3話 婚約者という人
クラリッサ・エルフォードへの謝罪を終えた翌朝、オクタヴィアは朝食の席で父から思いがけないことを告げられた。
「今日の午後、エドガー殿下がお見えになる」
危うく紅茶を噴き出すところだったが、どうにか堪えたオクタヴィアは、何事もなかったかのようにカップをソーサーへ戻した。
ローゼンフェルト公爵家の朝食は、基本的に静かだ。父であるアルベルトは食事中に余計な話をすることを好まず、オクタヴィアも朝から賑やかに喋る性格ではないため、普段なら食器の触れ合う音だけが響いている。
そんな静かな食卓で突然告げられた婚約者の名前に、さすがのオクタヴィアも平静ではいられなかった。
「……今、何とおっしゃいました?」
「エドガー殿下がお見えになる、と言った」
「それは聞こえておりますわ。わたくしが伺いたいのは、どうして殿下が今日こちらへいらっしゃるのかということです」
「お前が呼んだのだろう」
あまりにも当然のように返され、オクタヴィアは言葉を失った。
アルベルトが怪訝そうに眉を寄せる。
「忘れたのか?」
「少々お待ちになって。今、思い出しますから」
自分で呼んだというのなら、当然その記憶はあるはずだ。
エドガーへ送った手紙、それに返事が来なかったこと、腹を立てて二通目、三通目と送りつけ、それでも満足な返答を得られなかったために王宮まで押しかけたことを順番に思い出し、オクタヴィアはようやく「あ」と小さな声を漏らした。
三週間ほど前のことだ。
学院への入学を控えていたオクタヴィアは、エドガーと今後の学院生活について話がしたいと手紙を送っていた。
ところが返事が来なかったため、待つという選択肢を知らなかった当時の自分は、二通目を送り、それでも返事がなければ三通目を送り、最終的には直接王宮へ赴いて本人を捕まえたのである。
しかも、その際には。
『では、入学式までに必ずお時間を作ってくださいませ』
そう言って、半ば強引に約束まで取り付けていた。
(……改めて考えると、随分と重い女ではありませんこと?)
我ながら恐ろしい行動力である。
「思い出したようだな」
「……ええ。残念ながら」
「残念?」
「こちらの話ですわ」
アルベルトはまだ何か言いたそうだったが、結局それ以上追及することなく食事へ戻った。
オクタヴィアもフォークを手に取りながら、改めて婚約者について考える。
第二王子エドガー・アルヴェインは、オクタヴィアの婚約者であると同時に、『花冠の乙女と銀の誓い』に登場する攻略対象の一人だった。
淡い金髪に青い瞳を持つ、いかにも物語の王子様らしい少年で、頭脳明晰なうえに剣術にも優れ、誰に対しても穏やかに接する完璧な王子――少なくともゲームの中では、そのような人物として描かれていた。
そんなエドガーは学院でセシリアと出会い、彼女の身分にとらわれない考え方や飾らない優しさに触れるうちに、王族として定められた生き方へ疑問を抱くようになる。
そしてエドガールートにおける最大の障害こそ、婚約者であるオクタヴィアだった。
嫉妬に駆られたオクタヴィアがセシリアへの嫌がらせを繰り返し、それを知ったエドガーが彼女を守るようになり、二人の距離は徐々に近づいていく。最後にはオクタヴィアの悪事が明るみに出て婚約は破棄され、エドガーはセシリアを選ぶというのが、このルートのおおまかな流れだった。
そこまで思い出したところで、オクタヴィアはふと首を傾げる。
(……そう考えると、今日わざわざお会いする必要がありますの?)
