第六十六話 零草原と獅子の寝床
俺達は大亀に乗って猛スピードで海を進んでいた。
大亀のスピードはとにかく速い。気を抜いたら吹き飛ばされる位だ。
そんなとき、ふとマモンが話しかけてきた。
――ときにバベル。今は大亀に乗っているから、炎はもう必要ないだろ?
――まあ、そうだな。
――というわけで没収だ。ついでに風魔法も没収していく。
――えー。
――無属性魔法は使えるようにしてやろう。
――えー。
――うるさい。どうせ戦闘はないし、戦闘には使わないだろ!
――えー。ん? ……使わない……?
――そうだ。もんくあるか?
使わない。戦闘につかわない……
――分かったー!
――うるさいぞ!
――ああ、すまん。
――それで、なにが分かったんだ?
――ほら、くろまめ達を図鑑に収納する条件だ。
収納はもう一度呼び出しても魔力はかからないし、維持魔力もかからないことから、俺もなんどか試した事がある。しかし、くろまめ、ちゃきい、でかぽん以外は収納出来なかった。
――それで、なにが条件なんだ?
――まず、名前をつけることかな? と、思っている。
――ふむ。しかし、名前をつけたことあっただろ?
――ああ。
あの時は名前をつけても収納は出来なかった。
――だから、俺はこう考える。二つ目の条件は爆発させるつもりがない爆虫だという事だ。
――ふむ、バベルの仮説は名前を付ける事と、爆発させるつもりがない爆虫だということか。
図鑑にいれておけば維持魔力がかからないし、戦力になるからためした事があったが、あの時は無理だった。そして、くろまめ、ちゃきい、でかぽんにはある共通点がある。名前がある事と、爆発させるつもりがなかったという事だ。
くろまめは様子見で召喚して、乗ることになったし、ちゃきいももともと乗るために召喚した。でかぽんはいつのまにか乗るようになった。と、爆発させるつもりがなかった。
――収納とは、爆発させるつもりがない爆虫をしまう為の機能だと思う。
――なるほど。相棒みたいだな。
――それは言えてる。まあ、俺の相棒はマモンだけどな。
――な、ないをいっている!?
――いや、なんでもない。
――嘘だ! なにか言ってただろう。
――なにもー。
そんな会話をしながら、俺達は海王のナワバリを進む。
◇
「そろそろ着く」
「はや!」
飛び立って数時間。猛スピードで進んでいるとはいえ、早すぎる。
「いくらなんでも早すぎるでござろう?」
「エリカはワープという技をなんどか使っている。空間を飛ばして進んでいたんだが、気づかなかったか?」
「はい」
まるで分からなかった。というか景色は全然見てなかった。
「……最後のワープに入る」
ベゴさんがそういうと、一気に景色が切り替わる。それは劇的だった。海から草原に変わり、涼やかな風が吹いている。
「150年のうちに地形が変わってなければ、ここがアルバス王国とエンシャル帝国の間にある零草原の海沿いだ」
その言葉に後ろを振り向くと、遠くのほうに海が見える。
「広いにゃー」
「ねー」
ニャルカとエルも草原の方向を見てそう言う。
「ここまで送れば大丈夫だろう。知ってると思うが、零草原の中央は近づかない方がいい。【破壊獅子 シクスオン】のナワバリだ」
「それは知っています」
危険な奴とか二つ名持ちの情報はすべて知っている。とくに陸海空の最強は絶対に手をだしちゃだめ。
「分かっているならいい。では、俺は行く」
「え!? もう行くんですか?」
エルが驚きの声を上げる。
「ああ」
「引き止めるのも悪いでござるな」
「ベゴさん。ありがとうございました」
「気にするな。修行のいい息抜きになった。……じゃあな」
「ありがとうございました」
「また会うでござる」
「うん」
「今度は一緒に釣りをするにゃ。我が教えてやる」
「ああ。また会えたら。……こんどは釣りでもするか」
ベゴさんはそう言って、大亀に乗って帰って行った。
「行ったね」
「でござるな」
「にゃは。また会うにゃ。そして、こんどは釣りをするにゃ」
三人とも口々にそう言う。
「行くか。エンシャル帝国に……」
「そうだね」
俺達は草原の中央を迂回するように進む。エンシャル帝国に向かって。
◇
「……どうしてこうなった」
俺達を取り囲む100の黒獅子や銀獅子。刑務所で追い回された黒獅子より、強い気配を纏っている。
