第五十話 人類滅亡の危機はいつのまにか終わっていた
『アレから千年。永かった』
月光国の試練の森の上空で、皮と骨だけの魔物。終焉の魔物はそう叫んだ。
『大賢者! よくも封印してくれたな! だがしかし、俺は解き放たれた』
終焉の魔物。それは1000年前、古代文明を攻撃し、当時最強と言われた大賢者にボコボコにされた小物の事だ。しかし、侮ってはいけない。終焉の魔物は現在で言うところの二つ名持ちに片一歩突っ込んだ魔物だ。今解き放たれたら大変な事になるだろう。
『八岐大蛇の体内に封印するとは、あいつ人間じゃねえな。ま、あいつも千年たったら死んだだろう。今度こそ人類を滅ぼしてやる! 破壊、崩壊、損壊、撲滅。人類かいめーつ!』
終焉の魔物は五つに分裂すると、世界を滅ぼす為に飛び立った。
◇
終焉の魔物。それは人間。獣人、森人、小人魚人などを滅ぼす為に生まれた魔物だ。破壊に特化し、人々に絶望を振りまく。そのような魔物。
『見える、見えるぞ!』
終焉の魔物はエネルギーを補給する為に、とある森に降り立った。
『あれは下位竜。俺の、養分となれー!』
終焉の魔物の分裂体が降り立った場所は、ドラゴンが棲まう森、超級危険地帯“竜の森”だった。
『美味い-!』
終焉の魔物は下位竜や上位竜を百匹ほど食い荒らしていた。下位竜も上位竜もAランク、Sランクの魔物だが、終焉の魔物の前では無力だった。終焉の魔物が竜を食い、エネルギーとする。
『グルアアアアアー』
終焉の魔物が竜を食い荒らす様子を見て、この区域のボス。最上位竜が飛んできた。
『竜竜竜竜竜。竜は俺の養分だー』
終焉の魔物がそう叫び、皮だらけの体から数百物触手を生えさせる。その触手を最上位竜に絡ませて、一気にエネルギーを吸い取った。
そして、この区域のボスも、悲鳴を上げられず死んでいった。
『ふはははは。滅ぼす。人人人人人』
長い年月でパワーアップを果たした終焉の魔物は、過去に封印した大賢者でも討伐は難しいだろう。それは、人間には討伐不可能と言われたも同然。終焉の魔物を止められるのは同じく二つ名持ちに片足突っ込んだ魔物か、本物の二つ名持ちぐらいだ。
『暴食、悪食、美食、快食。養分養分養分だー! 俺は、人類どもを滅ぼすー!』
皮と骨だけだった体は生気を取り戻し、10mもの長い体へと変化した。
『近くに大量の人間。全滅、絶滅、壊滅。人間を滅ぼ…………』
終焉の魔物は、その言葉を言い切ることも出来ず、跡形もなく消滅した。終焉の魔物は怒らせてしまったのだ。この森の主。【古代竜王 エンシャントドラゴン】を……。
1㎞ほど離れた森の奥深くで、少し口を開いた古代竜王は、数秒遠くを見つめた後、再度眠りについた。
終焉の魔物を消滅させたのは、古代竜王の吐息並のブレスだった。
◇
――エンシャル帝国付近の海域。
終焉の魔物の分裂体、その二つ目は、海の中を進んでいた。目に着く魚は片っ端から喰らい、養分にしていく。
『魚類、貝類、俺のエサ-。食事はキッチリおかなきゃ』
海を悠々と進む終焉の魔物は、誰にも止めることが出来ない。海に棲むBランクやAランクの魔物も何も出来ず食い散らかされる。
『そろそろ回復したかな』
海の魔物を1000匹ほど食い散らかした終焉の魔物は、生気を取り戻し、完全体へと回復した。完全体の見た目は龍だ。海を泳ぐ終焉の魔物は、ウミヘビにも見えるだろう。
『んあ? 回る?』
そして、終焉の魔物は立ち入ってしまった。超級危険地帯“渦潮の墓場”に。文字通り入ったらそこが墓場になる事から名付けられた危険地帯。渦潮には細切れになった魔物の死体が回っており、終焉の魔物もすぐにあのようになるだろう。
『死亡、滅亡、俺死亡? ひゃひゃひゃ』
終焉の魔物は狂ったように叫びながら、体がどんどん削られていく感覚に意識を飲まれ、その数分後に跡形もなく消えさった。
終焉の魔物は気付かなかった。渦潮の墓場の下で、じっと見つめる黒い影の事を。渦潮の墓場は移動する危険地帯。それを動かしているのは、【海王 ビッグバンホエール】海中最強の二つ名持ちである。
◇
分裂体の三体目が降り立ったのは、とある山頂。しかし、終焉の魔物はそこで養分を摂取出来なかった。そこに居たのはレオストーンゴーレムや、グレートゴーレムなど、岩で出来た魔物の住処だからだ。
『摂取不能。俺の養分がない』
終焉の魔物も、養分に為らない魔物を狩るほど暇ではない。しかし、襲わないからといって、ゴーレム達が見逃してくれるかは別問題。
『ンマアアアアー!』
ストーンゴーレム達はそこに居る不純物、終焉の魔物に襲いかかる。
『うるせえ』
終焉の魔物は触手を出し、ストーンゴーレム達を破壊する。
『ひゃひゃは。絶望、希望、信望、人望、全て喰らうー』
終焉の魔物は襲いかかってきたゴーレムを破壊し、その魔核だけ喰らう。10分後、山頂に居たゴーレムは全滅した。
『ひゃひゃひゃ。壊滅、崩壊、塵芥、地階、深海。人人人』
そう叫び、飛び立とうとした終焉の魔物は、突然変な空間に飛ばされた。
『ん? 空間? 違和感、ど、こ、だ』
そして、その言葉を最後に、終焉の魔物は空間に押しつぶされた。
それを確認出来たのは、押しつぶした張本人【覇道門 リミットオーバー】だけだった。
◇
――ガルハ王国、その砂漠。
分裂体四体目が降り立った場所は、砂漠の国ガルハ王国のオアシスだった。
『カラカラになるー』
砂漠の熱は、元々骨と皮だけの終焉の魔物にはきついのだ。
『水ー!』
そして、終焉の魔物が近くに在ったオアシスの湖に飛び込むのは自然な事だった。
『水分、食分、塩分。俺の回復に必要だー』
終焉の魔物は湖を泳ぎながら、水を飲み込む。
『そろそろ。行こう。食って回復したら、人間狩り-」
終焉の魔物が水をたっぷり吸った体で、砂漠の魔物を狩ろうとして、そのすぐ後、体を吹き飛ばされた。
『目標の爆散を確認。帰還します』
終焉の魔物を攻撃したのは、【暴走兵器 エクス・マキナ】狂信者である。
『お客様を待っているので、余計な仕事は増やさないで欲しい』
暴走兵器は人間味のある声でそう喋った後、古代遺跡に帰還した。
◇
『な! 全滅だと!』
終焉の魔物の本体は、世界に放った分裂体が全滅した事に焦った声をだす。せっかく目覚め、これから人類を滅ぼそうという時に、分裂体が全滅しては、能力も五分の一になってしまう。
『しかたない。少し休もう。休眠、快眠、惰眠、仮眠。少し休息ー』
終焉の魔物はエンシャル帝国のとある森で、少しの休息に入った。




