第六十五話 親切なベゴニア
「お前達。そろそろ夕飯のしたくをするぞ」
空が暗くなってくると、家から出てきたベゴさんがそう言う。
ベゴさんは上半身裸で、銛を握っていた。
「魚でも取ってくるのかにゃ?」
さっきから小さな魚をぽんぽん釣っているニャルカが聞く。
「ああ。このあたりなら宝幸鰹が生息しているからな」
「それはすごいにゃ。アルティメットカジキとならんで幻の魚といわれているあれにゃ? だけど、夜の海にもぐるのはやめたほうがいいんじゃにゃいか? ここらなら絶対夜しか活動しない一口鮫や魔王烏賊が居る気がするにゃ」
「たしかに何回か見かけたが、これも修行の内だ」
なんだろう。ニャルカとベゴさんは相性がよさそうだ。
「気をつけるでござる」
「ああ」
「……それとベゴさん。さっきから気になってんですが、その鱗はなんですか?」
「ベゴさん!?」
服を脱いだから分かるが、体には部分的に鱗が付いていた。
「これは魚人の鱗だ」
「魚人の鱗?」
「俺は魚人と森人のハーフだからな」
「へえ。そうなんですか」
だから耳がすこし尖っていて鱗が付いているのか。
「そんな事はどうでもいい。俺は魚を取ってくるから、しばらく待っていろ」
ベゴさんはそう言って海に飛び込んだ。
◇
「かつおのたたきを作ってやるよ」
十数分潜った後、宝幸鰹という魚を取ってきたべゴさんは、家の中から七輪を取り出しながらそういう。
「おお。たたきにゃ! あれは我の大好物、あの時海で食べた味は忘れないにゃ」
「ああ。俺も鰹のたたきが一番好きだ」
ベゴさんは藁の様な物を七輪に入れながら言う。
「鰹のたたきを作るとき、俺はもっぱらこの海藁を使う」
ベゴさんは藁の束を取り出す。
「海藁は海底に生えている不思議な藁だ。これを数日天日干しにするといい藁になる」
藁を七輪に入れ、横に氷水を用意。三枚におろしてちょうどいい大きさに切った鰹に5本の金串を放射状にさした物をベゴさんは手に持つ。
「たたきはスピード勝負だ。いくぞ!」
ベゴさんは海藁を入れた七輪の近くで、指を鳴らす。すると一瞬魔力が爆発的に指に集中し、火が現れ、藁に燃え移った。
「藁焼きの場合もうすこし大きい七輪のほうがいいんだが、仕方ない」
燃え上がる火にどんどん海藁をくべ、鰹をあぶっていく。そして、ベゴさんもとても楽しそうだ。
「すごい」
「美味しそうでござる」
「ふにゃー」
――プロだな。
「よし、そろそろだな。鰹はすぐさま氷水にさらさないといけない」
あぶり終わった鰹は間髪いれずに用意してあった氷水につける。
「つける時間は二分~三分ほどだ」
ベゴさんは3分ほどつけると、まな板に移して、包丁でスライスしていく。
それをどんどん皿に乗せる。
「酢醤油をかけて完成だ。今は薬味がないが許してくれ」
「いえいえいえいえ。ごちそうしてくれるだけで嬉しいです」
「俺からだせる料理はこれぐらいだ」
「ありがとうございます。そうだ。エルー。確かいくらか保存食なかったけ?」
「うん。あるよ」
「じゃあ、それも出そう」
たたきのほかにも堅ぱんや干し肉をならべる。
「じゃあ。たべるか」
「「「「いただきます」」」」
◇
その後は、ドンチャン騒ぎだった。七輪と明かりが点く魔道具であたりを照らした大亀の上で、おなか減ったとうめく桜にベゴさんが追加で作ってくれたり、ニャルカが釣った魚を焼き魚にしたものの9割を桜に食べられたりと、そのような事があって数時間後。
「それで、バベル達はなんでこんな所に居たんだ? ここは海王のナワバリだぞ」
