15話 悪役令嬢は便利ですものね
その日の夕方、オクタヴィアが屋敷へ戻ると、玄関で待っていたマリアンヌから、父が書斎へ来るよう伝えていると告げられた。
「お父様が?」
「はい。お嬢様がお帰りになりましたら、すぐにお通しするようにとのことです」
「……そう」
どうやら、昨日頼んでいた件について何か分かったらしい。
オクタヴィアは鞄をマリアンヌへ預けると、制服のまま父の書斎へ向かった。
扉を叩くと、中から落ち着いた声が返ってくる。
「入りなさい」
「失礼いたします」
書斎へ入ると、父アルベルトは机の上に数枚の書類を広げていた。
その表情は普段と変わらず穏やかだったが、オクタヴィアには何となく、あまりよい話ではないのだろうという予感がした。
「座りなさい、オクタヴィア」
「はい」
向かいの椅子へ腰を下ろすと、父は一枚の書類を差し出した。
「昨年の秋、学院の旧式魔法具修復へ支援を行った件について調べさせた。仲介したのはベルク商会だ」
オクタヴィアは思わず顔を上げた。
「……やはり、そうでしたのね」
「心当たりがあるのか?」
「ええ。昨日、クラリッサ・エルフォード伯爵令嬢からお話を伺いました。ベルク商会は昨年の秋、エルフォード家との取引条件を変更しようとしていたそうですわ」
アルベルトの眉が僅かに動いた。
「……そうか」
「しかも、その際にローゼンフェルト公爵家のご意向を理由に挙げたとか」
「そのような指示を出した覚えはない」
「存じております」
オクタヴィアは静かに頷いた。
父が商会へ圧力をかけていないことは、以前のアーデン家の件でも確認している。少なくとも、娘の気まぐれな怒りに合わせて領地や商会を動かすような人物ではない。
だが、それでも周囲が公爵家の意向を勝手に推し量り、動いてしまうことはある。
「ベルク商会は、我が家と長年取引のある商会の一つだ。だが、昨年の秋頃から、学院の研究活動に関わる取引を増やしていたらしい」
「魔法具の研究ですわね」
「ああ。そして、その取引を担当していた人物がいる」
アルベルトは書類の一箇所を指で示した。
「ベルク商会の若手管理者、ルーカス・ベルクだ」
オクタヴィアはその名前を目で追った。
ルーカス・ベルク。
商会長の甥にあたり、現在は学院関連の取引を任されているという。
「……その方が、今回の事件に関わっていると?」
「まだ断定はできない。ただ、気になる記録がある」
父は別の書類を取り出した。
「学院の研究会へ修復費用を提供した際、ルーカスは我が家の紹介であることを強調していたらしい。正式な寄付ではないにもかかわらず、研究会側には公爵家が支援しているという印象を与えていたようだ」
「……なるほど」
「さらに、エルフォード家との取引見直しについても、ルーカスが主導していたことが分かった」
オクタヴィアはゆっくり息を吐いた。
同じ人物が、二つの件に関わっている。
偶然にしては、少々出来すぎているように思えた。
「お父様、その方はわたくしと面識がございますか?」
「直接の面識はないはずだ。だが、お前の名前を知っていた可能性は高い」
「……そうですか」
オクタヴィアは考え込んだ。
自分の名前を知っている商人など、王都にはいくらでもいる。
問題は、その名前をどのように利用したかだ。
「それと、もう一つ」
アルベルトの声が少し低くなった。
「昨年の秋、お前の名義でベルク商会へ送られた手紙がある」
オクタヴィアは顔を上げた。
「……わたくしの名義で?」
「ああ。商会側の記録に残っていた」
差し出された書類には、手紙の写しが添えられていた。
そこには、エルフォード伯爵家との取引について、ローゼンフェルト公爵家の意向を十分に考慮するよう求める文面が記されている。
オクタヴィアは一通り目を通し、眉を寄せた。
「……覚えがございませんわ」
「そうか」
