058.一方的な宣言と衝撃
「それじゃあ、後始末手伝えなくて申し訳ないですけど。行ってきます!」
オルストレリア大公の嫡男フランツの手下どもによって不当に占拠されたヴィルヘルム公認の商館『フックス商会』を解放するため、オレたちが突入してから4日が経過した。
コンラートさんは既にヴィルヘルムの代理として大公との『交渉』に出向く準備に入っている。
その内容はもちろん、商館から商館長とヴィルヘルムの公的な署名入りの『高級なお菓子』を帝国公会議直前のタイミングで有力貴族の家族向けに贈らせたこと。
ちなみに署名は魔力で本人のものと証明できる術式が組まれたもので、現代で言えば電子署名みたいなもんかな。
商館長はヴィルヘルムのも扱える権限を与えられており、一緒に拘束された店員たちの身の安全を脅かされてやむなく署名したのだ。
あたかもヴィルヘルムが貴族本人ではなく家族にワイロを贈って自分側への投票を暗に促したと見せかけて、選帝侯なのにセコい野郎だとイメージダウンさせ政治的な権威の失墜を狙ったこの件、ケジメは取らねばならない。
それはともかく、これでオレたちの当初の任務は完了したので、本来は商館内の後片付けとか手伝わねばならないのだが。
ソフィアが首都ウェーインからほど近い都市グラツクに来ているはずなので、居ても立ってもいられずに会いに行くことにしたのだ!
コンラートさんに許可をもらって、オレはウキウキ気分で入院していた病院のドアを開ける。
それを見送るロベルトとアルヌルフからは恨めしそうな、そして羨ましそうな声が聞こえてきた。
「いいなあ。俺たちも頑張ったのにさ、ソフィアさんに会うどころか仕事が山積みでそれどころじゃない」
「おれなんて、交渉の内容の記録係としてコンラートさんと一緒に行かなきゃならないってのに〜。むほぉ!」
「まあそう言うな2人とも。その代わり私の方でボーナスの査定に色を付けてやるから」
「コンラートさん! それならオレも当然、次のボーナスはガッポリと」
「お前には『ボーナス代わり』に特別な休暇を与えた。それとも行くのをやめるか?」
「そ、そんな〜! もちろん行くのはやめない……くううっ!」
「クククッ、いい気味だ」
「それじゃあソフィアちゃんにおれの活躍も伝えてくれよな! ぬふふふ!」
一転してほくそ笑むロベルトたちに見送られながら今度こそ出発した……トホホ。
まあいいや。ソフィアと今この時に会える方が何倍も嬉しい。ボーナスはまた別の仕事で活躍して増やせばいいのだ。
「ああ、早く会いたいなあ」
ソフィアの笑顔を思い浮かべて顔が綻んでしまうのが自分でもわかる。
そんな感じでヘラヘラしながら高速仕様の馬車に乗り込み、いざ出陣!
ちなみに馬車は商館長のアルバートさんが用意してくれた。これだけではなく、グラツクでのショーに間に合うように様々なツテを使って便宜を図ってくれた上に滞在費まで面倒をみてもらった。
アルバートさん曰く、今回の件と3年近く前のフリシュタイン公国潜入での件をまとめてお礼をしたいから、と。
公国での件はこっちの都合だから気にしなくていいのに。まあせっかくだからありがたく使わせてもらうけど。
あの時アルバートさんは公国に囚われたオレを一度見捨てたのだが、何も恨み言を言われなかったことで心の中ではとても救われたらしい。
ついでに当時のことを思い出して移動中の暇を潰す。それにしても、あの頃のソフィアは……まあいいか。それも含めて彼女のことを好きになったのだから。
◇
大公領第2の都市グラツクにて開催されたファッションショーは、煌びやかな衣装と装飾品を華麗に着こなすモデルたちの競演によって大盛況のうちに終幕した。
観客たちの拍手と歓声が場内に響き渡る中、貴賓席からオールバックの男が立ち上がって感謝の言葉を口にすると同時に、衝撃的な発表を行なった。
「皆様、本日はお忙しい中ご来場いただき、誠にありがとうございます。当方がその素晴らしさに自信を持って開催したファッションショー、大変ご満足いただけたものと受け取っております」
「こちらこそ最高のショーをありがとうございますー!」
「フランツ殿下ー! バンザーイ!」
「……ありがとうございます。実はこの場をお借りして、重大な発表があります……!」
フランツの意味ありげな言葉に、観客たちは何が出てくるのかと固唾を飲んで耳を傾ける。
そしてざわめきが徐々に静まるのを辛抱強く待ってから、フランツは声の大きさとトーンを一段階、いや二段階上げて一方的に言い放った。
「私ことフランツ・フォン・ハプニンブルクは……本日のショーにも出演していたモデル、ソフィア嬢……いやソフィアと婚約の儀をこの地にて挙行することを、ここに宣言する!」
突然のことに一瞬の静寂が会場を包み込むが、すぐに歓喜と祝いの言葉があちらこちらから間断なく飛び交い、賑やかでお目出度い雰囲気で場は埋め尽くされた。
「おめでとうございます殿下! これで世継ぎが誕生すれば、大公領はますます安泰だぁ〜!!」
「美男美女で、まさに将来の大公殿下に相応しい! お似合いのカップルの誕生ですぞ!」
そしてこの宣言と歓喜は、裏方に引き上げたモデルやデザイナーたちにもすぐに広まった。
もちろんギーゼラとヒルデにも。
「ねえソフィア! あの噂……まさか本当だったんて! どういうことなのか、ウチに説明して!」
「うーん。こういう言い方したくないけどさ。これまで心配してきたあたしたちを騙してたってことなの?」
「お、落ち着いてくださいギーゼラ、ヒルデさん。私は騙すつもりなど、決してありません」
「じゃあなんなのさ、あの宣言は!」
「……確かに殿下は私へのアプローチを繰り返してきました。ですが、私は承諾などしていないのです……なのに殿下は一方的に」
「でもね、仮にも大公殿下の嫡男がこんな公の場で発表しちゃってるわけで。いくらソフィアがそう主張したって言い分は通らないかもよ?」
「じゃあどーすんだよ、タツロウのことは! ウチを安心させることを言ってくれよ、ソフィア!」
「……あとで抗議しにいきます。申し訳ありませんが殿下が発表を撤回するまで待ってもらえますか、ギーゼラ」
「そんな簡単に撤回なんてできるのかねえ。ここまで大事になってるのに」
「……必ずそうさせます。どのようなことをしても。私はギーゼラもヒルデさんも……もちろんタツロウのことも、決して裏切ったりしません……!」
◇
「ど、どうなってるんだ。オレの耳がおかしくなってるのか? なんなんだよこれはいったい。なあ、ソフィア……!」
<あとがき>
いつも読んでいただいてありがとうございます
次回更新は6月21日(日)の予定です
よろしくお願いします