堅いしゃべり方が取れてきたベゴさんが聞いてくる。
「いろいろあって、ここを通らないといけないんだ」
「そうか」
ベゴさんもツッコんで聞いてこない。
「こんな所に居るのは、ベゴニアさんもですよね?」
とても聞きにくかった事を平然と聞けるエル。そこにしびれるあこがれる。
「……俺は過去の敗者。ただ大きすぎる存在に尻尾巻いて逃げた……いや、逃がされた。俺は、友を強敵の元に置いてきた」
ベゴさんは星が輝いている夜空を見ながら言う。
「俺はもう負けない。だからここで修行している海中最強と名高い海王のナワバリでな。……この亀エリカも50年前ぐらいに出会ったんだ。大変だったぜ。攻撃が碌に通らないし、こいつの一撃は海を割るしな。三日三晩戦っているとな、あいての事が分かるんだ。そして、いつの間にか友になっていた」
「ボオー!」
大亀の事を楽しそうに語るベゴさんに大亀も返事をする。
「まあいい。しかし、そんな強さではとてもじゃないがこの海は越えられない。ここまでこれたのが、奇跡だ」
「そうですね」
大亀から眺めていても、AランクやSランクの魔物がよく海面から顔をだしていたしな。
「……仕方ない。俺が送ってやるよ」
「え!?」
「送り出して死んだりしたら目覚めが悪いからな」
「ありがとうでござる!」
「気にするな」
「……何でそこまで助けてくれるんですか」
「少しさびしかったのかもしれんな。人に会ったのは150年ぶりだ」
150年……。
――150年も危険な海の上で一人で過ごしたのか。
――俺には無理だな。
「……そろそろ寝ろ。もう遅い」
ベゴさんがそう言ったところで、宴会はお開きになり、大亀の上で寝た。
◇
「行くぞ」
朝日が出て数時間後。朝ごはんを食べて、ベゴさんと一緒にエンシャル帝国に向かう事になった。
「どうやっていくにゃ?」
「それは、エリカ。飛行モードだ」
「ボオー」
大亀は返事をし、ゆっくりと浮き上がった。
「これがエリカの飛行モード。かなりスピードが出るから気をつけろよ」
「はい」
「……もしかして、この亀って天空亀?」
「ああ。そうだ」
天空亀? どこかで聞いたことあるような……。
「天空亀はSランクでも上位に位置する魔物だよ。空を飛ぶ亀で、高い防御力をほこる」
そうだ。確か天空亀の魔核は魔道飛行船の燃料になるため、昔のSランク冒険者が狩り尽くして今数が少なくなった魔物だ。魔核の値段は白金貨五枚(約五千万円)もすると聞いたことがある。
「ただし、エリカはただの天空亀じゃない。上異種の宇宙亀だ」
「宇宙亀? 聞いたことがないな」
「当たり前だ。天空亀はあの脳筋に狩り尽くされて、進化した個体を見かける事はまれだ」
それはSランクの上ということか?
「Sランクの上ということは、二つ名持ちでござるか?」
「いや、エリカはそこまでいたってない。ランクはSだ」
「そうなんにゃのか」
Sランク以上のランクはない。なので、Sランクといっても強さはバラバラだ。Sというランクを抜けると二つ名持ちになるが、世界中をさがしても二つ名持ちは二桁ほどだ。まあ、あんな強さのやつがゴロゴロいたんじゃたまらないけど。
「話はこれぐらいにして、行くぞ。たしかエンシャル帝国だったな?」
「はい」
「エリカ。エンシャル帝国に向かって進め!」
「ボオオォォォー」
俺達は頼りになる味方。ベゴさんとエリカという亀と一緒に、エンシャル帝国へと進んだ。
サブタイトルでピンと来た人はいるのでしょうか?




