055.とにかく頑張ろう
「げふああっ!! バカな、この俺が3撃も食らって……いや、たった3撃でこんなダメージを……!」
「んぐううっ……な、何故だ。我ら2人がかりでコイツを止められんとは……2年半でどうして、こんな差が……がはっ!?」
「それは簡単な話だ。まず第一に、その2年半前とは違ってオレは棒切れという得物を持っている。第二に……って、もう聞いちゃいねえか」
オレとロベルト、アルヌルフの3人は対魔力結界が施された商館の2階へ突入し、飛び込んだ会議室で待ち構えていた連中と大立ち回りの最中だ。
で、オレの相手だが。何の因果か、2年半前のフランツとのイザコザの際に戦ったヤツの元ボディガード2人……体術使いのヨシアス、そして拳闘術のマティが待ち構えていた。
大苦戦必至かと思ったのだが、少々てこずったものの2人を同時に相手して完勝! という意外な結果となったのだ。
その原因は……第一の理由は述べた通り。そして第二は、オレが奴らより急激にレベルアップしていたこと。
オレはこの2年半、ヴィルヘルムの家臣としてブランケンブルクの街の最前線で様々な事件や事故の対応をやってるうちに経験値を沢山積んだ。
だが奴らは、残念ながら少ししかレベルアップしていなかった。現状でも十分に強いんだけど……それ故に向上心がイマイチ不足してたのかもな。
あとは、短期間に大きく成長できるのは若者の特権ってことで……それが最後の理由かな。
それ以外の連中はロベルトたちが頑張って引き受けてくれてるし、あとは商館長を助けるだけだ。
「おーい! こっちを手伝ってくれタツロウ!」
「おれたち2人だけじゃ、もたないよ〜!」
うるさいな……それぐらいはなんとかしてくれよ。
何故なら、オレの目の前にはまだ気を抜くことができない強敵が対峙しているからだ。
「グフフ……タツロウとかいったな若僧。言っておくが、さっきの雑魚どもを倒したくらいで勝った気になっても困るんだがな〜!?」
「いや別に。それよりさあ、これから対戦する相手の名前くれーは知りてえんだけど? あとで墓標に刻むのに必要だから」
「それならば不要だ……と言いたいが、冥土の土産に教えてやろう。吾輩の名はゲプハルト。よーく覚えておくがいい!」
おいおい? それ負けフラグなんじゃ。と思いつつも、ふざけてばかりいられない圧迫感を感じる。
身長2メートルは優に超えてガッチリ、というか全身筋肉の鎧と言っていいレスラーみたいな体格。
そして髪型はモヒカンっぽい……ってまさかザ◯ギエフ?
じゃないよな、ゲプハルトって名乗ったんだから。それにここは中世ヨーロッパ風異世界ではあってもゲーム世界ではないし。
それはともかくコイツを突破しないと囚われてる商館長の元にはいけない。とにかくここは頑張ろう。
だが実際に間近で対峙すると、体格と外見だけで心理的に圧倒されそうだ。呑まれないように気を張りつつ冷静さを保たないとあっという間に組み伏せられてしまう。
というわけで先手必勝、間合いに思い切り踏み込みつつ棒切れを斜め上から振り下ろす!
「おらああああっ!!」
「フン、無駄なことを!」
バキィッ!!
何かが折れる音……それはヤツの腕の骨、ではなく。
残念ながらオレの得物、使い勝手が良かった棒切れが真っ二つに折れた音だ。
「そんなヤワな得物など、吾輩の鋼の肉体には一切通じぬわ!!」
なんなんだコイツ……まあ棒切れが折れたのはともかく、普通ならダメージもいくらか受けてるはず。
だがヤツは笑顔でピンピンしてる……強がっているようにも見えないし、どんだけ頑丈なんだよ。
「もう何もしてこないのか? ならばこっちの番だな、フンッ!!」
「クソッ、ラリアットか! だがそんなの避けて反撃に……うわあっ!!」
オレの首を刈るが如くブン回してきた右腕が頭上を通り過ぎたあと、ヤツは回転しながら裏拳のような一撃を左腕から繰り出してきやがった!
まさしくダ◯ルラリアット……危なかった。実際には一種のフェイント技だな。
「グフフ。吾輩の華麗な技に驚いているのは理解するが、動きを止めたままで良いのかな?」
あっ……ヤバい、接近を許して上から身体を掴みかけられている!
完全に抱え込まれたら、体格とパワーの差でどうにもならなくなる。そこからまさにプロレスみたいな投げ技を決められたら一巻の終わりだ。
「簡単に持ち上げられてたまるかよ! だああああっ!!」
オレはとにかく捕まらないように、両肘を張って腕を……いや身体全体をまるで駄々っ子のように激しく動かして、ヤツの両手を振り払いながら後ろに下がる。
背後にスペースがあって助かった。壁端だったらそれこそ格ゲーの如くハメ倒されたに違いない。
何はともあれ、脱出に成功したんだからチャンスを生かさねーとな。
「足元攻めてやるぜ、おらああっ!!」
「ぐぬうっ! こしゃくな真似を!」
ほぼしゃがんだ低い姿勢をとって、ヤツの膝から下の部分を狙って片足を強く素早く、速射砲のように蹴りを繰り出す。
そうやってヤツを近づけないように牽制しつつ右に左に動き続けて振り回してやる。
ヤツが苛立って強引に仕掛けようとするその時こそが隙を見せる瞬間……動きを逆利用して体勢を崩せば、巨漢相手でも床の上にひっくり返すことだって……!
