第九十五話 公爵家とお爺ちゃん
激戦を終えた帰り道。俺達は帝都の門に並んでいた。桜はきぐるみに病院に運んでもらったので、俺の他にはエルとニャルカだけだ。
「おっ。あなたがバベル様ですね」
帝都の門でギルドカードを門番の見せると、門番はそう言った。
「はあ」
「そうですか、少しお話があるのですが、詰所まで来ていただけますか?」
門番さんは俺の顔を見てそう言う。
「ここでじゃ駄目ですか?」
「人目があるので」
門番はエルや、他に並んでいる人を見て言う。
……特になにかやった覚えはないし、なんだろう。
――終にバベルを捕まえにきたとか。
――それはないだろ。何かした覚えは本当にないし、証拠を残すへまはせんよ。
――……そうか。
マモンがもう駄目だこいつというような声をだす。
俺は少し考えて。
「分かりました」
詰所まで行く事にした。
「ギルドに報告しておいてくれ」
「うん。分かった。気をつけてね。夜逃げの準備もしておくから」
「あのー。私の前でどうどうとそういう話をしないでください」
「「…………」」
◇
「で、話というのは?」
詰所に入ると、椅子をすすめられ、安いお茶を出される。
――言い方言い方。
マモンがボソっと呟くが、気にせずいこう。
「ええ。あの場では言えませんでしたが、実は、あなたを呼ぶように言われているのです」
「俺を?」
誰かに呼び出されるような事したかな? ギルドはないし、他にも思い当たる節はない。
「バルスター家。この国の公爵家から」
「え!?」
何を言っている。この国の公爵家から? なぜだ。
――バレたか?
――ばれるようなへまはしていないはず。
――闘技大会。
――しかし、とくになにもやっていないはず。
――お前の親族ならバレてもおかしくはない。
――うーむ。
どれでばれた? 魔法か? 魔力か?
「なぜ俺が?」
「そこまでは聞いていません」
俺がなぜ呼ばれたか聞いていると、詰所に男が入ってくる。
「しつれいします。今バベル様がここに居ると公爵様にメッセージを送ると、迎えの馬車をよこすと」
「え?」
「分かりました、お出迎えの準備を、整えてください」
じょじょに外堀が埋められていく。これは夜逃げも視野にいれないとな。
――お前にバベル様は似合わないな。
――うるへー。
マモンはまったく関係ない事を気にしていた。
待つ事数十分。足が八本ある馬に引かれてやってきた馬車は豪華絢爛というしかない。もう、なんか、凄い。
――語彙力不足。
マモンがボソっと呟く。
なんというか、凄く場違いだ。ウルルさんと一緒にご飯食べに行ったとき以来だろう。
「あなた様がバベル様ですね。お迎えに上がりました。私は執事のグランベルです」
馬車と一緒にやってきたのは見るからにベテランな老執事。俺がこんな所に居ていいのかな?
「どうぞこちらへ」
馬車の中は、見た目の何倍も広い。全体から魔力を感じるし、魔法のポーチを応用して、異空間でも創り出したのか?
良く分からないうちに、馬車に乗せられて帝都を進む。
「えーと。グランベルさん。俺は一体なぜ呼ばれたので?」
「それについては、屋敷の方で当主からお話するとの事です」
うむむ。ここで逃げるにはまだ早いし、敵地に入るのも危ない。いざとなったら屋敷ごと爆破して逃げよう。
――危険思考だぞー。まだなにかされると決まった訳じゃないし、ドンと構えろ。
――うむむ。
そうこうしている内に貴族街に入り、あっという間にとてつもなくでかい屋敷に着く。あれよあれよの間に挨拶だのなんだのされ、一つの大きな部屋に放り込まれた。
「あなたがバベルさんですね」
部屋の中にはソファーが二つあり、その間に机があるオーソドックスな談話室。片方のソファーに、金色の髪に、翠の目をした女の人が座っていた。
「はい」
「ああ。ごめんなさいね。そちらに座って」
「どうも」
すすめられた通り、片方のソファーに座る。
「紅茶でも飲む?」
「お気遣いなく」
え? 何が起こっている。あっという間だったから良く分からないぞ。ひとまず整理しよう。
俺は門番さんに伝言を預かっているといわれて詰所に連衡され、公爵家に来るように言われ、なんか凄い馬車が来て連れて行かれ、でかい屋敷の談話室にぶち込まれた。そして今は女の人に紅茶勧められていると。……良く分からない。
「えーと。俺はなぜ連れてこられたんですか?」
「…………」
女の人は紅茶を一口飲む。
「あなたの母親の名前はイリーナではありませんか?」
「!?」
ば、ばれてる~。
――どうするのだ?