破滅を避けたいのなら、エドガーとはむしろ距離を取るべきではないだろうか。
これまで散々執着してきたのだから、これからは必要以上に追い回さず、学院でも彼の行動に口を出さない。いずれセシリアと親しくなったとしても邪魔をせず、婚約者だからという理由だけで彼を自分の所有物のように扱わなければいい。
いっそのこと今日のうちに婚約そのものを解消できれば最も手っ取り早いのだが、公爵令嬢と第二王子の婚約が十五歳の少女の一存でどうにかなるはずもない。王家と公爵家の関係まで絡んでいる以上、「気が変わりましたのでやめますわ」で済む話ではなかった。
(貴族というものは、本当に面倒ですわね。……まあ、その貴族の中でもかなり上の方にいるわたくしが言うことではありませんけれど)
逃げようがないのなら、せめて今までよりまともな距離感を覚えるしかない。
そう結論づけたオクタヴィアは小さく息を吐き、すっかり進まなくなっていた朝食を再開した。
◇
午後になり、オクタヴィアは屋敷の玄関ホールで婚約者の到着を待っていた。
「……随分と早い到着ですこと」
時計を確認すると、約束の時間より十分ほど早い。
王族なのだから少しくらい相手を待たせるものだと勝手に思っていたが、考えてみればエドガーは昔から時間には正確だった。
「お嬢様」
隣に控えていたマリアンヌが小さな声で呼びかけてくる。
「何?」
「お顔が怖くなっております」
「元からですわ」
「それは否定いたしませんが、普段よりさらに」
「マリアンヌ?」
「申し訳ございません」
この侍女は、ここ二日ほどで随分と遠慮がなくなった気がする。
もっとも、以前まで何も言えなかった原因が誰にあるのかを考えれば、強く叱ることもできないのだが。
そんなことを考えているうちに玄関の扉が開き、使用人に案内されて一人の少年が入ってきた。
柔らかな金色の髪に、澄んだ青い瞳。細身ながらも剣を扱う者らしく姿勢がよく、まだ十五歳でありながら、その立ち居振る舞いには王族として育てられてきた品格が滲んでいる。
オクタヴィアにとっては幼い頃から見慣れた姿のはずなのに、前世の記憶を取り戻した今では、その顔に画面越しで何度も見た攻略対象の姿が重なってしまう。
(……本当にいらっしゃるのね)
当然といえば当然なのだが、ゲームの中にいた人物が実際に自分へ向かって歩いてくる光景というのは、なんとも妙な気分だった。
「久しぶりだね、オクタヴィア」
「ごきげんよう、エドガー殿下」
いつも通り礼をすると、エドガーは穏やかに微笑んだ。
「待たせてしまったかな」
「いいえ。むしろ予定よりお早いくらいですわ」
「そうか、それならよかった」
それだけなら、何の問題もないやり取りだった。
エドガーは笑っているし、声も穏やかで、オクタヴィアに対して失礼な態度を取っているわけでもない。
それなのに、何かが引っかかった。
十五年間この世界で生き、貴族たちの社交辞令を嫌というほど見てきたオクタヴィアには、その正体がすぐに分かった。
(この方、わたくしと話したくありませんのね)
目の前にあるのは、王族として完璧に整えられた微笑だった。
相手を不快にさせず、それでいて必要以上に踏み込ませもしない。婚約者へ向ける親しみのある表情というより、少々扱いに困る貴族令嬢を相手にするときの顔に近い。
考えてみれば、それも当然だろう。
返事がないからと何通も手紙を送り、最終的には王宮へ押しかけてくる婚約者など、自分が逆の立場でも面倒だと思う。
「殿下、こちらへどうぞ」
「ああ」
オクタヴィアは何も気づかなかったふりをして、エドガーを応接室へ案内した。
◇
使用人が紅茶を運び終えて退室すると、広い応接室にはオクタヴィアとエドガーの二人だけが残された。
向かい合って座ったものの、そこでオクタヴィアは困ってしまった。
(……何をお話しすればよろしいのかしら)
三週間前なら、聞きたいことはいくらでもあった。