「少なくとも、このような文面を商会へ送った記憶はございません」
アルベルトは娘の顔を見つめた。
「署名はお前のものに似ている。だが、筆跡には不自然な点がある」
「……つまり、偽造された可能性があると?」
「その可能性を調べている」
オクタヴィアは手紙の写しへ視線を落とした。
確かに、署名は自分のものに似ている。
しかし、よく見れば文字の払い方や、語尾の選び方に僅かな違いがあった。
(……わたくし、こんな回りくどい書き方はいたしませんわね)
以前の自分なら、気に入らない相手への不満をもっと直接的に表現していただろう。
もちろん、それが褒められたことではないのは十分承知している。
「……お父様」
「何だ」
「この手紙については、学院にもお伝えいただけますか?」
アルベルトは少しだけ眉を上げた。
「理由を聞こう」
「今回の事件で、わたくしは既に疑われています。もし誰かが以前からわたくしの名前を勝手に使っていたのであれば、そのことも調査の参考になるかもしれません」
「……分かった」
父は頷いた。
「ただし、これだけで今回の事件との関連が証明されるわけではない」
「承知しておりますわ」
オクタヴィアは静かに答えた。
今必要なのは、誰かを疑うことではない。
事実を確かめることだ。
その考え方は、ここ数日で随分と身についたように思えた。
◇
翌日、オクタヴィアが学院へ到着すると、廊下の向こうからエレノアが駆け寄ってきた。
「オクタヴィア様!」
「おはよう、エレノア。朝からどうしましたの?」
「ハインツ先生がお呼びです。昨日の魔法具事件について、何か進展があったそうで……」
オクタヴィアは僅かに目を細めた。
「……そう」
どうやら、父から学院へ連絡が入ったらしい。
エレノアに礼を告げ、準備室へ向かうと、そこにはハインツ教師のほかに、レオンハルトとユリウス・フェルナーの姿があった。
「ローゼンフェルト嬢、来てくれたか」
「お呼びと伺いましたので」
オクタヴィアは丁寧に一礼した。
ハインツ教師は頷くと、机の上に置かれた資料を示した。
「公爵家から、昨年の研究支援に関する記録を提供していただいた。さらに、学院側でも魔法具の保管記録を確認したところ、いくつか不審な点が見つかった」
「……不審な点?」
「事件の前日、問題の魔法具が一度保管庫から持ち出されていた」
オクタヴィアの表情が変わった。
「どなたが?」
「記録上は、研究会の備品点検という名目だった。だが、研究会の代表であるフェルナー君には、そのような点検を指示した覚えがないそうだ」
ユリウスが頷いた。
「ええ。私たちが予定していた点検は別の日でした。しかも、持ち出しの記録には、研究会の外部協力者の名前が使われていたんです」
「外部協力者……」
オクタヴィアは嫌な予感を覚えた。
「まさか」
「ルーカス・ベルクだ」
ハインツ教師が答えた。
室内が静まり返る。
「……なるほど」
オクタヴィアはゆっくり息を吐いた。
ベルク商会。
学院の魔法具研究会。
そして、ローゼンフェルト公爵家の名前。
全てが、一人の人物へつながり始めていた。
「ただし、持ち出し記録に名前があるだけでは、本人が細工をした証拠にはならない」
ハインツ教師は慎重に続けた。
「そこで、学院の管理担当者へ確認したところ、当日の夕方にルーカス・ベルク本人が研究棟へ入ったことが分かった。さらに、保管庫の鍵を管理していた補助職員が、彼に魔法具を渡したと証言している」
「……その方は、なぜ魔法具を渡したのです?」
「研究会の修復支援に関わる点検だと説明されたそうだ。公爵家の紹介を受けた人物でもあったため、疑わなかったらしい」
オクタヴィアは小さく息を吐いた。
(……また、わたくしの家の名前ですのね)
それほどまでに便利なものだったのだろう。
