表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アスカンテレスの戦乙女(ヴァルキュリア)】 ~婚約破棄された金髪碧眼の侯爵令嬢リーファは、 戦乙女(ヴァルキュリア)となって、戦場を駆け巡る~  作者: 如月文人
第六十一章 箱館戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

434/436

第四百三十話 箱館湾海戦


---三人称視点---



「大砲の照準は合っているか! 武器・弾薬は十分か!

 兵士たちの配置に問題はないか!」


 聖の指示は、具体的かつ厳格だった。

 兵士達は、聖の鬼気迫る表情に、否応なく緊張感を高められた。


「いいか、お前ら! ここが死に場所だと思え!

 一歩たりとも退くなよ! 一人でも多く敵を道連れにするんだ!」


 聖の怒号が、各陣地に響き渡る。


 また伊庭八郎率いる遊撃隊は、その機動力を活かし、

 敵の上陸地点を予測し、奇襲をかける準備を進めていた。

 彼等は箱館周辺の海岸線に分散し、

 息を潜めて敵の接近を静かに待っていた。


「勝太郎、敵は何処から上陸してくると思う?」


 伊庭は、双眼鏡で沖合の敵艦隊を観察しながら、

 人見勝太郎にそう問うた。


「……兵力の多い主力部隊は、箱館港に近い砂浜を狙ってくる筈です。

 しかし陽動として、別の地点にも上陸してくる可能性があります。

 我々は、その陽動部隊を叩き、敵の計画を混乱させるべきでしょう」


 人見は冷静にそう分析した。


「嗚呼、俺もそう思うよ。ならば我々は、

 函館山の麓あたりに網を張ろう。あそこなら、

 敵の目にもつきにくいし、

 いざとなれば山中に退くこともできるからな」


 伊庭は、素早く決断した。


「皆、行くぞ! 俺たちの腕の見せ所だ!」


 遊撃隊は、馬を駆り、函館山の麓へと向かった。

 彼らの顔には、緊張と共に、

 どこか高揚したような表情も浮かんでいた。


 これから始まるであろう激しい戦いに、

 彼らは自らの存在意義と存在証明を賭けようとしていた。



 六月二十五日早朝。

 箱館湾の沖合に、新政府軍の大艦隊がその全容を現した。


 黒煙を上げる蒸気船、帆を張った輸送船、

 そしてその中心に鎮座する甲鉄艦。

 その数は、共和国海軍の艦艇を遥かに凌駕していた。


「……ついに来たな」


 開陽丸の艦橋で、荒井郁之助が呟いた。


「全艦、突撃! 敵の甲鉄艦は無視しろ!

