059.フランツの本気と神の加護
「殿下……先日も申しましたが、約束が違います! ウェーインに到着するまでは、タツロウが私のもとに来るのを待つと。なのに、あのような発表を……!」
「ふん。もう明日にはこのグラツクを出発する……だがヤツはお前の前に現れるどころか、俺様の配下の監視から逃げ出したという報告もない」
「それは、殿下の配下からの連絡が間に合っていないだけでは」
「このオルストレリア大公領第2の都市グラツクとウェーインの間には、街道の地中に一定間隔で高価な魔石を埋め込んだ魔力による伝達網を特別に整備してある。何かあれば一瞬で連絡が俺様の下に届くはずだ」
「……ですが」
「だが安心しろ。逆に言えばタツロウの生命は無事だということでもある。死んだ場合も連絡を寄越すように言ってあるからな。まあ五体満足かは知らんが」
「そのような、縁起でもないことを言わないでいただけますか……!」
「お前こそいい加減にしたらどうだ? 結局のところ、タツロウには命懸けでお前を守るという信念も執念も無かったということだ。だが、俺様は違う」
「何が違うのですか? カミラさんを始めとして何人も女性を囲っている方にそのようなことを言われましても」
「……全員に暇を出した」
「どういうことですか?」
「カミラたちは既に俺様の元から去った。今はもう、お前を……ソフィアだけを見ている」
「……!」
「俺様は本気だ。お前だけを愛するし、どんな時でも全力で……それこそ手段を選ばずに守ってみせる」
「……信じられません。ザクツブルクでは私をあのような形で呼び出して辱めようとしたではありませんか!」
「あれは……すまなかったと思っている。俺様はこれまでの人生で、ああいうやり方しか知らなかった。だがもうしない。お前が傍にいてくれるだけで……」
「今さらそのようなことを仰られても。私の心の中にはタツロウしかおりません」
「……悪いが、今夜の懇親パーティーの席で婚約の儀を執り行う。強引な真似はしたくないが、これ以上先延ばしにするつもりはない」
「何を勝手な……それではパーティを欠席させていただくまでです」
「そうはいかない。あとでお前を『呼んでこさせる』つもりだったが手間が省けた」
「いったいどういう……んっ!?」
ソフィアの背後から黒服の男が一人、いつの間にか忍び寄っていた。
男は何やら染み込ませたハンカチをソフィアに嗅がせて、倒れ込む彼女を背中から抱きかかえながら静かにフランツへの報告と指示を仰いだ。
「殿下。ソフィア様の意識は落ちております……このあとは」
「女官たちに身柄を引き渡して、そのまま必要な準備をさせろ。婚約の儀に相応しい衣装と飾り物を身に着けさせて……クククッ」
◇
「なあ! とにかくソフィアに会わせてくれ! 頼むから!」
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ! もう会場も閉めるから、とっとと出ていってくれませんかね! お客さん!」
「それじゃあさ、夜に開催される懇親パーティーにオレも出席させてくれよ! この通り!」
「そ、そんなことを我々警備スタッフに言われても。それにパーティにはそれなりの身分の方々しか招待されておらん! お前はどう見ても平民か下級貴族だろう、馬鹿言ってないでとにかく出ていけ!」
最後はドカッと蹴り出されるようにして会場から追い出されちまった。
ちくしょう。オレはただ、ソフィアに直接会って確かめたいだけなんだ。
フランツの野郎が一方的にソフィアとこ、婚約するとか馬鹿なことを抜かしやがって。
ソフィアがそんなことを承諾するはずがない。何かフランツが汚い手段でも講じて、どうにもできない状況に追い込まれてるんじゃ……そうとしか思えねえんだ。
でもどうする。ここを正面突破するのは難しい。
そういや懇親パーティーはどこで……移動する際にはソフィアはもちろん、フランツだって建物の外に出る。そこを狙って突撃するか。
それからオレはファッションショーの会場の周りでしばらくウロウロしながら様子を伺っていたのだが。
「なんだ貴様……怪しい男だ、ひっ捕らえろ!」
大型の馬車が会場の裏口へと入っていくのが見えたタイミングで、大勢の警官が周辺の警備に配備されたのだ。
フランツは確かに大公の嫡男だが、ザクツブルクではここまで物々しい厳重な警備などされていなかった。
それがこんな……その警官たちに追い回され、突撃どころか馬車に近づくこともままならない。
ここで捕まって投獄でもされたら、それこそソフィアを救出するのが不可能になってしまう。
「ハアハア……なんとか撒いたけど、ここはどこだ。かなり遠ざかっちまった。どうしよう……」
あと残された手段としては、婚約の儀が執り行われるという夜の懇親パーティーに直接乗り込んで……その場に現れた彼女に直接真意を確かめるしかない。
実際に儀式まで行われたら、ソフィアの意思にかかわらず覆すのが極めて難しくなる。
それこそ大公のメンツ丸潰れだ。だから大公家の威信をかけて破棄などさせまいとするだろう。
だから終了前に乱入してでも阻止するしか……こうなったら市内の大きな建物をしらみ潰しに探そう。
そうだ、こういうのはフランツ自身の邸宅か別邸でやるのでは……聞いて回ってみよう。
というのも安易な考えであった。
「殿下の邸宅の場所を嗅ぎ回るなんて、お前さんどこの回し者だ?」
「グラツク市民なら誰でも知ってるのに……招待されているなら尚のこと。怪しい奴、警察に通報しよう!」
なんだよこれ。市民もフランツの味方……ってよく考えたら当然か。オレはヤツの本性を知ってるが、市民たちにすれば経済的な繁栄をもたらした良き領主様なんだから。
いよいよヤバくなってきた。オレは一体どうすれば……!
「タツロウじゃない! アンタもソフィアのファッションショー見に来てたの?」
「久しぶりだね。俺たちはショーには間に合わなかったけど……懇親パーティーには出席しようと駆けつけたのさ」
オレの横に止まった馬車の中から聞き覚えのある声が。
神はオレをまだ見捨ててはいなかった。
「サンドラ! それにマルコ! こんなところで出会えるなんて……!」
<あとがき>
いつも読んでいただいてありがとうございます
次回更新は7月5日(日)予定です
よろしくお願いします