最悪でもこのまま膠着状態に持ち込めば、コンラートさんが2階に来るまでの時間稼ぎになるのだ。
「読めたぞ。そうやって吾輩を苛つかせるか、援護が来るのを待っている。そうなんだろう、若僧?」
「へっ。だったらどうだってんだよ?」
「それは無駄なことだ。お前はこの直後にくたばることになる。フンッッッッッ……!!」
何だコイツ?
いきなりスクワットの途中みたいな姿勢をとって気張り始めた。なんというか、気を溜めてるかのような。
もしかしたら魔力を。いや、ここは結界で魔力は使えない。だったらなんだ、こけおどしか?
「フンッッッ……そろそろいいだろう」
溜め終わったのか、ヤツは立ち姿勢に戻って不気味な笑みを……嫌な予感がして距離を取ろうと思った瞬間のことだった。
「では行くぞ。フンッッ!!!」
えっ!?
ヤツの掛け声と共に、その巨体がオレのすぐ目の前っていうか分厚い胸板に顔が押し付けられてる!
「ぐははは! 吾輩の間合いから逃れることなど、なんぴとたりともかなわぬ!」
ヤツが高速移動……いや壁の位置関係から察するに、オレの方が吸い寄せられたとでもいうのか!?
混乱してるうちに身体が抱え上げられてしまう。ダメだ、ガッチリホールドされて身動きすら取れない!
「受けてみよ! 吾輩の必殺技、『サイクロンドロップ』を!」
オレを逆さまに抱えたまま、ヤツは飛び上がってきりもみ回転し始めて……これはまさかの『ス◯リューパ◯ルドライバー』!?
魔力も無しに実際にやる人間がいるとは……って感心してる場合じゃない。このままヤツの体重を乗せて床に頭を叩きつけられたら……!
「うわはははっ! この場で脳ミソぶちまけて死ねいっ!!」
「うわあああああーーーっっ!!!」
「タ、タツロウーーー!!」
◇
オルストレリア大公領の南部に位置する交通の要衝の都市、ミリャンセ。
湧き出る温泉でも有名なこの中堅都市にてファッションショーの開催を翌日に控え、街ではちょっとしたお祭り気分で賑わっている。
だがソフィアは1人、気分が沈んでいた。
領内を僅か2週間ほどで一周する厳しいスケジュールと、フランツが一方的に行った婚約宣言によるストレス、そしてタツロウの身の安全を心配する気持ちで、心身共に疲れがピークに達していたのだ。
そんな様子を心配したギーゼラとヒルデは、一緒に温泉に浸かろうと彼女を誘い、3人で束の間の休息を満喫している。
「あ〜、いい湯だね〜。あたしのココロとカラダが癒される〜!」
「ウチも! イチから作り直した衣装が好評だし、ホッとして疲れがどっと出たっていうか。それがいっぺんに吹き飛びそう!」
「……」
「どしたのソフィア? そんなにあたしとギーゼラの胸が気になるの?」
「なあんだ、そっちの心配か。ウチと姉さんは人並みより大きい方だから、気にしなくていいって」
「そういうわけでは……いえ、やっぱりそうですね。どうしても目がいってしまいます」
「それなら、バストアップのトレーニング方法を教えてあげよっか? あたしも昔は普通だったけど、トレーニングを続けた結果がこれだから」
「へえ〜、姉さんにもそんな時代が……ウチはなんもしなくてもコレなんだけどね、へへっ」
「なによ、その勝ち誇った顔は?」
「いいじゃん。今のところウチが勝てるのはコレくらいなんだしさ。ところでそのトレーニング方法、ウチにも教えて!」
「アンタはこれ以上大きくしてどーすんのさ!」
「だってオトコは大きければ大きいほど喜ぶんでしょ?」
「それは誤解だっつーの! それに大き過ぎると形が崩れて重たいだけ」
「ふーん。まあいろいろと経験豊富な姉さんがそう言うなら」
「ちょっと! その言い方ってイヤミ?」
「そういうつもり……だよもちろん、あはは!」
「アンタねえ〜!」
「……ふふふっ」
「あっ、やっとソフィアが笑った! っていうか今のどこが面白いのか」
「……すみません、2人が本当の姉妹みたいに仲が良さそうで、なんか可笑しくなってしまって」
「誰がこんなのと!」
「それはウチのセリフだっつーの!」
「ふふふっ!」
「まったく……ところでさ、フランツとの良からぬ噂が聞こえてきたんだけど、デマだよね?」
「ちょっと! それは聞かないでおこうって」
「だってさ、ウチは気になってしょうがないんだよ!」
「……すみません、ご心配をおかけして。もちろんその事は誤解というか。いずれキチンとお話ししますので、それまでちょっと待ってもらえますか?」
「まあ、ソフィアがそう言うならもう聞かないよ」
「残念。そうなればあたしがタツロウくんにアタックしやすくなるのに」
「ちょっと! それはウチが許さないよ!」
その後も続いた2人の楽しい会話に癒されて、ひとまず嫌なことを紛らわせることができたソフィアは、明日のショーに向けてのやる気が満ちてくるのを感じていた。
「……とにかく明日を頑張りましょう。でないとタツロウに顔向けできません……!」
<あとがき>
いつも読んでいただいてありがとうございます
次回更新は5月10日(日)の予定です
よろしくお願いします