 狙うは輸送船団だ! 敵の上陸を何としても阻止するぞ!」


 防御力に優れた甲鉄艦との直接対決を避け、

 兵士を乗せた輸送船を沈めることで、

 敵の陸上戦力を削ぐという狙いが荒井にはあった。


「回天、蟠竜、続け!」


 共和国艦隊の快速艦、

 回天丸と蟠竜丸が、先陣を切って敵艦隊へと特攻する。


「撃ち方、始め!」


 回天丸の艦長、甲賀源吾こうが げんごの号令で、

 搭載された大砲が一斉に火を噴いた。

 砲弾は、敵輸送船の近くの海に着弾し、大きな水柱を上げた。


「敵艦、接近! 直ちに迎撃せよ!」


 新政府軍の護衛艦艇も、すぐさま応戦を開始した。

 春日丸や丁卯丸が、回天丸、蟠竜丸に向けて砲撃を加える。


 海上に、轟音が響き渡り、硝煙が立ち込める。

 こうして箱館湾海戦の火蓋が切られた。


---------


 回天丸と蟠竜丸は、その速さを活かして敵弾を避けながら、

 巧みに輸送船団へと迫っていく。

 だが新政府軍の護衛艦も数で勝り、執拗な追撃を加えてきた。


「くっ、なかなかしつこいな!」


 蟠竜丸の艦長、松岡磐吉まつおか ばんきちは、舌打ちをする。

 彼の操る蟠竜丸は、小型ながら機動力に優れ、

 敵艦の間を軽快に進んでいく。


 その時、ついに甲鉄艦「東艦」が動き出した。

 低い船体から黒煙を上げ、ゆっくりと、

 それでいて圧倒的な存在感を放ちながら、共和国艦隊へと接近してくる。


「ついにおいでなさったか、化け物め……」


 開陽丸の荒井は、双眼鏡でその姿を捉えた。


「怯むな! 開陽の力を見せてやれ!

 照準を甲鉄艦に合わせろ! 撃て! 撃つんだ!」


 開陽丸の誇るクルップ砲が、甲鉄艦に向けて砲撃された。

 だが放たれた砲弾は、甲鉄艦の厚い装甲に弾き返される。

 まるで効果がないようだ。


「何だとっ!? まるで効かないのか!?」


 荒井は思わず愕然とした。

 すると今度は甲鉄艦の前部砲塔が旋回し、開陽丸に向けて火を噴いた。


「ドオォォォンッ!」


 今までとは比較にならない、轟音が周囲に鳴り響いた。

 放たれた巨大な砲弾が、開陽丸の船体側面に命中した。


「う、うわあああっ!」


 凄まじい衝撃と共に、木製の船体が激しく軋きしみ、

 その破片が周囲に飛び散る。

 数名の水兵が、爆風で吹き飛ばされた。


「被害状況を報告します!」


「船体側面が大破! 浸水してます!」


「駄目ですっ! し、浸水が止まりません!」


 開陽丸は、甲鉄艦のたった一撃で、

 深刻なダメージを負ってしまった。


「くっ、これが、甲鉄艦の力なのか……」


 荒井は、唇を噛み締めた。


「回天、蟠竜! 開陽を援護せよ!」


 荒井は、他の艦艇にも指示を出した。

 だが回天丸も蟠竜丸も、敵護衛艦との戦闘で手一杯だった。


 新政府軍は、この隙を逃さなかった。

 黒田清隆の指揮の下、輸送船団は護衛艦に守られながら、

 箱館港近くの砂浜へと次々と接近し、

 上陸用舟艇ボートを下ろし始めた。


「敵が上阪山じょうはんやま付近に上陸を開始しました!」


 五稜郭の物見櫓ものみやぐらから、報告が入る。


「よし、ついに来たか!」


 報告を聞くなり、聖歳三が叫んだ。


「弁天台場、千代ヶ岱、砲撃開始!

 敵の上陸部隊を一気に叩け!」


 海岸線に配置された共和国軍の砲台が、ここで一斉に火を噴いた。

 砲弾は、砂浜に殺到する上陸用舟艇や、

 上陸したばかりの新政府軍の兵士達の頭上に降り注いだ。


「う、うわあっ!」


「ふ、伏せろ! 伏せるんだ!」


 砂浜は、たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

 砲弾の炸裂音、兵士達の悲鳴、そして指揮官の怒声が入り乱れる。


「怯むな! 怯むんじゃない!前へ進め!

 兎に角、前へ進め! そして敵の砲台を沈黙させろ!」


 山田顕義は、自ら先頭に立って兵士達を鼓舞し、

 砂浜を駆け上がっていく。彼の率いる長州兵たちは、

 最新式の銃を構え、応戦しながら前進する。


 陸と海、その双方で激しい戦闘が始まった。

 蝦夷共和国の命運を賭けた、

 最後の戦いが、ついに幕が開けた。


 圧倒的な物量と火力で迫る新政府軍に対し、

 榎田、聖、伊庭、そして共和国の兵士達は、

 どのようにして立ち向かうのか。


 北の大地は、今、赤い血と硝煙に染まろうとしていた。


次回の更新は2026年5月9日(土)の予定です。


ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、

お気に召したらポチっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

宜しければこちらの作品も読んでください!

黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