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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
第五章 月光国編
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第五十四話 死の味

 襲いかかってきた鎧武者のイレギュラーの攻撃を躱して、後ろに回り込む。ローブに隠していた閃光型二匹に集中型、拡散型を三匹ずつ出し、俺の戦闘準備は整った。


 ――奴がイレギュラーだというのは間違いない。特殊能力に気をつけろよ。


 ――分かっている。


 イレギュラーでもっともやっかいな特殊能力。それを暴かないと。

 横にいる桜は商船でパクッたハンマーを構え、イレギュラーに立ち向かう


「主殿。鎧武者のいれぎゅらーは、らんくにして多分えーらんく位だと思います」

「まあ、それぐらいするよな」


 鎧武者のイレギュラー。その雰囲気は、コボルトキングや大蜘蛛のイレギュラーより強そうで、八岐大蛇より弱いといった所。


「Aランクか……。二人での討伐は難しい。これは、逃げた方がいいんじゃないかな?」

「それも手ですが、逃がしてくれそうにありませんよ」


 桜の言葉に周りを見ると、墓地がぐるりと電気の線の様な物で囲まれている。


「閉じ込められた、か。この電気の檻が鎧武者の特殊能力か?」

「多分そうだと思います」


 兜の奥から覗く赤い一つの光は、俺達を見続けている。


「ゴ、ァ」

「ッ。来るか」


 鎧武者のイレギュラーが壊れた機械の様な声をだす。


「ゴ、ゴァァァァァア!」


 鎧武者のイレギュラーは俺達を威嚇する様に叫び、錆びた刀を持ち、襲いかかってくる。

 上から振り下ろしてきた刀をくろまめが右に飛ぶ事で躱す。


「はあ!」


 桜はハンマーを鎧武者に叩きつけるが、まるで聞いてない。


「ゴァァァァァア!」


 怒りを買い、桜は吹き飛ばされた。


「桜!」


 すぐさま桜が吹き飛ばされた地点にくろまめを飛ばす。


「大丈夫か!?」

「大丈夫です」


 良かった。吹き飛ばされた桜には目立った外傷はない。さすが超人だ。


「来ます!」

「ゴァア!」


 こちらに突っ込んでくる鎧武者のイレギュラーを、躱す。桜は夜桜もなく、寝間着なので、全力の力をだしきれないのだろう。動きがいつもより鈍っている。


「ヤバイな」


 桜もハンデを抱え、あのでかいハンマーでも傷一つ付かない。寄生型もアレには寄生させられそうにないし、大型でも通じるか……。


「迷っている暇はない。ロケット型行け!」


 召喚していた四匹のロケット型を鎧武者のイレギュラーに飛ばす。


「ゴアアァ!」


 木をなぎ倒し、地面にクレーターを作り出す威力の爆虫でも、当たらなければ意味が無い。

 鎧武者のイレギュラーは刀を器用に使い、ロケット型の羽ねを切り飛ばす。羽がなくなり、動けなくなった爆虫は地面に落ちて爆発した。


「ロケット型だと届かない。サモン『大型』」


 大型の爆虫を召喚し、待期させる。残り魔力は150。これをどう使うか。


「主殿。行きます」

「分かった」


 桜はハンマーを構え、鎧武者のイレギュラーに向かって突き進む。


「ゴアアアアア!」


 ハンマーで一回叩き、桜は離れる。すると、桜が鎧武者のイレギュラーに攻撃した場所に刀が打ち込まれる。


「大型!」


 桜によって気を引かれた所に、後ろから大型の爆虫を飛びつかせる。


「爆破」


 鎧武者のイレギュラーの後ろに取り付いた爆虫は、轟音を立てて爆発した。


「ゴアアアアアアアア!」


 最高火力を持つ大型でも、鎧武者のイレギュラーに傷一つ負わせられず、余計に怒らせただけだった。


「ぬ、主殿」

「これは、本格的にやばい状況だ」


 どんな攻撃も傷一つ付けられず、家からも遠く離れた墓地。電気の檻に閉じ込められ、外へ救援も出来ない。


 ――バベル……。


 ――これは、積んだかもしれん。あの炎を受け取っても無理か?


 ――大型を最高火力に調節して、赤の炎を纏わせても難しい。というかお前にはコボルトキングの時より上の炎はまだ早い。


 ――そんな。……コレが、Aランクの実力。


 ただBランクから一段上がっただけなのに、遠すぎる。実力が離れすぎた。あいつも一応二足歩行。ニャルカが居れば……。


「ン、ゴア。ゴアァァァァァア!」

「主殿!」

「あんな事も出来るのかよ」


 鎧武者のイレギュラーは電気の檻を自分の纏わせて、檻の鎧とした。


「ゴアアアアアアアア!」


 刀にも電気を纏わせ、俺達に向かって斬りかかってくる。


「くろまめ、避けろ」

「ププ!」


 くろまめに指示して、攻撃を避ける。すると、今まで居た地点に電気を纏った刀が通りすぎる。


 ――あぶねー。数秒遅かったら死んでたぞ。


 ――お前が居なくなっても私は新たな宿主を探すだけ。存分に当たって砕けろ。


 ――砕けちゃ駄目だろ! それに、新たな宿主を探すって、俺の所ほどホワイトな企業はないぞ。


 ――報酬なしの癖になにを言っている。


 ――ははははは。おっと来る。


 俺の居る場所に、さらに刀が通り過ぎる。俺が指示を出さなくても、ある程度自分で判断して回避するくろまめは凄い。


「主殿! どうしましょう」

「外に助けを呼べないか!」

「無理ですね。そうだ! 主殿の爆虫に……」


 桜がそう言った瞬間。電気の檻に、編み目がなくなった。


「……本当に閉じ込められた」

「主殿。本当に鎧武者は暴走しているのでしょうか?」


 たしかに、桜が爆虫で助けを呼ぼうと言った瞬間に完全に閉じ込め、眼が赤いが、それでも知性がありそうだ。


「暴走するのではなく、一歩一歩追い詰めていく感じだ。相手の手札をつぶして、完璧に殺すような……」

「ッッ。来ます」


 膠着状態に入っていたが、鎧武者のイレギュラーは刀を持って、見切れない速さで俺に突っ込んでくる。


「ゴアアアアアアアア!」


 鎧武者のイレギュラーにとって、勝ちはもう決まったようなものかな。こちらは有効な攻撃手段がなく、魔法もマモンの炎も通じそうにない。かといって、外に助けを呼ぶことも出来ない。


 物語の主人公なら、ここで一発逆転の発想をひらめいたり、ピンチの時は覚醒したりするだろう。俺は矢っ張り変わらないのかな――。


「ゴフッ!」


 アレ? なんだろう。風の通りが良いな。なんだろうこの血は。なんだろうこの悲鳴は。なんだろう。なんだろう。なんだろう。なんだろう。なんだろう。なんだろう――ああ。これは俺が死んだときと同じだ。分かった。これは死の味……。

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