自分が当然のように振りかざしてきた家名が、他人にとっても利用しやすいものだったという事実に、今さらながら複雑な気分になった。
「それで、ルーカス・ベルクは今どちらに?」
「学院側から事情を確認するため、既に連絡を取っている。本人は午後に来る予定だ」
ハインツ教師が答えた。
オクタヴィアは頷いた。
しかし、その隣でレオンハルトが口を開く。
「先生、もう一つ確認しておきたいことがあります」
「何だね?」
「魔法具の細工は、光属性の魔力に反応するよう調整されていたんですよね」
「ああ。その可能性が高いと判断されている」
「なら、ベルクが細工をしたとして、どうしてアーデン嬢の属性を知っていたんでしょうか」
オクタヴィアも顔を上げた。
確かに、その点はまだ説明されていない。
セシリアが光属性の適性を持つことは、学院の一部の関係者しか知らなかったはずだ。
ルーカスが単なる商会の関係者なら、その情報を手に入れるのは容易ではないだろう。
「その点についても調査している」
ハインツ教師は答えた。
「ただ、学院の入学準備に必要な魔法具の調達には、ベルク商会も関わっていた。属性測定に関する資料の一部を見られる立場だった可能性はある」
「……なるほど」
オクタヴィアは静かに頷いた。
どうやら、事件の真相はかなり近いところまで来ているらしい。
しかし、まだ一つだけ大きな疑問が残っていた。
(……何のために?)
ルーカス・ベルクが魔法具へ細工をしたとしても、その目的が分からない。
セシリアを傷つけるためなのか。
オクタヴィアへ罪を着せるためなのか。
それとも、全く別の理由があるのか。
その答えを知るには、本人から話を聞くしかないだろう。
◇
午後、学院の応接室には重苦しい空気が漂っていた。
ハインツ教師と学院の管理責任者、そして公爵家の代理人として派遣された家令が席についている。
オクタヴィアは事件の関係者として、学院側の許可を得たうえで同席していた。
その向かいに座っているのは、二十代半ばほどの青年だった。
整えられた茶髪に、商人らしい柔らかな笑み。
しかし、その指先は僅かに落ち着きを失っている。
ルーカス・ベルク。
今回の事件で、最も疑わしい人物。
「……まさか、このようなことでお呼びいただくとは思いませんでした」
ルーカスは困ったように笑った。
「私はあくまで研究会への支援に関わっていただけです。魔法具へ細工をしたなどと、身に覚えがありません」
ハインツ教師は落ち着いた声で尋ねた。
「では、事件の前日に保管庫から魔法具を持ち出した理由を説明してもらえますか?」
「修復状況の確認です。以前から研究会へ支援を行っておりましたので、状態を確認する必要がありまして」
「研究会の代表は、そのような点検を依頼していないと言っています」
「……行き違いがあったのでしょう」
ルーカスはそう答えた。
オクタヴィアは黙って彼を見つめていた。
今のところ、相手は落ち着いている。
しかし、質問を受けるたびに僅かな間が生まれていることには気づいていた。
「では、もう一つ」
ハインツ教師が書類を取り出した。
「持ち出された魔法具には、旧式の制御術式を改変した痕跡が残っていました。この形式は、あなたが支援していた修復研究でも使用されていたものです」
「……それだけで、私が細工をしたと?」
「いいえ。だからこそ確認しています」
教師は淡々と答えた。
「その術式について、あなたはどの程度の知識を持っていますか?」
「私は商人です。専門的なことまでは分かりません」
ルーカスは即座に答えた。
そのとき、オクタヴィアが静かに口を開いた。
「……では、一つお尋ねしてもよろしくて?」
ルーカスの視線がこちらへ向く。
「もちろんです、ローゼンフェルト公爵令嬢」
「昨年の秋、あなたはわたくしの名前を使って、エルフォード伯爵家との取引条件を変更しようとなさいましたわね」
