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「俺さ、授業抜け出してきたんだ」
川瀬彰は同じ中学の同級生だった。一番仲が良かったが、ドラゴンのことで喧嘩をした。もしかしたらその前に喧嘩の予兆があったかもしれない。
「俺も、学校行ってなかった」
「丁度良かった。もう学校なんて行く意味ねえよ。そこら中で車の衝突事故が起きているんだもん。一体どうしてなのか知らねえけどさ」
「きっと」
白い部屋から戻ってきたときに、車の運転をしていた人達が沢山事故ったのだろう。突然現実に戻されたときに、車を運転していたら、誰でも事故を起こしてしまう気がした。
「運が悪かったのかも」
「俺達は付いてるぜ。今どこだよ」
「今、産材小最寄り公園」
私は産材小学校の近くの公園をそう呼んでいた。そういう小学校があるのだ。
「今からチャリで向かうからよ」
そう言って通話が切れた。彰はせっかちなところがある。何事も決めたらすぐ行動するのだ。スマートフォンで情報を調べようとしたら、電波がないことに気づいた。近くの家の扉が開き、血相が悪い中年の女が現れた。手には包丁を持っていて、目はギラギラと光っているのだ。
私は慌てて、公園のほうに走った。後ろを振り返っても、女が追ってきてる様子は見られなかった。彰の心配をしたが、あいつなら大丈夫だろう、と自信のような感情が込み上がってきた。
「大丈夫であってくれ」
私はそう言って、公園のトイレの陰に身を潜めていた。
「晴翔」
息を切らしたぜえぜえという呼吸が聞こえ、振り返ると、血相を変えた彰がいた。
「本当に、世界が終わっちまった」
彰は涙目になっていた。私も思わず泣いてしまった。もしかしたら、母も死んでいるかもしれない、皆死んでいるのかもしれない。飯沼の顔が思い浮かんだ。恐怖しない部屋だからこそ、あんな男と一緒にいられたが、今飯沼に会ったら、どんな恐怖を覚えるのだろうか。
恐怖しない部屋。
私はあの部屋で一度恐怖した気がした。感情を露にしたからこそ、今思い出したのだ。壁に触れようしたとき、何とも言えない恐怖心を覚えた。
どうして恐怖したのか。
冷静に考えてみると、それは大きな矛盾だった。何か、引っかかるところがある。いや大きな引っかかりだ。あの壁に触れた。そのとき恐怖した。あの壁の奥に空間があり、そこで何かがあるのかもしれない。頭の中はあの部屋にいるみたいに酷く冷静だった。
横で泣いている彰の肩を叩く。
「晴翔」
彰は私の名前を呼んだ。
「晴翔なら、俺を助けてくれる気がする」
彰らしくない弱音が漏れていた。いや違うかもしれない。私が冷静だからこそ、彰は私に頼っているのだ。どうしてこんなに冷静なのか。
何かがおかしい。いや、世界はもう狂っているのだ。
そしてスマートフォンに着信がした。
メールが届いていたのだ。
「世界は終わりました。電気などのインフラはことごとく止まりました。私のメールは真実です。状況を知っている皆さんは説明するまでもありませんね。私は神様ではありません。私も一人のプレイヤーです。一緒に終末世界を生き残りましょう」
そんなメールが届いたのだ。彰は真っ青な顔をしてスマートフォンを見ている。その傍らで、私は冷静にメールを読んでいた。