学院では誰と昼食を取るのか、登校は一緒にできるのか、休日にも会えるのか、入学式では隣に立てるのか。それどころか、同じ授業をどれだけ選択するつもりなのかまで確認しようとしていた記憶がある。
今となっては、そこまで婚約者の予定を把握しようとしていた自分が少し恐ろしい。
「それで、学院について話があると言っていたね」
先に口を開いたのはエドガーだった。
「ええ」
「何かな?」
「…………」
聞かれてみると、本当に何もない。
オクタヴィアは少し考えた末、取り繕っても仕方がないと諦めた。
「特にありませんわ」
「……え?」
初めてエドガーの完璧な微笑が崩れた。
「ですから、今はもう特にお話しすることがありませんの」
「いや、しかし君がどうしても話したいと言っていたから、今日は――」
「そのときはあったのですけれど、今はなくなりましたわ」
エドガーが黙った。
三週間にわたって手紙を送りつけ、最終的には王宮まで押しかけて予定を確保させておきながら、いざ本人が来たら「話すことがなくなった」と言うのだから、我ながら酷い話である。
「……申し訳ありませんでしたわ」
「何が?」
「お忙しい中、無理を言って時間を作らせてしまったことです。わたくしの都合で振り回してしまいましたわね」
エドガーの目が僅かに見開かれる。
昨日も似たような反応を見た気がして、オクタヴィアは少々複雑な気分になった。
「オクタヴィア」
「何でしょう」
「何かあったのか?」
「皆さん同じことをお聞きになりますのね」
「皆?」
「こちらの話ですわ。それより、わたくしは健康そのものですから、妙な心配はなさらないで」
「体調の話はしていないんだが……」
「では、なおさら問題ありませんわ」
エドガーはしばらく何かを探るようにこちらを見ていたが、オクタヴィアは知らぬ顔で紅茶を口にした。
ここで前世を思い出したなどと説明できるはずもない。
「殿下」
「何だい?」
「わたくし、これまで随分とあなたに迷惑をかけていたようですわね」
今度こそ、エドガーの表情が完全に止まった。
「……急にどうしたんだ?」
「少し自分の行動を振り返ってみただけです。手紙の返事を催促したり、突然王宮へ押しかけたり、今思えば随分と勝手なことをしていましたから、その件については謝罪いたします。申し訳ありませんでした」
オクタヴィアとしては、それほど大げさなことを言ったつもりはなかった。
ところがエドガーはしばらく何も答えず、本気で何かあったのではないかと疑うような顔をしている。
「……本当にどうしたんだ、オクタヴィア」
「ですから、何もありませんわ」
「君がそんなことを言うとは思わなかった」
「失礼ですわね」
「すまない」
思わず睨むと、エドガーがほんの少しだけ笑った。
先ほどまでの王子として整えられた微笑とは違い、一瞬ではあったものの、普通の十五歳の少年らしい笑顔に見えた。
「でも、安心したよ。そこはいつもの君だ」
「どういう意味ですの?」
「そのままの意味だよ」
どうにも納得できないが、ここで言い争うのも馬鹿らしい。
オクタヴィアは咳払いを一つすると、本来伝えておくべきことへ話を戻した。
「それから学院では、わたくしのことはあまりお気になさらなくて結構ですわ。昼食を毎日ご一緒してほしいとも申しませんし、授業を合わせていただく必要もありません。殿下には殿下のお付き合いがあるでしょうから、お好きにお過ごしになって」
「待ってくれ」
珍しくエドガーが言葉を遮った。
「君は学院で僕と過ごしたいと言っていただろう?」
「言いましたわね」
「ずっと楽しみにしていたはずだ。それなのに、なぜ急に考えが変わったんだ?」
破滅したくないから、とは言えない。
あなたはいずれセシリアと恋に落ちる可能性がありますから、今のうちに距離を置いておきますとも言えない。
少し考えたものの、結局まともな言い訳など思いつかなかった。
「人間、三週間もあれば考えくらい変わりますわ」
正確には一晩だが、そこは黙っておく。