――よし、爆発しよう。
――早まるな!
「……その様子じゃ図星のようですね」
女の人はコロコロと笑う。
「そして、もしかして父親の名前はギアル」
これ完璧にばれてますやん。
「そ、それであなたは?」
「ああ。私としたことが自己紹介をしていませんでしたね。私の名前はイリス=バルスター。バルスター家の現当主で、イリーナの姉です」
女当主とは珍しい。
――バベルの母の姉か?
――そうみたいだな。しかし、同姓同名の別人である可能性がまだ……。
――魔力を見れて、母と父の名を当てられる。これはもう確定。バベルはこの家の血筋の者だ!
――うぬぬ
俺をどうする気なんだこの人は。
「それで、なにを言いたいんでしょうか?」
「……あなたは、バルスター家の血筋の者だと言いたいのです」
「人違いじゃないでしょうか?」
「魔力、見えてるのでしょう」
はい、見えてます。
「いろいろ証拠を言っていきましょう。まず、その目です」
「目?」
「バルスター家の者はだいだい翠色の目をしているのです」
「そ、それだけなら他にもいますよね」
「ええ。では、他の証拠も」
ま、まだあるの~。
「闘技大会決勝で、あなたが放った風魔法。詠唱していましたが、途中まで無詠唱で魔法を使っていましたね」
「み、見間違いでは?」
「私は歴代でも随一の目を持っています。見間違えるはずがありません。そして、その時みた魔力の流れが、イリーナそっくり」
「…………」
魔力の流れ。体内で流れる魔力はそれぞれ個性があるが、特徴として親に似る事が多い。俺の場合母さんとかなり似ている。
「そして、あなたが発動させた結界」
「これですか?」
俺の腕に付いている腕輪。確かにこれによって、あの結界を発動させたが、これぐらいは凄い魔道具くらいだろう。
「その腕輪の名前は守護の腕輪。バルスター家の血筋の者にしか使えない魔道具です」
「な、なに~!?」
「守護の腕輪の効果は結界を張るというもの。代々我が家の魔法使いはそれによって外からの攻撃を防ぎ、一方的に魔法を当てていたそうです。その腕輪はバルスター家にしか使えず。バルスター家の者だという証として使われます。今は見るも無残な姿になっていますが」
イリスさんが俺の腕輪を見ながら言う。そして、俺の頭の中で、バラバラだったピースが一つになった。
これは予想だが、父さんと母さんは駆け落ちをして、都市サフランまで行った。そこで家からの追っ手がやってきたので、近くに居たあの露店のおっちゃんに匿ってもらう。そしてお礼として腕輪を譲ったと。
「はあ。確かに、俺は魔力を見れますし、腕輪も使える。もう、反論の余地がありませんね」
「やはり。あなたがイリーナの子供」
「母さんの名前はイリーナだし、父さんの名前はギアルです」
俺がこの家の血筋の者だとばれたか。しかし、俺を呼んだ目的はなんだ?
