第六十七話 エンシャル帝国と王様ゲーム
でかぽんに乗って草原を進んでいる。俺は一息ついた所で、エル達にさっきの話を聞いていた。
「それで、さっきは何があったんだ?」
「んー。なんか凄い雄叫びが聞こえた?」
「で、ござるな。あれは黒獅子とは比べものにならない怒気を感じたでござる」
「にゃ! ヒゲがビンビンに震えたにゃ」
なにかヤバイ魔物の雄叫びでも聞いたのかな? もしかしたら破壊獅子……いや、ないか。二つ名持ちを怒らせる様な奴が居るとは思えない。
「アレはやばかったにゃ。二つ名持ちなんて関わるものじゃにゃい」
それは同意。まあ、俺達はもう関わってしまったからな。主に蛙とか蛙とか蛙とか……。
「あ! 見えて来たでござる。あれは、国境」
桜の視線の先には、うっすらと壁が見える。
「着いたか。エンシャル帝国に……」
◇
数時間後。あれから特に何事もなくエンシャル帝国に入国する事が出来た。門番さんが俺達のギルドカードを見て『脱獄王……』と呟いたのはきっと気のせい。
「さて、エンシャル帝国に入った訳だが、まずはどうする?」
「一応決めてあるよ。ボク達はまず、冒険者ギルドでノルマ分の依頼を達成しなくてはならない。今が多分九の月25日。あと5日猶予がある」
そうだな。5日の内にCランクの依頼を一つ達成しなくてはならない。
「だからボク達はギルドがある街。ここから歩いて二日の所に在る“サフラン”に行くよ」
「「「おー」」」
俺達は、エンシャル帝国の都市サフランへの街道を進んだ。
◇
「飽きたにゃ!」
歩く事数時間。街道を歩いていると、俺の頭に乗っているニャルカがそう叫ぶ。
「なにがだ?」
「この永遠と続くような街道がにゃ。魔物一匹出てこないし、さっき馬車が一台通っただけでこんなつまらない旅があるかにゃ?」
「そのつまらない旅路で面白い事を見つけるのが、本当の旅人でござるよ」
「にゃー。我は冥王にゃ。旅人では断じてにゃい!」
俺はニャルカのその言葉と同時に、頭から降ろす。
「にゃにゃにゃ」
少し苦手だが、魔力を体に通して身体を強化する身体強化魔法を使う。
「つまらんならお手玉にしてやる」
「ぎにゃー!」
そしてニャルカを頭上に放り投げ、下りてきたらキャッチするを歩きながら続けた。
数分後。
「ふにゃー。目が回るにゃー」
目を回して静かになったニャルカの首根っこを掴んで、俺達は街道を進む。
◇
――夜。
街道の少し外れで、焚き火を囲み、飯を食っていた。
「暇でござる」
近くの森で狩ってきたオークを三体すべて食べた桜が呟く。
「そうだにゃ」
それに便乗して、ニャルカも呟く。いつもより早く野営の準備をしたので、寝る時間にまだなっていないのだ。
「じゃあなにかする?」
「なにかってなにをするでござるか?」
「……王様ゲームだな」
「王様げーむ? それはなんでござるかバベル殿」
桜のその声が聞こえると同時に、エルが唖然とした顔をする。
「バベル君王様ゲームってまさかあの……?」
「あのってなんだ?」
「王様ゲーム。王となった者は民衆にどんな残酷な命令も強要出来る。その昔、これによって国が崩壊したとか……」
「それはちがう!」
それはいったいどんなゲームだ。友情が崩壊しても国が崩壊する事はない!
――お前はそんな残酷なゲームをしようと……。
――なにマジになってんだ! エルの言っているゲームもうゲームじゃないだろ!