ルーカスの表情が僅かに強張った。
「……そのようなことは」
「記録が残っておりますの。公爵家の意向を考慮するよう求める手紙も、あなたの商会へ届いていたそうですわ」
「それは、公爵家からの正式なご意向だと……」
「わたくしは、そのような手紙を送っておりません」
オクタヴィアはきっぱりと告げた。
ルーカスが言葉を止める。
「もちろん、わたくしがエルフォード伯爵令嬢を快く思っていなかったことは事実ですし、周囲へ不満を漏らしていたことも否定いたしません。ですが、それを理由に商会へ取引の変更を命じたことはございませんわ」
「……しかし、署名が」
「似せて書くことはできますでしょう?」
オクタヴィアは静かに微笑んだ。
「それとも、わたくしが書いたと証明できるものがございますの?」
ルーカスは答えなかった。
応接室に沈黙が落ちる。
しばらくして、学院の管理責任者が口を開いた。
「ベルク氏。公爵家からは、その手紙について正式な照会を受けています。筆跡の確認も進められているそうです」
「……私は、手紙が届いたので、それに従っただけです」
「では、その手紙を誰から受け取ったのか、説明していただけますか?」
ルーカスは俯いた。
指先が僅かに震えている。
そして、長い沈黙のあと、ようやく口を開いた。
「……私が、書きました」
オクタヴィアは目を細めた。
「……そうですか」
「ですが、あれは……公爵令嬢のお気持ちを汲んだだけです。エルフォード家を快く思っていらっしゃらないと聞いていましたし、取引条件を見直せば、ローゼンフェルト家との関係もより強くなると考えたんです」
ルーカスの声には、言い訳めいた響きがあった。
「私は商会のために……」
「商会のため?」
オクタヴィアは静かに問い返した。
「ええ。公爵家との関係を深めることができれば、商会にとって大きな利益になりますから」
「……なるほど」
オクタヴィアはゆっくり頷いた。
自分の悪評が、商人にとって都合のよい材料になっていたということだ。
だが、それだけでは今回の事件の説明にはならない。
「では、今回の魔法具については?」
オクタヴィアが尋ねると、ルーカスは顔を上げた。
「……何のことでしょう」
「あなたは、わたくしがセシリア・アーデン男爵令嬢を快く思っていないと考えたのではなくて?」
ルーカスの目が揺れた。
オクタヴィアはその反応を見逃さなかった。
「昨年の秋と同じように、わたくしの気持ちを勝手に推し量って動いたのでしょうか」
「……それは」
「あるいは、わたくしへ罪を着せるおつもりだったのかしら」
ルーカスは唇を噛んだ。
そして、しばらくしてから小さく首を振った。
「……最初から、あなたに罪を着せるつもりだったわけではありません」
その言葉に、オクタヴィアの表情が変わった。
「……最初から?」
ルーカスは俯いたまま続けた。
「私は、学院で光属性の魔法を扱える生徒が入学すると聞いていました。しかも、その生徒は地方の男爵家の出身で、特別な推薦を受けていると……」
ハインツ教師が眉を寄せた。
「その情報をどこで?」
「学院への納品に関わる書類で、偶然目にしたんです」
「……それで?」
ルーカスは深く息を吐いた。
「光属性の魔力は、特定の魔法具の研究に利用できる可能性があると聞いていました。私は、その力を測定するために……」
「測定?」
「ええ。通常の測定では分からない反応を確認したかったんです」
オクタヴィアは眉をひそめた。
「……そのために、魔法具へ細工をしたと?」
「暴走させるつもりはありませんでした!」
ルーカスが声を上げた。
「魔力を一時的に蓄積し、反応を記録するだけのつもりだったんです。危険なことになるとは思っていなかった!」
ハインツ教師の表情が厳しくなる。
