見えないということ
「………。」
敵の反応が近づいてくる、これほどの探知魔法を使えるのなら魔力も相当消せるはずだが、まるで隠す気が見えない。
「よほど自信があるという事か………。」
俺はニヤリと笑う。
「面白い!!」
ワープ、ワープ、目まぐるしく景色が変わるのをスリューシャは黙ってみている。
やがてその光景は森の風景に変わって、最後に洞穴の入り口にと変ずる。
「ここか。」
スリューシャは眉をひそめる。
場所が分からない。
何故かというと、アジト全体に相手の魔力が撒き散らされ、それに紛れてどこにいるのか分からないのだ。
「このような手が存在するのか………暗殺者も考えるの。」
とはいえ、このアジトのどこかにいるのは間違いがないのだ、スリューシャは中に足を踏み入れる。
中には様々な道具が放り投げられているのが見える、ナイフやら工具やら、服やら、箱がところ狭しと並べられ、脆そうなところは補強すらされている、どうやら連中はかなり骨をおって中を整備したらしい。
「フム………。」
スリューシャがそんな散らばる物の中からハンマーを一つ手にとって眺めていた。
次の瞬間。
「………ここまで近づかれても、気づけなかったか。」
「死ねぇ………!!!」
後ろに男が突如現れ、スリューシャの首に鎖が巻き付く、しかし、スリューシャは微動だにする事がない。
「無駄じゃよ。」
「なにっ………!!」
「首を絞められた程度で死ぬ玉に見えるか?」
スリューシャの体は全身を義体に改造されている、そのため呼吸を必要としないため首を絞められても死ぬことはない。
それが痩せ我慢ではないことを察した男が息を呑んだのが分かった。
「しかし、お前はずいぶんと背が小さいんじゃの。」
目の前に立っている男の背は、ドワーフのように低い、やはり体が小さいほうが暗殺に向いているのだろうか。
そうスリューシャが考えていると鎖が緩む、相手が鎖を離したのだ。
暗闇に消える暗殺者に対し火炎を浴びせるスリューシャだが、明るくなっても姿が見えることは無い、透明化魔法である。
「ふむ………そこかっ!!」
スリューシャは間一髪で鎖をひねって避けるが、暗殺者は再び姿を消す。
ただ魔力を消し、姿を消すだけでなく、ワープ魔法なども駆使してたくみに逃げ回る暗殺者を捉えることはスリューシャとて困難極まる。
躱して、躱して、躱し続ける、その間スリューシャは反撃をしない、姿がろくに見えなければ彼女とてどうしようもないからだ。
スリューシャはそうした駆け引きを上級シールドを全方位に展開することで一旦中断する。
「困る人なんていないからの、派手にやらせてもらうぞい!!『サン・フレア』!!」
刹那、アジトは吹き飛ぶ。
「なんだあれ………。」
「師匠………サン・フレアをやすやすと使わないでくださいよっ!!」
俺とリューゼは現場につけば、とてつもないクレーターと瓦礫が出迎えてくれる。
俺が前に一歩踏み出すと、どこからともなく鎖が飛んできて、かろうじて体をひねるも肌を僅かにかすっていく。
「気をつけろ、やつはまだいるぞ。」
「なんだと………?」
「そして、逃げる気もないようじゃ。」
クレーターの終わりにある林を俺はにらみつける、あるいは瓦礫の中か。
「やつの魔力が周囲に散らされている今、私とて姿を見ることはかなわん、気をつけろ。」
俺達は周囲を必死に警戒する。
なんとしても、やつの姿を捉えることが叶わなければ勝ち目なんて一つもないだろう。
俺は周囲の確認をする中、なにか漏れているところがないか必死に考える。
あそこの瓦礫、ここの瓦礫、あそこの木々………。
そのなかで全く警戒していないところを思いつく、だが、もう遅い。
「上からっ!!?」
俺は剣でガードしようとするがその前に敵の鎖が顔面を直撃しニ、三歩衝撃で後ずさる。
着地したやつの攻撃はすうどく俺に襲いかかってくる。
だが、それははんばやけくそに構築したシールドで受け止めることに成功する。
「くっ………!!」
「逃がすかっ!!」
リューゼは魔法を展開する、石の鎖が地面から突き出てきて、やつを捕まえようと伸びていく。
右、左、上、下、四方向から迫りくる鎖に大してやつは動こうとはしない。
ついに掴むかというその時、まるで予測でもしていたような動きでそれらの合間を器用にぬってやつはかわした。
「なにっ!!」
やつはそのまま林の中に隠れて姿が消える。
その瞬間、反対側から鎖がスリューシャに掴みかからんと飛んでいく。
それをさっとかわした瞬間に、今度は左右から2本の鎖が飛んでくる。
「こなくそっ!!」
「当たるかっ!!」
リューゼと俺は器用にそれを躱すが、今度は3本飛んでくる、避ければ4本目が。
「くっ!!」
まず捕まったのは俺だ、俺の腕に鎖が絡みついて、止まった瞬間に足にも。
リューゼさんはまだ捕まってはいないが本数は無限に増え続け時間の問題だ。
今や鎖は四方八方から伸びてきて、まるでスパイ映画のワンシーン、無数のレーザーを避けるかのように自分達は躱す。
「ぐあっ!!?」
「リューゼさんっ!!」
リューゼさんも捕まり、あとに残っているのはスリューシャさんのみだ。
「むうっ、もう少し粘らんか!!」
そういうスリューシャさんは体をありえない向きにひねってかわしている、やっぱりあの人は人間じゃない。
突然、鎖の攻撃がやんで、スリューシャも足を止める、奥から静かに歩み出てきたのはあの暗殺者だ。
「よぉ、クソ野郎、さっきの火球は痛かったぞ、もう少しで死んでしまうところだった。」
「………。」
「今回ばかりはキレちまったぜ、もう逃げも隠れもしない、真正面から叩き潰してやるよ!!」