「それに、婚約者だからといって常に一緒にいなければならないわけではないでしょう? 学院には学院でのお付き合いがありますし、お互い好きに過ごせばよろしいのではなくて?」
「それはそうだが……」
「でしたら問題ありませんわ」
これでいい。
エドガーとは適度な距離を保ち、セシリアが現れても嫉妬せず、二人が親しくなったとしても邪魔をしない。それだけでも、ゲームと同じ破滅へ向かう可能性はかなり下がるはずだ。
そう考えていると、エドガーが不思議そうにこちらを見ていることに気づいた。
「何ですの?」
「いや、その……君は本当にそれでいいのか?」
「何が?」
「僕とあまり過ごさなくても」
問われた瞬間、オクタヴィアは答えようとして口を閉ざした。
以前なら、迷うことなどなかったはずだ。
婚約者なのだから一緒にいたいと思うのは当然で、手紙を送るのも当然、他の令嬢と親しくされれば腹を立てるのも当然だと、これまでの自分は疑いもしなかった。
だが今、エドガーと過ごす時間が減ることを想像してみても、不思議なほど胸は痛まない。
もちろん嫌いではない。
幼い頃から知っている相手であり、婚約者として大切な人だと思っている。彼の隣に立つことを誇らしく感じていた記憶も、他の令嬢と話している姿を見て苛立った記憶も、返事の来ない手紙を何度も確認していた記憶も確かに残っている。
それを、ずっと恋なのだと思っていた。
(……では、どうして今は、殿下と離れることを想像しても何とも思いませんの?)
前世の記憶を取り戻したことで、気持ちまで変わってしまったのだろうか。
そう考えることもできる。
けれど、それだけでは説明できないような気がした。
昨日まで確かにあったはずの執着を思い返しても、そこに「エドガー本人が好きだった」という感情があったのか、急に分からなくなってしまったのだ。
「オクタヴィア?」
考え込んでいたことに気づき、オクタヴィアは顔を上げる。
「……ええ。問題ありませんわ」
「そうか」
エドガーの青い瞳が僅かに揺れたように見えたが、それ以上何かを聞いてくることはなかった。
会話が途切れ、オクタヴィアは紅茶へ口をつける。
頭から離れないのは、先ほど生まれた疑問だった。
ゲームのオクタヴィアは、エドガーを愛していた。
少なくとも前世の自分は、そう認識していたからこそ、彼女がセシリアに嫉妬し、次第に行動を過激化させていくことにも疑問を抱かなかった。
しかし今、自分自身の十五年間を振り返ってみると、その認識に自信が持てない。
(もしかして、わたくし……)
エドガー本人ではなく。
彼の隣にいる自分を、手放したくなかっただけなのではないか。
その考えは、思っていた以上にすんなりと胸の奥へ落ちていった。
◇
「それでは、入学式で」
話を終えた二人は玄関ホールへ戻り、帰り支度を整えたエドガーをオクタヴィアが見送っていた。
「ええ。ごきげんよう、殿下」
「ああ」
エドガーは数歩進んだところで足を止めると、何かを思い出したように振り返った。
「オクタヴィア」
「何でしょう?」
「学院で何か困ったことがあれば、僕に言ってくれ」
意外な言葉だった。
「なぜですの?」
「なぜって……君は僕の婚約者だろう?」
「先ほど、学院では自由に過ごしていただいて構わないと申し上げましたでしょう」
「それとこれとは別だよ。ずっと一緒にいる必要はないが、困っているのに放っておく理由もない。僕たちは婚約者なんだから」
「…………」
その言葉に、オクタヴィアは妙な引っかかりを覚えた。
婚約者だから。
考えてみれば、自分もずっと同じ言葉を使ってきた。
婚約者なのだから一緒にいるべきで、婚約者なのだから自分を優先するべきで、婚約者なのだから他の令嬢より自分が特別でなければならない。
そう考えることに、今まで一度も疑問を抱かなかった。
そして目の前のエドガーもまた、婚約者だから自分を気遣っている。
そこにどれほど個人的な愛情があるのかは、今のオクタヴィアには分からなかった。