「許可なく測定用魔法具の術式を書き換えた時点で、重大な問題だ。しかも、光属性の魔力に反応するよう細工をしたのなら、対象となる生徒が誰なのか分かっていたはずだろう」
「……はい」
「その生徒の安全について、考えなかったのか?」
ルーカスは答えられなかった。
オクタヴィアはしばらく彼を見つめていたが、やがて静かに口を開いた。
「……それで、わたくしの名前ですか」
ルーカスが顔を上げる。
「何か問題が起きても、わたくしが疑われると考えていらしたのでしょう?」
「……それは」
「わたくしがアーデン男爵令嬢を嫌っていると、周囲が思っていることはご存じだったのでしょうね」
ルーカスは答えなかった。
しかし、その沈黙が何より雄弁だった。
オクタヴィアは小さく息を吐く。
(……なるほど)
つまり、この男は最初から自分へ罪を着せるために事件を起こしたわけではない。
光属性の魔力を利用した研究のために、危険な細工を施した。
そして、もし問題が起きたとしても、悪役令嬢オクタヴィアが疑われる可能性が高いことを理解していた。
だから、危険を軽く見積もることができたのだ。
「……随分と便利ですこと」
オクタヴィアは静かに微笑んだ。
「わたくしの名前も、評判も、あなたにとっては都合のよい道具だったのですね」
ルーカスは俯いた。
オクタヴィアはその姿を見つめながら、胸の奥に湧き上がる怒りを感じていた。
しかし、その怒りは以前のように、相手を一方的に罰したいという衝動とは少し違っていた。
自分の過去の悪行が利用されたことは腹立たしい。
けれど、それ以上に。
セシリアが危険な目に遭ったことを、軽く考えているように見えるのが許せなかった。
「ルーカス・ベルク様」
オクタヴィアは静かに告げた。
「わたくしが以前、どれほど嫌な人間だったかは否定いたしません。実際に、多くの方々へ迷惑をかけてきましたもの」
ルーカスが顔を上げる。
「ですが、それと今回の事件は別ですわ」
オクタヴィアは真っ直ぐに彼を見つめた。
「あなたが危険な細工を施した結果、セシリアは怪我をするところだった。わたくしも、レオンハルトも、教師の方々も、あの場にいた全員が危険に晒されたのです」
「……はい」
「その責任を、わたくしの評判で曖昧にすることはできませんでしょう?」
ルーカスは何も言えなかった。
オクタヴィアはゆっくり息を吐き、椅子へ座り直した。
「わたくしがしてきたことについては、わたくしが責任を取ります」
そして、はっきりと続ける。
「ですが、あなたがしたことについては、あなたご自身で責任をお取りなさい」
応接室に、静かな沈黙が落ちた。
ハインツ教師がゆっくり頷く。
「……ベルク氏。今回の件については、学院として正式に調査を進める。必要に応じて、関係機関への報告も行うことになるだろう」
ルーカスは俯いたまま、小さく頷いた。
オクタヴィアはその姿を見つめながら、胸の奥に残る複雑な感情を整理しようとしていた。
無実を証明するための手がかりは、ようやく揃った。
だが、それで全てが終わったわけではない。
今回の事件によって、セシリアは危険な目に遭い、学院の生徒たちは不安を抱え、そしてオクタヴィア自身も、過去の自分が残した悪評の重さを改めて思い知らされた。
それらが、たった一度の謝罪で消えるはずもない。
(……本当に、厄介なものですわね)
けれど。
以前の自分なら、きっとこんなふうには考えなかっただろう。
自分が疑われたことに腹を立て、相手を罰することばかり考えていたはずだ。
今は違う。
少なくとも、そうありたいと思っている。
オクタヴィアは静かに目を閉じ、ゆっくり息を吐いた。
悪役令嬢という立場は、思っていた以上に便利なものだったらしい。
誰かを傷つけるためにも。
誰かの悪事を隠すためにも。
そして、誰かが責任から逃れるためにも。
けれど、もう二度と、そんな便利な存在でいるつもりはなかった。




