2-2 飯沼浩平
彰は産材小学校の校門を見た。校門の前には、警備員の男がいたが、首を左右に振っていた。男は制服をその場に投げ捨て、校門を出て走り去ってしまった。門の後ろでは、エプロンを身に着けた女が警備の制服を拾い上げた。
「待ってください」
女はそう言った。そして続けた。
「子供達を助けてください」
大声で助けを求めるが、彼女の声は木霊すらしなかった。彰はずっと女のほうを見ていた。
「学校に逃げよう」
私は首を振った。学校は人が集まりやすい場所だ。変な人間でさえ向かい入れてしまう。彰は自転車を押し、学校の校門のほうに走り出した。門は開いていて、彰は門を通り抜けた。女の側に寄っていくが、彼女は背の低い彰を見て落胆したような表情を浮かべる。遠目でも、その顔は曇っていた。私が小学校に入ったとき、叫び声が聞こえた。子供の声には思えなかった。後ろを振り返ると、黒煙が空に昇っている。
女は咄嗟にしゃがみ込み、彰が彼女の体を支えた。
「とりあえず、校舎内に」
私が言うと、女は呼吸を荒くして、姿勢を低いままに校舎内に向かった。
「先生ですか?」
私が尋ねると、女は頷いた。
「急いで教室に戻らないと」
先生はそう言って、走り出したが、途中で過呼吸になって座り込んでしまった。
「わ、私がどうにか」
こういうときは、袋で呼吸させるといい、そんなことを教えてもらったことはないが、そんな原理がある気がした。側にあったビニール袋の束を一枚、引っ張りあげた。それは下駄箱にある来賓者用の袋だった。私はそれを先生の口元に運んだ。
「晴翔、先生を守ろう」
私は頷いた。しばらくして、階段を勢いよく降りてくる少年が現れた。それも、三人も続いてきた。
「鬼が、先生、鬼がやってくる」
私は彰と顔を見合わせる。
「鬼ってなんだ」
「こんな世界になったんだ。鬼の一匹や二匹はいるだろ」
彰はそう言って、下駄箱の側にある、モップを手にした。これで退治するのだろうか。鬼。私は鬼と聞いて、飯沼浩平を思い出した。火を操る男。超能力のような特殊能力。その類なのだろう。火の力を飯沼浩平は使っていた。
下駄箱から校門まで直線的に続いていた。背の高い、赤い体をしたものが歩いてくるのが見えた。あれが鬼か?
私は自分の目を疑ったが、鬼で間違いはない。鬼の表情は険しいというよりも、笑っていた。目は細く、あれは静かな殺意とも思えた。きっと、私達を殺そうとしている。だから、人が集まる学校にやってきているのだ。あれも、超能力の一つなのだろうか。
彰はモップを捨て、階段のほうに向かった。しかしながらすぐに引き返し、先生に肩を貸した。
「おい、おまえら、早く階段をあがれ」
彰はそう言って、怒鳴った。少年たちは悲鳴を上げながら、階段を上がっていったのだ。彰は私を見た。
「晴翔、死ぬ気か」
立ち止まっている私を見て、彰は叫んだ。
ひどく冷静なのも欠点の一つかもしれない。恐怖心が湧いてこないのだ。飯沼浩平に会っても、もしかしたらこんな感じかもしれない。彼は火を操った。
その原理は、きっとこんな感じだった。
鬼が下駄箱のところにやってくると、彰は先生と一緒に階段を上がっていく。
「晴翔」
彰の見る目は、恐怖の目に思えた。
「それって」
「俺、鬼と戦ってみる」
私は鬼に向かって青白い炎を放っていた。