――そうか。そうだよな。お前は守銭奴で汚くて鬼畜でもそんな残酷なゲームをやるはずがない。
さりげなくディスるな。
「王様ゲームというのはな――」
「なるほど。そういうゲームでござるか」
「面白そうにゃ」
「なんだ。国が崩壊する要素はどこにもないんだ」
俺が王様ゲームについて説明すると、みんな一息つく。
「面白そうだし、その王様ゲームをやろうか」
「賛成でござる」
「にゃ!」
満場一致で王様ゲームをやる事となった。
「棒に番号と王冠の絵を描いた物を用意した」
ニャルカが持っていた形も大きさもほぼ変わらない棒に番号をふった物を俺は番号を隠す様に握る。
「じゃあやるぞ。引くときは王様だーれだと、言いながら引く」
「うん。じゃあ」
「「「「王様だーれだ」」」」
「お! 我にゃ」
最初の王様はニャルカだった。
「ふーむ。じゃあ、2番は王様の椅子になるにゃ」
「あ! 二番はボクだ」
2番だったエルは、膝にニャルカを乗せる。
「にゃにゃにゃ。良い座り心地にゃー。バベルにゃんて問題ににゃらん」
「ニャルカはフワフワだねー」
座り心地に喜ぶニャルカとニャルカのフワフワな毛に手を埋めるエル。これはwin-winな命令だな。
「「「「王様だーれだ」」」」
「俺だな」
手元には王冠が描かれた棒がある。
――ふむ。どんな鬼畜な命令をするのだ?
――お前の中での俺のイメージはどうなっている。
――鬼畜。守銭奴。勝つためなら何でもする。目の前で女の子が襲われていようと自分のメリットにならなければ見捨てる。孤児が物乞いしていてもスルー。お年寄りがこまっていても華麗に無視する。
――さんざんなイメージだというのは分かった。
「じゃあ、一番が王様に銀貨五枚上納する」
「一番は我にゃ」
ニャルカから金を巻き上げて、棒をみんなから集める。
――さすが守銭奴。遊びでも金を巻き上げるスタイル。そこにしびれないあこがれない。
――褒め言葉だな。
「じゃあやるぞ」
「「「「王様だーれだ」」」」
「あ! せっしゃでござる。むー。では、2番は3番にハグをする」
俺の番号は1番。ということは……。
「ボクが2番だ」
「我が三番にゃ」
美少女が猫を抱きしめるというとても健全な命令を終わらせて、次へ。
「「「「王様だーれだ」」」」
「俺だな」
王冠の棒を引いたのは俺。
「じゃあ、1番が3番を高い高いする」
「1番はせしゃでござる」
「3番は我にゃ……」
はるか夜空からニャルカの悲鳴が聞こえる。桜の力で上空に投げ飛ばされ、桜にキャッチされるを繰り返したニャルカは、クルクルと目が回っていた。
「ひ、酷い目にあったにゃ。我は星ににゃったぞー」
ニャルカはおかしくなったようだ。
――やはりバベルは鬼畜。いたいけな猫を上空になげる様に指示するとは。
マモンがブツブツ言っているが、何時もの事なので気にしない。
その後も『1番と2番がお互いを罵り合う』や『3番は王様にご飯を今度奢る』などなど。さまざまな命令が実行され、夜も遅くなってきたので、最後のゲームをする事となった。
「「「「王様だーれだ」」」」
「ボクだ」
最後のゲームで王様になったのはエル。
「うーん。じゃあ、1番はシュナの粉がたっぷり掛かったオークの串焼きを食べる」
――まさかここでダークホースの登場か。鬼畜というか、まちがえば死ぬぞ。まあ、こいつらが死ぬビジョンが見えてこないけど。
マモンの実況(?)にも熱が入ってきた。
「1番は……」
「せっしゃでござる」
「「「…………」」」
「ドンマイ」
桜なら多分大丈夫。多分ね……。
「これは試練でござるか……」
目の前に置かれた真っ赤な串焼きを前に、桜が呟く。ニャルカも軽く振るだけで、こんなにたっぷり掛かった物を見るのは初めてだ。
「当たって砕けろ!」
桜は串焼きを食べて、――笑顔で気絶した。
「寝るか」
「そうだね」
こうして第一回果てなき夢王様ゲームは終了した。




