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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
第六章 エンシャル帝国編
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第六十九話 暗殺者

 草木も眠る丑三つ時。人通りが少なくなった裏通りを黒ずくめの女が歩いていた。ゆっくりと。それでいて確実に目的地に向かっている。

 数十分後。女は目的地にたどり着いた。そこは、バベル達が泊まっている宿……。


「標的の部屋は二階の右端……」


 女はそう呟いて、辺りに人が居ない事を確認すると、バベル達が眠っている部屋の窓に飛びついた。下の小さな屋根に足を付け、窓からバベル達を覗く。


「……ターゲットに間違い無い」


 高価な写真を撮る魔道具で撮られたバベル達の顔写真を見て、女は呟く。

 女の職業を一言で表すなら、暗殺者だろう。女はバベル達によってさんざんな目に遭ったドックス公爵に依頼されてバベル達を追ってきたのだ。


「たくっ依頼主もあれっぽっちの報酬でわたしに依頼するとはな」


 女は裏社会で有名な暗殺グループに属しているから、プライドがある。ほんの少しの報酬で、威張り散らされ、上から目線で依頼されたら文句の一つも言いたくなる。


「さっさと終わらせるか」


 女は中に入る為に窓枠をはずそうとする。普通ならこのまま静かに窓枠を外し、そっとナイフを首にさせばすべて終わっただろう。普通ならば(・・・・・)


「にゃー。バベル-。外ににゃんかいる」


 部屋の中からそのような声が聞こえる。そう、果てなき夢には規格外かアホしか居ないため、普通に暗殺する事は出来ないだろう。


「野良猫か? 取り合えず追い払おう」


 その声が聞こえると同時に女はその場を離れようとする。しかし、遅かった。窓が開けられ、そこから出てきたのは一匹の手榴弾型の爆虫。『爆破調整』で威力を押さえ『サイレント』で音を消したその爆虫は女に当たり、音もなく爆発した。

 バベルは爆虫を投げた後、窓を閉めて眠りについた。残された女暗殺者といえば……。


「ふぇ。ふぇ」


 真っ黒になって屋根の上にうずくまり、すすり泣いていた。


「うわーん! 絶対にゆるないからー!」


 そんな捨て台詞を吐いて夜の街を走り去った。



 ◇



 ――翌朝。


 女は裏路地を歩く桜を数十メートルほど離れた空き家の二階部屋から見つめていた。


「果てなき夢ゆるすまじ」


 女はそう呟き、桜を見つめる。そう、桜が進む方向には噛まれると苦しみながら死んでいく毒蛇を仕掛けてあるのだ。もちろん仲間から借りた調教済みの毒蛇だから、確実に桜にかみつく。


(さあ。さっさと殺せ-!)


 女が心の中でそう叫ぶと同時に物陰から毒蛇が出現し、音も気配も無く桜に飛びかかる。


「わあ!」


 町中だからと油断していた桜の足首に毒蛇は噛みつく。普通ならばここで体中に毒が回り、苦しみ出すだろう。普通ならば(・・・・・)


「痛いでござるな。気配が無い蛇なんて知らないでござる」


 桜はそう言って、足首を噛んでいる毒蛇を捕まえ、引っこ抜く。そのままちぎって、裏路地の隅に放り投げた。


「せっしゃ毒効かないんでござるよ」


 桜はそのまま何事も無かったかの様に裏路地を歩き出した。


(えー!!)


 それに驚くのはもちろん女暗殺者。いままでの経験上、大体これで終わったからだ。


「くっ。ここまで手こずらせるとは」


 女はそう呟いて、弓を取り出し毒矢をつがえる。

 よく狙いを合わせ、ほぼ当たるか擦る所まで来た桜に向かって、毒矢を解き放った。


 もし桜が普通の冒険者ならここで終わっていただろう。桜は……。


(あ! 銅貨が落ちてるでござる)


 落ちている銅貨を拾うためしゃがみ、その頭上を毒矢が通り過ぎていった。


(儲かったでござる)


 桜は殺されようとしたことも分からず、ルンルンと裏路地を出て行った。桜の暗殺は銅貨一枚によって終わった。

 一方女暗殺者はというと……。


「……うえーん! また失敗した-!」


 度重なるアホみたいな回避方法で暗殺を失敗した女は、プライドをズタズタにされて、泣きながら部屋でふて寝した。



 ◇



 ――昼。


 なんとかメンタルを回復させた女は、大通りで食べ歩きしながら情報収集をしているエルを遠くから魔道具で見つめていた。


「果てなき夢まじゆるさん」


 そう言いつつ、投与エンチャントされた弓に代え、姿が見えず、物体に当たると消滅する特殊な矢を番える。


「ふっふっふ。この弓ならこの距離でも頭部を粉砕出来る」


 エルは人通りが少ない裏通りに足を運ぶ。それを好機と見た女は、エルに向けて弓を構える。


「これで終わり!」


 歩く速度。風向き。等が計算されて、放たれた矢はエルの頭部へと向かう。が、そこに居たエルはいつの間にか居なくなっていた。


「え?」


 女は困惑の声を上げ、エルが居た場所の周囲を見渡す。すると、その数メートル先に倒れそうになっていたお年寄りを支えるエルの姿を見つけた。


「大丈夫ですか?」

「ああ。ありがとな」

「家まで送りますよ?」

「いや、ええよ。迷惑は掛けられんし、若いもんにはまだ負けないよ」

「そうですか」

「ああ。ありがとさん」


 そう会話している風景を見ながら唖然とする女。


「は! いけないいけない。動きが止まっている今がチャンス!」


 女はもう一本矢を番える。


「この矢高いんだけどなー」


 そう呟いて、エルの向かって矢を解き放った。しかし……。


(あ! 銀貨見つけた)


 桜と全く同じ回避方法で高価な矢は回避され、地面に当たった矢は消滅した。


「な!」


 女は知らない。バベルのせいでメンバー全員にお金を見つけたら拾ってしまうクセがついた事を……。


「う、う、うわーん。ば、化けて出てやる-!」


 女はそう叫んで自分の泊まっている宿に向かって走った。その叫びを聞いたのは一匹の野良猫だけだった。


 バベル達は暗殺されてかけている事にも気づかず、暗殺者を退けたのだった。

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