第九十四話 終焉の魔物VS大切断&流星
こんな戦いは初めてだった。いや、これは戦いではない。一方的な蹂躙。逃げる事は出来ず、スレスレで死を回避する。
エルが注意を引き、桜は攻撃をとめる。しかし、もう持たないだろう。一撃一撃が強力で、余波でさえ普通の人が受ければ死ぬ。そんな中をエルと桜は舞っていた。
俺も爆虫で攻撃を仕掛けるが、まるで効いていない。ニャルカは今回は役に立たないだろうが、なにか覚悟を決めたような瞳をしていた。
「エル、桜、大丈夫か?」
「はぁはぁ。正直もう無理そう」
「同じく」
返事をする余裕すらないような戦い。エルと桜はすでにボロボロ。俺も攻撃はするが、まったく効いていない。
――マモン、なにか手は?
――ないな。今の私は手が貸せない。
そういえばマモンは出来ないと言っていたな。あれは無人島に居たときからだっけ? こんな会話をしている間にも刻一刻と終わりは迫ってくる。
……あれを使おう。
「サモン『爆虫(転送型)』×3」
俺が召喚したのはマザースライムとの戦いによって、ユニークスキルのLVが上がった事で手に入った新しい爆虫。転送型。これは視界に収まる好きな場所に移動させる事が出来る爆虫。召喚魔力150は食うからあまり出したくはない。
「やれ」
小型と同じ大きさの転送型の爆虫は消える。次の瞬間、龍の頭に張り付いていた。
「爆発」
転送型は爆発するが、少し傷がついただけで、まるで効いていない。
「まじか」
「ガア」
龍は欠伸をするように鳴くと。
「ドガアアアアアアアアアアアアアア!!」
大声を上げた。
「え?」
身が竦む。動かせない。あの龍の声を聞くと、体が動かせなくなった。桜も、エルも、ニャルカも、動けない。
「ドガア!」
龍は尻尾をしならせ、桜の胴に打ちつけた。悲鳴すら上げられずに、桜は吹き飛ぶ。大きな木に叩き付けられるが、桜は生きている。そして、龍は尻尾をしならせ、エルに目標を定めた。
「エル!?」
桜ならあの一撃を耐えられるだろう。しかし、エルでは耐えられない。最悪、死ぬ。
「え!?」
エルは動けなかった。まだ体の支配を奪われたような感覚が襲う。龍は尻尾をエルに叩きつけようとして――別の方向から木々をなぎ倒してやってきた斬撃によって尻尾を斬られた。
「ドギャアアアアアア!」
龍は尻尾を斬られた痛みによって、悶絶する。さらに龍は、上から降ってきた光を胴に打ちつけられる。
「わっちゃっちゃ。大丈夫か?」
上から光をまとって降りてきたのは猫のきぐるみを着たエニシダ。帝国の近衛騎士団長、エニシダだった。
俺がエニシダの事を思い出したのは武闘大会が終わった後だった。ふととある張り紙を見て、思い出した。あんなのが騎士団長なんてこの国は大丈夫かと思ったが、ちゃんと強かったようだ。
「きぐ……エニシダ」
「よお、久しぶりだな。バベルっていったか?」
今日のエニシダはお腹をすかして倒れていたエニシダじゃない。覚醒モード(今命名)のエニシダだ。
「あはは。危機一髪だったね」
俺の後ろにいつの間にか居たのは、ショタ仮面ことエクル。自分の背丈を越える大剣を軽々と持っている。
「わっちゃっちゃ。質問は後だ。エクル。やるぞー」
「うん」
それは芸術的な戦いだった。龍はエニシダに翻弄され、エクルに斬り刻まれる。
「強いね」
「そうだな。本気でやらんとマズイ。だけど、おりゃ達にかかればぜんぜんいける。必殺スキル『流星群』」
エニシダが必殺スキルを発動させると、龍の上に大量の光が降り注ぐ。
「ほいほい」
エクルは背丈を越える大剣を軽々と扱い、龍を切り刻む。
「ガアアア!」
怒りに満ちた龍も攻撃を仕掛けるが、エニシダに当てる事は出来ない。エクルに標的をあわせるが。
「ほいしゃー」
エニシダがそれを許さない。空から降ってくる光が龍の胴を破壊する。
「ラストスパートだ」
「オッケー」
エクルは剣を構える。
「必殺スキル『大切断』」
エクルが剣を振り下ろすと、斬撃が現れ、龍に向かっていく。それは回避する間すら与えず、龍を真っ二つにした。
「すごい」
凄かった。ウルルさんの戦闘を始めて見たときと同じ感動。二人は凄かった。今だけは、きぐるみ馬鹿も、輝いていた。
「強かったけど、なんか全然本気じゃねえきがする。まだ力を隠していたような」
「んー。そうかな? そうかもね」
あれで力を隠しているだと。
「あ、ありがとうございました」
エルは放心状態から立ち直り、お礼を言う。
「俺からも、ありがとうございました」
「わっちゃっちゃ。ぜんぜんいいって事よ」
「そうそう。それより、あそこで死に掛けてるあの子はいいの?」
「は! 桜!」
桜に駆け寄る。桜は生きてはいるが、気絶しているようだ。
「んー。こりゃ早く医者にみせたほうがいいぞ」
きぐるみ馬鹿が桜を見てそう言う。
「うん。僕も同意見。早く見せないと最悪死ぬかも」
「なんだってー!?」
「薬を呼んで医者を飲ませないと」
「落ち着きな。エニシダ、運べる?」
「もちろん。わりゃが連れて行こう」
エニシダは桜を光で包んで抱きかかえる。
「わっちゃっちゃ。数秒で着くと思うから、おみゃえらは後からゆっくりきな」
きぐるみ馬鹿はそう言って、飛んでいった。
「これで大丈夫でしょ。僕の知り合いの回復魔法士に見てもらえると思うよ」
「いろいろとありがとうございます」
「にゃっはっは。愚民の癖にやるではないか」
ニャルカが失礼すぎる事を言ったので、頭を叩く。あとでシメよう。
「あはは。いいよ。ずっと前から変な気配がしていたし、これは好奇心からの行動だからね」
「まあ。仲間を助けてくれて、ありがとうにゃ。……我がこう言う事はないから、ありがたく思うにゃ」
「うん。本当に気にしないで。だけど、倒した龍はもらっていくよ」
「どうぞどうぞ」
倒したのはエクルだから、それは正当な権利だ。
――強欲なお前が譲るか。
――俺は返しきれない恩をもらったからな。これぐらい安いもんだ。
エクルが龍に触れると、龍の死骸が消える。
「もう大丈夫そうだから、行くね」
「はい」
「いろいろとありがとうございました」
エクルはちらりとエルを見た後、俺達の前から消えた。
「いろいろ大変だったな」
「うん。だけど、依頼はどうなるの?」
「まあ、成功だろうな。あれはSランクはあっただろうし、討伐できなくても仕方ない。ギルドには起こった事を正直に話せばいい」
「にゃー。行くにゃー」
「はいはい」
俺はいまの絶望的な戦いを思い返し、帝都へ帰還した。
もう少し戦闘描写を書きたかったけど、自分の文章力では不可能だった。勉強してきます。