「なぜ俺を呼んだんですか?」
「……父、ユリウス=バルスターに会っていただきたい」
「へ!?」
ユリウスといえば帝国でも有名な魔法使いであり、公爵家の前当主だと聞いたことがある。
「なぜですか?」
「父は、病に伏せています。帝国最高峰の回復魔法士が匙を投げたほどの病気で、もう助からないそうです」
世界でも有数の魔法使いでさえ病には勝てないのか。
「父は、死ぬ前に一度でいいからイリーナに会いたいとおっしゃっていました」
「だけど、母さんはいませんよ?」
「ええ。ですので、イリーナの息子であるあなたに会っていただきたい」
俺は母さんの代わりか。……べつに会うだけならいいかな?
「……いいですよ」
「ありがとうございます」
そのユリウスさん。俺の爺さんとはさっそく会うことになった。
ユリウスさんはこの屋敷には居ないので、ユリウスさんが療養中の別邸に行く事になる。
馬車に運ばれて、貴族街の拓けた土地にある一軒の豪邸に着く。別邸とは思えないほどでかい。いくらかけてこれを造ったのだろうか。
「こっちです」
イリスさん直々に案内され、別邸に入っていく。護衛している騎士の数は少ないから、ユリウスさんの情報は伏せられているのだろう。
イリスさんに案内されて、屋敷を進む。しばらく進むと、大きな扉の前に来た。
「ここですよ」
扉を開けると、白く、広い部屋だった。清潔で、無駄なものがない。真ん中にポツン在るベッドがなんか違和感。
「少し待っていてくださいね」
イリスさんはベッドで寝ている人物になにやら話すと、こちらに戻ってくる。
「では」
それだけ言って護衛の騎士と一緒に部屋を出て行った。
――なあ、俺はなにをすればいい?
――知るか。あの寝ている人物に話しかけてみたらどうだ?
――だな。
俺はベッドで寝ている人物に近づき、そばに有った椅子に座る。ベッドで寝ている人は、真っ白な肌をしており、翠色の目に金色の髪をした男性だ。この人がユリウスさんなのだろうが、メチャクチャ若く見える。見た目的に30代後半ほど。さぞモテた事だろう。
「えーと。こんにちは」
ユリウスさんは目の焦点を俺に合わせる。
「どうも、バベルです」
「……君がイリーナの息子かい?」
「そうです」
ユリウスさんはの声は小さく、すでにもう手遅れだという事が分かる。
「……イリーナは元気なのか?」
「はい」
「……そうか。君の父親は?」
「ギアルっていいます」
「な!?」
ユリウスさんは父さんの名前を聞くと声を上げ、怒気を露にする。
「あの薄汚いガキが!?」
「は!?」
なに言ってんだこのジジイ。
――もっとオブラートに包み込め。ボケてるんだ。
――そうか。じゃあ仕方ない。
「イリーナは今どこに居る」
「え?」
「連れ戻すのだ! あんな小僧と一緒に居たら不幸になる」
よし、殺ろう。
――早まるな。
っっそうだ。殺ったら捕まる。
「それが目的なら教えません。母さんは不幸じゃなさそうだったし、連れ戻す理由がない」
父さんと母さんはあの村が好きだと言っていた。別に不幸じゃなかったし、家からでなかったけどいつも笑っていた。
「教えろ。スラム育ちのガキにイリーナを幸せにする事は出来ない!」
「それは言いすぎです」
「言いすぎなもんか。あいつなんてこの世に居なければいいのに」
その言葉で、俺の中の何かが切れた。
「……いいかげんにしろ。自分の中で物語を完結させてもなにもない。父さんがスラム育ちだろうが、関係ないだろ!」
「……!」
――珍しいな。お前が感情的になって怒るとは。この前、桜が金を落とした時以来か。
――そうだな。
「……こんな所で寝てばっかいるから馬鹿な事ばっかり考える。たまには外に出てみたらどうですか?」
俺はそう言って立ち上がる。
「……イリーナは、幸せそうだったのか?」
扉の前まで行くと、後ろからユリウスさんの声が聞こえる。
「……俺にはそんな事は分からない。まあ、いつも笑っていた事はたしかです」
俺はそれだけ言って部屋を出た。
番外編とか込みで、そろそろ100話。