(……もしかすると、わたくしたちは似た者同士なのかもしれませんわね)
二人とも「婚約者」という関係に従って相手と接しているだけで、その言葉を取り除いたあとに何が残るのかを考えたことがない。
「……そうですわね」
オクタヴィアが答えると、エドガーは小さく頷いた。
「では、学院で」
「ええ」
今度こそエドガーは屋敷を出ていった。
閉じた扉を眺めながら、オクタヴィアはしばらくその場に立っていた。
「お嬢様」
後ろからマリアンヌに呼ばれ、ようやく振り返る。
「何?」
「殿下と何かございましたか?」
「何もありませんわ。ただ、少し分からなくなっただけです」
「何がでしょう」
どう説明したものかと考えたものの、隠すほどのことでもない。
「わたくしが、どうしてあの方を好きだったのかですわ」
マリアンヌが驚いたように瞬きをした。
「殿下がお好きではない、ということでしょうか?」
「それも分かりませんの。嫌いではありませんし、大切な方だとは思っています。幼い頃から一緒に過ごしてきましたし、婚約者として隣に立つことを誇らしく思っていたのも事実ですわ」
そこまで口にしたところで、オクタヴィアはようやく、自分が何に引っかかっているのか分かった気がした。
「ただ、殿下そのものが好きだったのか、それとも第二王子の婚約者である自分が好きだったのか……今となっては、よく分かりませんわね」
第二王子の婚約者であり、いずれ王族へ連なる存在となる自分。
誰よりも高い場所に立ち、他の令嬢たちから羨望され、誰もが簡単には逆らえない自分。
もしエドガーへの執着の中に、そんな自尊心が混じっていたのだとしたら。
(……随分とわたくしらしい恋ですこと)
自嘲するように笑い、それ以上考えるのはやめた。
今すぐ答えを出す必要もないだろう。
「まあ、いいでしょう。それよりマリアンヌ、明日の予定は?」
「明日、でございますか?」
「昨日の一覧ですわ。もう一人、お会いするのでしょう?」
マリアンヌが意外そうな顔をする。
「本当に行かれるのですね」
「当然でしょう。クラリッサ一人に謝罪して、それで全てをやり遂げたような顔をするつもりはありませんわ」
「ですが、学院への入学は明後日でございます」
「だからこそです。三日しかないと嘆いている暇があるのなら、その三日でできることくらいはしておくべきでしょう?」
我ながら随分と殊勝なことを言うようになったものだと思ったが、別に聖女になったわけではない。
自分が間違っていたと気づいたから訂正する。
ただそれだけのことだ。
それに、一度クラリッサに頭を下げておきながら、他の相手からは逃げ出したなどと思われるのも癪だった。
「学院入学まで、あと一日ですもの。過去の全てを片付けることはできなくても、何もしない理由にはなりませんわ」
「承知いたしました。それでは、戻りましたら確認いたします」
「お願い」
マリアンヌが頭を下げるのを見届け、オクタヴィアは自室へ向かって歩き出した。
前世の記憶を取り戻してから、分からないことばかりが増えている。
誰を傷つけてきたのか、なぜあれほど他人に厳しく当たっていたのか、どうしてエドガーに執着していたのか。それまで一度も疑問に思わなかったことが、今になって次々と自分へ問いかけてくる。
ゲームの知識が教えてくれるのは、このまま進んだ先に待つ破滅だけ。
そこへ至らないために何を選ぶのかも、自分が本当は何を望んでいるのかも、答えまでは用意されていない。
(……結局、自分で考えろということですのね)
随分と不親切な話だと思う。
けれど、自分の人生なのだから、それが当然なのかもしれない。
オクタヴィアはそんなことを考えながら廊下を進み、ふと窓の外へ目を向けた。
学院入学まで、あと一日。
そしてその先には、前世で知っている物語の始まりが待っている。
ただし――そこを歩くオクタヴィア・ローゼンフェルトは、もうゲームの中とまったく同じ少女ではなかった。




