪をもじゃもじゃと搔きまわした。


「どうしたい」


 彰が言う。


「火の力に悩んでるのか?」


 彼はそう言って笑顔を見せる。階段を降りてきた少年達は恐る恐る私の顔を見上げた。


「お兄ちゃん、僕にも教えてください」


 一人の少年が言う。


「あ、僕にも」

「俺が先に言ったんだからな」


 少年達の声を聞いて、自己肯定感が戻る。悪いやつは殺してもいい。そんな世界になったのだと自分に言い聞かせた。しかしながら、本当に悪い人間だったのかは分からない。私は少年達を見下ろし、聞きたいことがあった。


「君達の中で、超能力を使える同級生はいるかな?」


 彼らは顔を見合わせる。そして一様に首を振るのだ。彰が近寄ってきた。


「どうして晴翔は超能力に目覚めたんだ?」

「恐らく、恐怖したからだと思う」

「怖がった。それはどういうことだよ。なんなら今だって鬼は怖いさ」

「あの部屋の中で恐怖するのが重要なんだ」


 彰は黙りこんだ。口元に手を当てて、あの部屋のことを思い出しているようだ。


「どうだったかな。あの部屋のことは今となっては怖く感じるが、あの部屋にいたときは、そんなこと思ったような思わなかったような」

「恐怖を感じたなら、何かしらの能力に目覚めたはずだ」

「じゃあ、何もねえわ」


 彰はそう言って笑う。少年の一人が先生に向かって言う。


「先生も変な部屋に閉じ込められたの?」


 先生は私と彰を眺める。


「ええ、そうですよ」


 とだけ答えた。


「世界中の人が皆、あの部屋に閉じ込められたんだ。そして恐怖した人間だけが、何かの真理を得る」

「真理って、そりゃあ、かっけえな」


 彰の目は光輝いていた。彼はスマートフォンを取り出すと、メールを私に見せてきた。


「このメール」

 

 世界が変わってから届いたメールだった。口調は女のように思えたが、文章なので性別は確かではない。もしかしたら男かもしれなかった。


「皆に届いたのかな?」


 先生はスマートフォンをズボンのポケットから取り出し、そのメールを確認した。


「電気も止まってるの」


 先生は呟いた。


「電気も、インフラは止まったみたいですね」


 私が言うと、先生は「はあ」と呆れた声を出した。


「でも、このメールはどうやって送信したのかしら」

「超能力かもしれません」


 私が言うと、彰が返す。


「返信できねえかな、このメールの送り主とやりとりをしたら、何か分かるかもしれないぞ」


 彰はそう言って、メールを操作する。しかしながら、送信失敗とメッセージが出て、彼はその画面を私に提示した。


「晴翔ならいけるんじゃないか?」


 私はメールの文章を眺めた。何かの手品ではない。このメールも超能力の一種だろう。火を操ることのように、早々に気付いた人間が、メールを一斉送信した。そう考えるのが妥当だった。この世界の新しいルールを見つけた者がいる。きっとそうに違いない。


「ちょっと時間が掛かるかもしれない」


 私がそう言うと、先生は生徒の背中をぽんと押した。


「危ないところをありがと。先生助かったわ」


 先生は私のほうにも向き、お礼を述べた。

 

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