「すみませんでしたー!」
俺の前には土下座をした桜。頭を抱えて震えるニャルカ。遠い目をしたエルが居る。
「もう無理だよ。諦めよう。うん」
こんなネガティブなエル久しぶりに見た。
「わ、我にかかれば黒獅子の集団なんて0.1秒で壊滅させられるにゃ」
頭抱えて震えながら言ってもまるで説得力ないぞ。
――ご愁傷様。残念だったなバベル。幾ら私でも、ここから抜け出すビジョンが思いつかない。
――うんそうだね。ほんとどうしてこうなったんだろう。
それはさかのぼる事数十分ほど前――
――ベゴさんと別れて数時間後。零草原のとある地帯。“獅子の寝床”に差し掛かった。そこは黒獅子や銀獅子、金獅子などの、Aランクの獅子が眠る場所だ。そこで眠っている獅子達は音をたてたり眠りを妨げなければ、とくに何もしないという性質を持っている。なので、通るときは獅子を起こさないようにそうっと通らなければならない。
しかし、この馬鹿がやらかした。
事のきっかけは些細な事だった。この爽やかな風が、桜の鼻をくすぐったのだ。ここまで説明すれば後のことはお察し。桜のくしゃみと共に起き上がる獅子達。行動をする暇もなく、囲まれてしまった。
「どうするか」
普通なら震えてなにも出来ないだろうが、俺達の場合もっとヤバイ魔物なんかに遭遇しているからな。蛙とか蛙とか蛙とか。それに、ウルルさんや栄一郎さん。ほかにも凪は100の獅子より強いと思う。
「上空にも逃げれんだろうな」
爆虫の図鑑を召喚するのに1秒。召喚名を叫ぶまでまで1秒。召喚し終わるまで1秒。乗り込むには早くて5秒。獅子達が届かない所まで行くのに3秒。締めて11秒。無理だな。
せめて注意がそれれば……。
「ん? なにこれ」
遠い目をしていたエルがなにかを感じ取った様に中央の方を向く。
「雄叫び……でござるか?」
桜もなにか聞こえた様だ。そして、獅子達も同じ方向を向く。
「よくわからんがチャンス『爆虫の図鑑』サモン『でかぽん』行くぞ!」
唖然としているエルと桜と、震えているニャルカをでかぽんの上に放り込んで、その場を飛び立った。
◇
――零草原中央。
「あちゃー。かこまれちゃったか-」
大きさ三十cmほどのたぬきのぬいぐるみは自分の取り囲む1000の獅子を見ながら呟く。
「んー。まあいいや。目的の物は手に入ったしね」
ぬいぐるみが握っているのはSランクの魔物。王獅子の魔核。
ぬいぐるみは自分の取り囲む1000の獅子に動じず、あっけらかんとしている。
そのとき、どこかから大きな雄叫びが聞こえて来た。
「んー。やばいなー。起こしちゃったかな破壊獅子……」
二つ名持ちを起こしてしまったかもしれないと考え、いままで動じていなかったぬいぐるみも慌てる声をだす。
「さっさと逃げるよ。サモン『戦王車トール』」
ぬいぐるみがそう唱えると、地面に魔方陣が描かれ、一台の戦車が召喚された。
「マスター。ゴ用件ハナンデスカ? ゲームデスカ? 料理デスカ?」
「ちがうちがう。この獅子を殲滅して、さっさと逃げるの!」
「了解シマシタ。今回ハ火竜の魔核ヲ使ワセテイタダキマス」
戦車は一秒ほど沈黙する。前後左右、全ての船体から大砲があらわれ、辺りに群がる獅子達に標準を合わせる。
「発射準備完了。砲撃開始」
そして、赤い砲撃が獅子達を襲った。悲鳴すら上げられず、獅子達は燃えカスとなった。
「殲滅完了シマシタ」
「ありがと! さ、この間に逃げるよー」
ぬいぐるみは獅子達の死体を物ともせず、召喚された戦車に跳び乗ってその場をあとにした。
――人々はこのぬいぐるみの事をこう呼ぶ。“殲滅”またの名を“戦神”のエルニス。世界最強のSランク冒険者である。
後書きに書くこともありませんし、たまには紹介でもします。
戦神のエルニス(他にも殲滅。人形。フワフワ。フカフカ。モフモフ。たぬきたん。といった異名を持つ)
系統 召喚系
200年前から居るSランク冒険者。昔にとある事情でたぬきのぬいぐるみになった。なぜか食べ物は食べられる。もと女の子。
【破壊獅子 シクスオン】
二つ名持ちの中では中堅。
音を使って周囲を攻撃する能力を持つ。その昔、破壊獅子を怒らせた小国が二つとも跡形もなく破壊されたという過去がある。主に零草原の中央で眠っている。蛙とはまあまあ仲良し。




